第95話 俺を頼るのは止めなさい
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第95話 俺を頼るのは止めなさい
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夏も終わりに近づいたある日、初春から始まったソト港の拡張工事が完了した。やはり魔法があると早い!
交易には困らない良港だったが、軍港となると困ることが多かった。
大型戦船・ラベルダを寄港させるには不都合だった。だから拡張した。
大型戦船・ラベルダを建造できる造船工房も軍港に併設させた。
来年は別の場所に軍港を造る。そこは一から造り、海軍のための港にする。造船所もそうだが、リスクは分散させるに限る。一カ所になにもかも詰め込むと、そこが機能不全になった時に困るどころではないからな。
「スライミン姫。稽古の相手を頼むよ」
「すぐに支度しますわ」
お、今日は大正女子っぽい袴姿だな!? いつもはクラシカルな洋装だが、袴姿も凛としていいな!
この袴は俺がデザインして作ってもらった服だ。まるでハイカラさんのようで、スライミン姫もクラリッサもとても可愛いんだよ。フフフ。
静から動。一気に間合いを詰め、俺たちが木刀を合わせる。
身体強化なしで打ち合うと、やはり後手に回る。だが、刀術を学んでいるのだから、これでいい。
スライミン姫の木刀が肩を掠める。ここで痛がったり顔を顰めると、当たったと思われるので平然としている。
スライミン姫も当たったか当たってないか、分からないようだ。それほど微妙なものだ。
三十分ほど打ち合ったか、お互いに激しい息遣いで噴き出すような汗だ。
「ふー。いい稽古だった。ありがとう、スライミン姫」
「わたくしもよい稽古になりましたわ」
「ノイス、次は私ね!」
袴姿で木刀を二本持ったクラリッサがいい笑みを浮かべている。
「よし、こい!」
妻は平等に扱うのが、俺の主義だ。光源氏みたいに、食ってからポイッとはしない。まだ食ってないけどな!
クラリッサもいい動きをする。だが、スライミン姫ほどの背筋に冷たいものを感じる鋭さはない。
今回は俺は終始押し気味で稽古を打ち合うが、二本の木刀は変幻自在で捌くのが面倒だ。ここに魔法が加わると、クラリッサは手がつけられなくなる。
「ふー。クラリッサの剣もかなり成長しているな」
「ぶー。ノイスに勝てないよー」
「ハハハ。簡単には勝たせないぞ」
そんなわけで、三人で風呂に入って汗を流すことになった。俺は一人で入りたかったのだが、二人が強引に入ってくるのだ。もちろん、肌着は着ている。
二人で俺の体を洗ってくれる。マジ、ヤベー。オジサン、理性が飛びそうだ。
「ウフフフ」
スライミン姫が不意に笑った。
「どうしたんだ?」
「やっぱり当たっていたのですね」
スライミン姫が俺の肩を指でなぞる。どうやら掠った痕が残っていたようだ。
「手応えはあったのですが、ノイス様が平然としていましたので勘違いかと思ったのですよ」
「痛くても痛くないと思えば、痛くないものだよ」
「もう、ズルいです」
「ハハハ」
「むぅ。私は当ててないのにー」
「クラリッサもいい動きだったよ」
「本当に?」
「本当だとも」
「えへへへ。いい動きだったんだー」
体を洗ってもらったら、俺一人で湯舟に浸かって疲れを癒し、今日の動きの反省点を改善できるようにイメージトレーニングをする。
今年も多くの子供が俺の元にやってきた。ソルバーン家の支配地域が増えたことで、集めやすくなったのもあるんだが、今のところその数が減ることはない。
俺はソルバーン家の領内で、内政を推奨し、雇用を創出してきた。それでも他の土地から捨てられたり売られた子供たちがジール州にやってくるのだ。
奴隷商人は俺が子供を引き取っていることを知っているので、結構な売り込みがある。
子供を捨てる親も、ソルバーン領なら子供が生き残れると言い聞かせているらしい。
現在、毘沙門党の子供たちは七百人を超える。秘密結社のようなつもりで組織したのだが、ソルバーン家内では周知の事実になってしまっている。
まあ、ここまで人数が多くなると知られて当然だし、タタニアやホッタンなどの活躍があるからな。
そんな大所帯になった毘沙門党の中でも頭角を現しているのが、コンタだ。
コンタは俺が海岸で拾った子で、契約魔法の使い手だ。最初は言葉も拙く、文字の読み書きどころの話ではなかった。それが文字の読み書きと計算などができるようになり、最近では毘沙門党の中でもリットに並ぶ頭の回転を見せる。
おかげで文官として毎日忙しく働いてもらっている。コンタの契約魔法は、文官の仕事ととても相性がいいので、文官のエースだよ。
「ノイス様。サムラート・ライデム様から申請がありました、アストン城の城壁補修の予算ですが、些か少ないように思います。見直しを指示されるのがよろしいかと」
これがあの(どの?)コンタなのだ。俺もそうだが、皆が驚いている。
「申請された予算が少ないと文句を言うのは、お前くらいなものだな。ハハハ」
「いい加減な補修工事をされては、また追加で工事をしなければいけません。ここでしっかり補修工事をすれば、無用な費用が抑えられ、結果的に安く済みます」
計画書と予算表を見比べる。たしかに予算が少ない気がする。こういったことに気づけるのは、魔法とは関係のない才能だと、俺は思う。こういった人材は貴重だ。
「分かった。見直しを指示する。今後も気になることがあったら、ドンドン言ってくれ」
お手柔らかにお願いします。
「はい!」
その日の午後にあった会議で、サムラート・ライデムに予算の見直しを指示する。
不思議そうな顔をしたサムラート・ライデムに、見直し理由をこんこんと説明をする。だが、首を傾げるばかりだ。昔ながらの騎士はどんぶり勘定でいかん。困ったものだ。
せめてニュマリン姉さんの夫のクラウドさんが脳筋騎士にならないことを祈ろう。(合掌)
「すまんが、ノイス殿のところの子で、そういうことができる子を派遣してもらえないだろうか?」
「……分かりました。人選して派遣します」
丸投げしやがった!?
その後、アラム領内の麦の育成状態が悪いと報告を受ける。ソルバーン家の直轄領、シュラード領、シュバルクアッド家の領内は開発を進めているし、肥料もこちらで作ったものを配給している。おかげで麦の育成は順調で、このまま天災がなければ豊作になる見込みだ。
アラム領はまだ開発が進んでおらず、さらに肥料も配給していない。さすがに生産力に限界があるので、アラム領は後回しだった。
「一番の問題はルーシュ川がよく氾濫するのです」
ヒルク・アラムが自領を分断するように流れるルーシュ川がよく溢れることを訴えた。
ルーシュ川は結構大きな川で、アラム領やその下流ではよく氾濫するらしい。
―――だから何?
川が氾濫するなら治水に力を注げばいい。それをアラム家が主導してやればいいと思います!
そもそも、こういう問題が上がってくるから、アラムの取り込みには否定的だったわけよ。
「ノイス。治水をできないか?」
いや、俺に言わないでよ、トルク様。ここはアラムを引き入れた他の騎士たちに言ってほしいよ。
あんた(騎士)たちも俺を見るんじゃないよ。まだソルバーン家の会議に慣れていないヒルク・アラムとグラドス・ダミアンが戸惑っているじゃないか。俺はフィクサーじゃないから、勘違いしないようにね。
「ここはテアス・ガルド様にひと肌脱いでもらいましょう」
「某に、ですかな?」
お前が引き込んだんだから、面倒見てやれよ!
「テアス・ガルド様に領内の土や石魔法使いなどを集めてもらい、治水に当たってもらいます。そうですね、補佐に―――」
自分のケツは自分で拭きなさい。
アラム家を調略し、引き込んだ際に関わったあんたたちでしっかり面倒を見なさい。
詭道のグラードンもしっかり働いてもらうからな。
何? なんでそんな目でみるの? ジール州を統一したいんでしょ? それをするのとこういう問題はセットなんだから、全部受け止めなさい。




