第86話 悪魔というより獣よりの獣人なんですが?
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第86話 悪魔というより獣よりの獣人なんですが?
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城内を走る。悲鳴が聞こえるのは、この先だ。
ダンッと扉を蹴ると、吹っ飛んだ。後から修理代を請求されないだろうか……?
吹っ飛んだ扉が悪魔に当たり、そのまま壁まで飛んでいって板挟みで潰れた。結構重厚な扉だったから、十分に凶器になったようでなによりだ。うん、これで扉の修理代は誤魔化せるだろう!
「ナニモノジャ!?」
「今夜の主賓ですが、見忘れましたか?」
部屋は宴会場になっていた場所だ。そこにはパーカーが傷だらけになりながらも、アルディア嬢を守っていた。
「オノレハ シュラードカ!?」
「覚えていてくれたんですね、嬉しい―――」
俺が言いきる前に風の刃が飛んできた。もちろん、タングステン合金の金棒で打ち落としたけどな。
「危ないなー。俺が喋っているんだから、最後まで聞いてくれよ」
「ウルサイ コロシテヤル!」
悪魔の魔力に覚えがある。これはあれだ、いつか見たキツネの魔獣だ。
どうやら、キツネの魔獣が人間の体を乗っ取ったようだな。その乗っ取られた人は……ドルド・ヘインの正妻か。正妻がキツネ顔になっている。
元がキツい顔つきだったから、キツネと上手いことマッチしているのかな? てか、これ獣の部分が多い獣人みたいじゃん。
一応、この世界には獣人がいるけど、人間の部分が多いんだよ。獣寄りじゃないんだよなー。
「お前、魔獣だったろ? なんで人に憑りついているんだ?」
「オマエガ シル ヒツヨウハ ナイ!」
風の刃の乱れ打ちか。
普通の人なら見えないかもしれないが、俺は魔力を見ることができるんだよ。
「こんなもので俺を倒せると思うなよ!」
「ウルサイ!」
金棒で全部打ち落とす。この程度の攻撃など!
「ハック。お前は雑魚を殺れ。ぬかるなよ!?」
「応!」
このキツネ憑き正妻が、雑魚悪魔を生み出しているようだ。ポコポコと湧き出してくる。
「パーカー。気合で、アルディア嬢を守れよ!」
「は、早くお願いします!」
「男なら、弱音を吐くな! アルディア嬢に笑われるぞ!」
「俺はボスと違って武闘派じゃないです!」
「バカタレ! 俺は頭脳派だ!」
「「うっそだーっ!」」
「お前ら、帰ったらOHANASHIしような!」
「「それは勘弁してください!」」
こいつらとのOHANASHIは後からだ。
今はこのキツネ憑きの対処が先だ。
しかし、正妻からはキツネ魔獣の魔力は感じなかった。それがいきなり憑りつかれるというのは、どんな絡繰りなんだ?
まさか俺の魔力感知を越える魔力隠蔽があるというのか?
そして何より、こいつは魔獣ではなく悪魔だ。魔獣が悪魔になるということか? え、何、何? もしかして進化するの? カッケーじゃん!?
「なんて言うと思ったか!?」
「ナニヲ イッテイル?」
一気に詰め寄り、金棒を振る。
ブンッ。確実に仕留めたと思ったら、キツネ憑きの姿が消えた。
「おっと、危ねぇ」
キツネ憑きは俺の真後ろに現れ、その鋭い爪で切りかかってきた。
「へー、今の何? 実体がないわけじゃないよな? いきなり消えたと思ったら現れるとか、空間系の魔法?」
「チョコマカト スバシッコイ コゾウダ!」
「まあ、年増から見たら小僧だけどさ」
中身は元三十歳のオッサンで、さらにプラス七年だぜ、俺は。あんたより年長者なんだぜ?(年上になるのかは、微妙なラインだから疑問形)
「コゾウガ ホザクナ!」
無数の風の刃。やはりこいつは風魔法を使う。じゃあ、さっきのあれはなんだったのか? まさか俺と同じように二つの属性を使えるのか?
風の刃を避けて叩き落とし、接近して殴りつける。
またキツネ憑きの姿が掻き消えた。
「なるほど、そういうことか」
「ナニガ ワカッタト イウノダ」
「お前が知る必要はない!」
言い返してやったぜ!
「ナマイキナ!」
「お前もな」
竜巻が起こる。料理やら食器やらを巻き上げ、俺に迫る。
全身に魔力で強化し突っ込む。
竜巻を突っ切り、キツネ憑きに肉薄する。
「ナッ!?」
「お前との遊びはそろそろ終わらせる。もう飽きた」
「クッ」
殴ると、その姿が掻き消える。
だが、毎回逃げ切れると思うなよ。
「ふんっ!」
「グギャッ!?」
どうやったかは分からないが、掻き消えたのは風魔法だ。キツネ憑きの姿をその場にいるかのように見せているが、ヤツはそこにいない。
キツネ憑きが正妻であった時は魔力を感知できなかったが、今はどれだけ消そうとしても微弱な魔力が漏れ出ているぜ。
俺の真後ろに現れ、俺の金棒で殴られたキツネ憑きは壁に激突。壁が崩れてしまった……。俺、修理代出さないからな!?
「グゥッ ナンデ ナンダト イウノダ……」
「それよりなんで俺に怒りを向けてるわけ?」
一瞬でキツネ憑きの前に移動し、その胸に金棒を押し当てる。
「オマエノ セイデ コノオンナノ ジソンシンガ キズツイタ」
「はぁ? 俺、こんなオバサン知らないんだけど?」
前回きた時の正妻は、体調が悪いと面会することはなかった。
リリルダがいたので治そうかと提案したけど、断られた。
たしかにダルバーヌやバーダンは滅ぼすことになったが、それはそいつらの選択の結果だ。俺を恨むのはお門違いというものだ。




