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悪役令嬢再び王都へ

 その手紙は、銀色の封蝋で封じられていた。


 送り主――王国中央議会。

 差出人の名の欄には、はっきりとこう記されていた。


 「王国代表特使 レオナルド・フォン・グランフェルト」


 


 ミュリエ村・研究棟応接室。


 エリスは静かにその文面を読み、やがて机に置いた。


「……ついに来たのね。公の“招請”」


「出るつもりか?」


 クラウスが問う。

 その顔には迷いも怒りもない。ただ、深い覚悟と警戒がにじんでいた。


「王都議会が開かれる。内容は“連盟における王国の立場の再定義”と、“研究の倫理的再審査”――

 要は、“私に白日の下で説明させ、屈させる場”を用意したってわけね」


 


 マリーが不安げに言葉を挟む。


「危険じゃないですか? あの場所は……エリスさんが追放された、その……」


「ええ。私にとって、あそこは“始まりと終わりの場所”。

 でも今なら、“続き”を語ることができる気がする」


 


 アリアが静かに進み出る。


「行くのなら、私も同行します。王国の議会、あの空気は一度でも経験しておくべきです。

 何より、“あなたを一人にはしない”と決めましたから」


「ありがとう、アリア。……本当に、強くなったわね」


 


 そして、数日後。


 王都・グランフェルト。

 長き階段を越えて、議事堂の正面に馬車が停まった。


 衛兵たちが無言で敬礼するなか、扉が開き、一人の少女が静かに足を踏み出す。


 深紅のドレスに、白金の髪。

 威厳と優雅さを併せ持ち、周囲の視線を一瞬で引き込んだその人物こそ――


 エリス・フォン・ベルグランド。


 


 かつて“悪役令嬢”と呼ばれ、王都から追放された少女が――

 今、堂々と“未来を示す者”として、この地に戻ってきた。


 


 議場には、百を超える議員たちが列をなしていた。

 かつて彼女を非難した者、恐れていた者、そして今は立場を変えようとする者たち。


 壇上には王国宰相、そして中央に座すのは――“復位”を控えたレオナルドだった。


「――エリス・フォン・ベルグランド殿。

 貴殿は本日をもって、“王国連携代表顧問”として議会へ出席を求められる。

 我らは、あなたの見解を求める。過去と、未来に対する責任を含めて」


 


 その言葉を、エリスは正面から受け止めた。


 そして、一歩前へ。


「……私はこの場に、贖罪をしに来たのではありません。

 私は、誤解をただし、真実を示しに来ました。

 かつて私が追い求めた知は、“秩序を壊すもの”ではなく――“命を救う力”だったということを」


 


 会場が静まり返る。


 その沈黙の中、彼女は迷いなく言葉を続けた。


「王国が正義を語るなら、私はその正義に問いかけます。

 “誰のための秩序か”“誰を守る正義か”。

 その問いに答えられないなら、私たちは、ただの暴力を形にしただけにすぎません」


 


 その言葉が、確かに揺さぶった。


 誰かが拳を握り、誰かが視線を伏せ、誰かが、拍手をした。


 


 壇上で、レオナルドは静かに微笑んでいた。


(そうだ……それでいい。君が、君の言葉で王国を揺らせ)


 


 こうして、ミュリエの技術は“異端”ではなく“希望”として議論にかけられ、

 第一部の幕は――“語り直された真実”とともに閉じられる。


 


 だがその裏で、王国議会の最上階。

 今は使われていない塔の一室で、一人の男が静かに呟いていた。


「エリス……やはりお前は、“世界を変える”器だったか。

 だが、“世界がそのまま終わってくれる”と信じてはいけない」


 


 彼の名はまだ明かされない。

 ただ、その背には、かつてエリスと共にあった研究記録が、封も解かれず積まれていた。

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