第47話 海は危険で海賊も出れば、座礁することもある
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第47話 海は危険で海賊も出れば、座礁することもある
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ソト港でアルタンさんの船に乗り込む。
ラジームという種類の全長二十五メートルくらいで三角マストが一本の中型の交易船だ。
ソト港で石鹸とロベルトが用意した進物やお金を詰み込み、あとは出発を待つだけだ。
「シュラード様。出発します」
「うむ。頼んだぞ、アルタン殿」
アルタンさんも乗り込み、タラップが引き上げられる。
片目の船長が出航を高らかに宣言すると、碇が巻き上げられる。
今さらだが、アルタンさんの店の名前はホーミン商店という。
アルタンさんの祖父が設立した店で、祖父の名を使っているらしい。
ここでアルタンさんの家族構成を少し説明する。
創設者のホーミンさんはさすがにお亡くなりになっているが、アルタンさんの父親のクライさん(六十歳)は現役バリバリで働いている。
現在はカサワ港の店を差配していると聞いている。
アルタンさんの奥さんのキンバリーさん(年齢不詳・触れてはいけない)は、ソト村の店を切り盛りしている。
長男エイバスさん(二十歳)はソト港の店を任されている。
次男のフェイトさん(十九歳)はカサワ港で祖父クライさんから商売をノウハウを勉強中。
三男のルクスさん(十七歳)はソルバーン村の店で勉強中。
長女のアミサさん(十五歳)はソルバーン村で嫁入り修行中で、来年嫁にいく予定。
次女のルーイさん(十三歳)はまだ未成年で、婚約者もいないのでソルバーン村でのびのび暮らしている。
そして毘沙門党のリット(十一歳)とクラリッサ(十歳)がいる。
アルタンさんの本拠地は今でもソルバーン村だが、店の規模はソト港店が一番大きいらしい。
たしかになかなかの店構えだった。
それからカサワ港というのは、西海側の帝都の玄関口と言われる港になる。
ソト港よりもかなり大きな港だと聞いている。
西海というのは、島国であるシュリンダール帝国の西側の海のことだ。
今の時期は順調にいけばソト港からカサワ港まで八日ほどらしい。
風によっては十三日かかる場合もある。
春・夏・秋が航行できる時期で、冬のソト港付近はかなり荒れるらしく、交易船の出入りはないという。
陸で移動すると、三十日はかかるらしいので、船のほうがかなり時間短縮になるのは間違いない。
そもそも冬は旅などしないから、船が出なくても変わりはない。
「うっぷ……」
リットが船酔いになった。
「ノイス様は大丈夫ですか?」
アルタンさんは息子のリットを苦笑して見つめるが、俺のことを気遣ってくる。
「平気なようです」
「私も最初はリットのように船酔いに苦しめられましたが、今では船酔いすることはなくなりました。慣れのようですね」
魚に餌を与えるリットの背中を擦る姿は、やはり父親だな。
「若様。これから少し揺れますので、海に落ちないようにしてくだせぇ」
片目の船長からの忠告だ。
どうやらこれから難所に入っていくようだ。
「忠告を感謝します。でも、海は見ていて飽きないので、このままいさせてください」
「落ちなければ構いませんぜ」
船長は四十歳のゴリュというのだが、某パイレーツ映画に出てきそうな容姿をしている。
隻眼用の眼帯もいいが、赤いバンダナを頭に巻いているのが海賊っぽい趣があって格好いい。
この船はケルーナ号というのだが、二十人もいれば動かせるらしい。
ただ、海賊が出るため、その倍の四十人の水夫が乗船している。
船旅は順調に進み、あと一日でカサワ港に到着するだろうというところまできた。
そこで一人の水夫がマストの上の見張り台から大声を出した。
「船が座礁しているっす!」
荒波によって陸側に押し込まれ座礁したようだ。
「他に船はいるか!?」
「いないっす!」
この船が助けないと、座礁している船の乗組員は荒波の海に投げ出されるようだ。
「ボートを下ろす準備だ! 助けにいくぞ!」
ゴリュ船長は素早く助ける判断をした。
こういった場合、船の持ち主に聞かなくていいのかと思うのだが、どうやら海ではどんな船でも船長の判断が優先されるらしい。
そして海の男たちは、荒っぽいが人情に篤い人が多いのだ。
あまり近づくとこの船も同じ目に遭うため、ある程度離れたところでボートを下ろす。
向こうの船もボートを下ろそうとしているが、船体が傾いているせいか上手く下ろせないようだ。
ゴリュ船長の指示の下、救出作業は無事に終わった。
三十人全てを助け出したところで、船が沈んだ。
「ああ、儂の船が……」
どうもあの船も商船だったようで、助けた一人が商人だった。
船は決して安いものではない。
それに積み荷もあったはずだから今回は大損だ。
「ヘルバー殿ではないですか」
アルタンさんが商人に声をかけた。どうやら知り合いらしい。
「おお、アルタン殿! 助けてくださり、感謝いたします」
「今回はとんだことで」
「長い商売人人生の中で、船を沈めることもありましょう。残念ではありますが、こうして命が助かっただけでよしと、割り切ります」
助けた商人はかなりの豪商らしく、船を一隻失ったくらいでは身を滅ぼすことはないようだ。
その後、自己紹介を受けた。
俺たちが向かっているカサワ港に大きな店を構える豪商だと聞いた。