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仮面の微笑、再び

通信は予定にない時間に割り込んできた。

 ミュリエの外交戦略班が東方連邦への交渉準備を進めていた最中のことだった。


 


 映像が切り替わると、そこにいたのは一人の男。


 漆黒の礼装に身を包み、淡い仮面を左半分だけ残した顔。

 ――クロード・ヴェイル。

 《黒き輪》の“語り手”であり、“歪んだ正義”を持つ冷徹な扇動者。


 


「お元気そうで何よりです、エリス様。

 貴女の演説が、いくつかの心ある人々に届いたこと、私も嬉しく思いますよ」


 


 彼は静かに微笑み、言葉を続けた。


「けれど、そうやって“心”に訴えるやり方が、どれだけ不確かかも――ご存じでしょう?」


 


 通信室にいたエリス、アリア、リィナ、クラウス、フェルナーは無言のまま画面を見つめていた。

 クロードの“言葉の戦争”が始まると、誰もが感じていた。


 


「感情は美しい。だが、操作もできる。信念は強い。だが、壊れもする。

 ……私たちはそれを、“歴史”と呼んで幾度も見てきました」


 


 クロードの背後には、《黒き輪》の旗が揺れていた。


 漆黒の円環。その中心には、誰の名も、思想も書かれていない。

 それが彼らの“論理”だった――選ばれた構造こそが秩序であり、個は不要であるという冷たい思想。


 


 エリスは席を立ち、マイクのスイッチを入れる。


「……貴方は、何がしたいの? 世界を変えたいのなら、正々堂々と出てくればいい。

 なのに、貴方たちは“声を持たない人”を利用して、背後から壊す」


 


 クロードは目を細めた。


「正々堂々? 面白い言い方です。

 では問います、エリス様。貴女は“理想を語る限り、誰も失わない”と信じていますか?」


「信じてはいない。私は――“それでも語る覚悟”を持っている」


 


 沈黙。

 数秒の間、クロードの笑みが消える。


 


「……なるほど。では、試してみましょう。

 貴女が“どこまで理想を貫けるのか”。

 いずれ、必ず――“選べない者”が目の前に現れます」


 


 彼の言葉には含みがあった。

 ただの抽象論ではない。まるで、何かを“仕掛けてきている”かのような――そんな予感。


 


「忠告しておきましょう。

 この戦いは、“理”と“感情”のどちらが勝るかではありません。

 ――“誰が、先に折れるか”の戦いです」


 


 通信は突然、切断された。


 


 重苦しい空気の中、フェルナーがつぶやいた。


「……あいつ、何か仕込んでやがる。

 “選べない者”って言い方……誰かを人質に取る気か、それとも――」


 


 アリアが冷静に整理する。


「情報工作も考えられる。“理想の失敗”を捏造して、味方の信頼を折る手口もある」


 


 エリスは静かに頷きながら、拳を握りしめた。


「……どんな形で来ても、私は“答える”。

 理想を語った者として、“覚悟”を持って向き合うわ」


 


 その声は、震えていなかった。

 だが、その奥には確かに、“試される未来”への緊張があった。


 


 その夜。

 村の外れにある古い風見塔の上に、一羽の鳥型魔導端末が小さく羽ばたいた。


 それは《黒き輪》の観測機――

 そして、次なる動きの“予告”だった。

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