問いかける者と答えようとする者
ミュリエ村・中央会議棟。
この日、久しぶりに外部からの訪問団が姿を現した。
その顔ぶれの中には、五輪評議会の若手補佐官や、王都工術学院の代表者、
そして――クロード・ヴェイルの名代とされる、初老の男の姿もあった。
彼らは公式には「命の倫理的再検証」のための視察と説明したが、
ミュリエの誰もがそれを**“選別の再開”**と理解していた。
会議棟の空気は冷たかった。
ミュリエ側の代表はエリス、フェルナー、アリア。
リュミエと、シェイドも会場の端に控えていた。
開会の辞のあと、名代の男が口を開く。
「我々は、“ゼロ”――今のリュミエ殿を命として受け入れた経緯を、
重大な転換点として評価しております」
「ゆえにこそ、次に問いたいのです。
“同様の形式で再稼働された存在”――即ち《NS-04》改めシェイド氏が、
同等の“命”として認められるかどうか」
その声に、会場がわずかにざわついた。
だが、アリアは静かに立ち上がる。
「問うのは構わない。だが、答えはすでにこの場にいるわ」
彼女が示したのは、リュミエだった。
そして、リュミエはそっと前へ歩き出す。
触感板に、はっきりと文字を記す。
「ボクハ マモリタイ」
「コレ ハ コエ ヲ モトメタ コ」
「キミタチ ノ モノジャナイ」
静まり返る会場。
クロードの名代は眉をわずかに動かしたが、表情を変えずに言う。
「“命とは自己の輪郭を認識し、自己の選択を持つ者”と定義されております。
シェイド氏がそれに足る存在かどうか……その判断は、“模倣”の域を出るか否かにあります」
そこで、シェイドが立ち上がった。
言葉は発さない。だが、ゆっくりと自ら触感板に魔力を送り込む。
浮かんだ言葉は――
「ワカラナイ」
さらに、その次。
「ダカラ マナビタイ」
「ボクハ ナマエ モラッタ」
「イマ ソレ ヲ マモリタイ」
その瞬間、記録員たちがざわついた。
自発的な言語表現。自己定義の試み。
“理解しようとする意志”――
リュミエが小さく微笑み、隣に並ぶ。
「シェイド ハ コタエヨウ トシテイル」
「マエニ ボクガ ソウシタヨウニ」
エリスが最後に口を開いた。
「命を定義することは、制御することではありません。
命とは、“問いかけ、答えようとするその姿”に宿ると、私は信じています」
「この子たちがその問いを続ける限り、命は“続くもの”なのです」
名代は長く沈黙し――やがて、立ち上がって一礼した。
「本日の記録は評議会へ提出され、再審の対象となります。
だが、私は確かに見ました。
“問いかける者”と、“答えようとする者”が、ここにいたことを」
その夜、村の空は晴れていた。
シェイドはまだ“未熟な命”かもしれない。
けれど、確かに歩き始めていた。
誰かの定義ではなく、自らの意思で“命”になろうとしている。




