第96話 フィッツを取り巻くあれこれ
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第96話 フィッツを取り巻くあれこれ
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僕はフィルペッツ。今はフィッツと名乗っている。
毘沙門党の一員として、多くの子供たちと共同生活をしている。
僕はいつも母と二人きりだった。だから、こういう大勢との共同生活はとても新鮮で楽しい。
でも、僕には皆に言えないことがある。ボスに知られたら粛清されるようなことだ。だから、ボスや他の子供たちに知られないようにしている。
「おい、フィッツ。ここに石を撒いてくれ」
「はい!」
レンドルさんに命じられ、整地された道に石を撒く。僕の魔法は石だから、今は街道整備に従事している。
レンドルさんはとても優しい。他の子供たちも皆レンドルさんを兄のように慕っている。僕もレンドルさんが好きだ。
そんなレンドルさんに隠れて僕は裏切り行為をしている。それがとても辛く、心が痛い。
僕の家名はアシャール。そう、ジール州でソルバーン家に最後まで抵抗しているアシャール家の者なんだ。
僕は現当主ベルフェン様の弟のクラインの子として産まれた。母は農家の娘で側室ではなく妾だった。僕は所謂庶子と言われる家を継げない子だ。
僕と母は小さな屋敷で暮らしていたのだけど、僕が八歳の時に人里離れた小さな家に移された。父クラインはその家に一度も訪れることなく五年ほどが過ぎたある日、父の使者が現れて僕を連れ出した。
父は僕にある使命を与えた。もう分かると思うけど、ノイス・シュラードとその配下を調べろというものだ。
僕は孤児にふんして毘沙門党の一員になった。そこで体が細いからたくさん食べろと言われた。食うや食わずの生活をしていた僕にとって、それは衝撃的な光景だった。多くの子供たちが、毎日しっかりと食べさせてもらえるのだ。
庶子とはいえ、領主の一族の僕でさえまともに食べることができなかったのに、ここでは美味しい食事が三食も出て、お腹いっぱいになるまで食べていいのだ。
温かい寝床と綺麗な服も与えられた。夏は毎日水浴びか風呂に入る生活になった。毘沙門党の皆はボスを神様のように崇めている。僕もボスが神様のように思えて仕方がない。
でも、僕はそんなボスを裏切っている。ボスや皆の情報をアシャール家に流しているのだ。といっても、アシャール家ではあり得ないくらいいい暮らしをしているというものや、毘沙門天様という神を信仰して魔力を捧げているということくらいだけど。
父との繋ぎをしている人は、大した情報がないことに暴言を吐くこともある。いや、いつも吐いている。
父の子ではなく、孤児として扱っているのだ。それが父の本心を表しているようで、僕はとても悲しい。
でも、父が僕を必要としている限り、僕は父のために働く。それが母を守ることになるのだから……。
「おーい、フィッツ! ここに石を頼むー」
「はーい」
毘沙門党の子供は、なぜか魔力が増えている。魔力は生まれつき量が決まっていて、増えることはない。それは僕でも知っていることなのに、毘沙門党員は皆魔力が増えているんだ。僕以外……。
やっぱりボスを裏切っているからなのかな。毘沙門天様がそれを見ていて、僕の魔力を増やさないようにしているのかもしれない。僕は神様を怒らせているのだろうか?
昼の仕事で何度か魔力を使い切った僕は、気分が悪くなって休んでいた。そこにボスがやってきた。僕は立ち上がって、頭を下げた。
「お前、フィッツだったな。そんなに改まらなくていいぞ。俺たちは同じ毘沙門党の仲間だ。家族と思ってくれ」
家族……。ボスは僕を家族と言ってくれる。そんなことを言ってくれた人は、母しかいなかった。なんか胸が熱い。あれ、どうしたのかな、涙が……。
「おい、大丈夫か?」
「ひゃひひゃいひょうふでず(はい大丈夫です)」
「なぜ泣くのかよく分からんが、辛いことがあるのなら、聞いてやるぞ。解決できるかは分からんが、言うだけでも心は軽くなるものだ」
言えたらどれほどいいか。でも僕が裏切ると、母が殺される。絶対に裏切ることはできないんだ。
もうすぐ秋だという晩夏の頃、俺は屋敷内で魔力干渉の訓練を行っており、中庭にある大きな石を動かそうとしていたところだった。そこにエグルがやってきた。
「ボス。詳細が分かったぞ」
「そうか……」
フィッツは十日に一度、繋ぎを取っている。その相手はすでに分かっている。アシャール家だ。
アシャール家は俺を探るためにフィッツを送り込んだ。フィッツは悪いヤツじゃないと思うが、敵の可能性が高い。残念だ。
アシャールがどんな目的で俺のことを探っているのか、考えなくとも予想はつく。だが、俺は背後関係をハッキリさせるために、エグルの第三部隊に調査を頼んだ。
胸糞が悪い話しだ。
俺は大きく息を吐いて……。
「アシャールを丸裸にしてくれ」
「分かった」