歩幅を合わせて生きていく
昼下がりのミュリエ。
日差しは柔らかく、風がほんのり涼しい。
広場では、炊き出し班が昼食の準備を進めており、
その一角にはリュミエとレオンの姿もあった。
「ほら、これ運ぶの手伝ってくれ。重くないから」
レオンは鍋のふたを押さえながら言い、リュミエに魔導保温器の台座を差し出す。
リュミエは頷くように一歩踏み出し、慎重に両手で受け取る。
その動きに無駄はなく、着実だった。
「すごいな、あんた。もう俺より動けてるじゃん」
リュミエの触感板が小さく光る。
「オボエル ノ タノシイ」
ふと、そのやりとりを見ていたアリアが笑いながら声をかけてくる。
「いいペアじゃない、あんたたち。なんだか見てて微笑ましいわね」
レオンは照れくさそうに頭をかいた。
「いや、別にそんな大げさなもんじゃ……でも、まあ……うん」
リュミエはそっと触感板をアリアに向ける。
「アリア ノ エガオ ホットスル」
アリアが目を細めた。
「ありがとう。あんたのその言葉、前よりずっとあたたかい」
午後になると、広場では子どもたちが木彫りの遊びをしていた。
リュミエとレオンが通りかかると、子どもたちが一人、リュミエに手を振った。
「リュミエ! これ、手伝ってー!」
呼ばれたリュミエは少しだけ戸惑ったが、すぐに膝を折ってそばに寄る。
木の人形の足が外れかかっていた。
リュミエは指先で慎重に確認し、魔導糊で静かに補修を始めた。
その動きは、まるで何かを包むように、やさしかった。
子どもが目を見開いて言った。
「……やさしいんだね、リュミエ」
リュミエは一拍置いて、触感板に記した。
「マナンダ ノ ナカニ キミタチ ノ エガオ アッタ」
その言葉に、周囲の空気がふわりとやわらいだ。
夕刻、広場の灯がともりはじめる。
レオンとリュミエは並んで歩いていた。
歩幅は微妙に違うけれど、気づけば自然に揃っていた。
「お前ってさ、歩くの上手くなったよな。最初はなんか、ロボみたいだったけど」
リュミエの触感板が、即座に反応する。
「ロボ……? ソレ オカシイ?」
「ちがうちがう、いい意味で。ていうか今、ちゃんと“揃って歩いてる”って思っただけ」
リュミエは立ち止まり、ゆっくりとレオンの歩幅に合わせて一歩踏み出す。
そして板にこう記した。
「マエヲ イッショニ アルク」
夕暮れの空に、ふたりの影が並ぶ。
それは“特別な関係”ではない。
けれど確かに、“一緒に生きていく”という選択だった。
その夜、ネイが報告書の端にこう記す。
「リュミエは、今や誰かと歩幅を合わせられる存在になった。
それは、生きていくうえで一番難しくて、一番尊いことかもしれない」




