第32話 戦力差は三倍、トルク様の肥やしになってもらおう
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第32話 戦力差は三倍、トルク様の肥やしになってもらおう
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「ぎょえぇぇぇっ」
村長を背負って山や森の中を駆ける。
手加減して走っているのだから、そんなに騒がなくてもいいのに。
俺が身体強化魔法をフルパワーで走ったら、軽くこの三倍のスピードは出せる。
機体を赤く塗らないといけないな?(ただのネタです)
しかも最近では、フルパワーを出しても魔力を使い切るのに一時間はかかる。
ええぃ、連邦軍のモビ●スーツは化け物か!(これもネタです)
なんで村長を背負って移動しているかというと、村長の顔を使って味方を増やしているのだ。
ロベルト様には勝ってもらわないといけない。
そのためには少しでも味方は多いほうがいい。
あっちこっち回ってきた俺は領主屋敷の前で止まった。
俺の背から降りた村長は、地面に座り込んで「ぜぇはぁ」と荒い息をしている。
あんた、俺の背中に乗っていただけでしょ。
俺が息を切らせてないのに、なんでそんなに疲れているのさ?
「ノイスは儂を殺す気か……」
「村長を殺す気なら、その首を斬り落としていますよ」
「怖いことを言うんじゃないのじゃ!」
村長が言い出したんじゃないか……。
トルク様に結果を報告する。
五人ほど説得したが、味方してくれるのは二人だった。
「それで十分です。よくやってくれました、父さん。それにノイス」
村長が説得した二人は、いずれもギリギリまでヒンドル陣営にいてもらう。
もしかしたら、そのままヒンドルに与したままという可能性はあるが、それを言ってしまうと話が進まない。
夏に入り、農作業もひと段落がついた頃、ヒンドル陣営が動いたと使者がきた。
今回は七十人の大人衆に加え、毘沙門党が参戦する。
ソルバーン家の今後を占う大事な戦いだ。
俺も参戦させてもらった。
「おい、ノイス。あまり無茶をするんじゃないぞ」
「分かっているよ、ケルン兄さん」
「本当に分かっているのかしら、心配だわ」
「シュラーマ姉さんまでそんなこと言うの? 俺はこれまで慎重に慎重を重ねて生きてきたような男だぜ?」
「「「誰が!?」」」
おい、家族一同! なんでそこで声を揃えるんだ!?
「おーい、ボス。いくぞー」
「ほーい。それじゃ、いってくる。母さん、ヴァイスを頼むよ。ヴァイスも母さんの言うことを聞いてお利巧にしているんだぞ」
「ワフ」
家族に手を振り別れた。
その家族の中にはクラリッサもいる。
今回の出征に同行する毘沙門党は、第二部隊と俺とララだけだ。
第三部隊と十歳に満たない子は村で待機だ。
クラリッサは自分もいくと言っていたが、全員出てしまうともし村が襲われた際に守れなくなる。
だから、クラリッサたち残った毘沙門党が村を守ってくれと頼んだら、頷いてくれた。
さて、今回の毘沙門党のメンバーを見てみよう。
毘沙門党第二部隊の指揮官であるタタニアは、今年で十五歳になる。
身体強化魔法の使い手で、身長百七十八センチ、体重不明、女性としてはかなり大柄、紫の髪を短く切り揃え、深緑色の瞳は鋭く、重厚な金属鎧を身に纏い、俺が造ったネタ武器青龍偃月刀を装備している。
青龍偃月刀は三国志の関雲長(関羽)が使っていた武器で、薙刀の刃が莫迦大きくなったような武器だ。種類としては剣になるらしい。(アニメネタ)
槍が得意なタタニアだが、この青龍偃月刀は剣でも槍同様に無双している。
次はロッガだ。今年十三歳で、鳥魔法の使い手になる。
最近はイケメン度が上がってきており、たまに爆ぜろと呪文を唱えている俺である。
ナチュラルな焦げ茶色の髪と茶色の瞳、装備は革鎧と十文字槍だ。
現在鳥を三羽(ワシが二羽、フクロウが一羽)使役しており、上空からの索敵能力がとても使えるので、今回の戦で活躍してくれることだろう。
グルダも十三歳で、光魔法の使い手だ。
金髪を短く刈り揃え、藍色の瞳は鋭く、装備は軽革鎧で刀を使う。
グルダは日頃影が薄いのだが、実は頼りになる男である。
第二部隊はタタニアが指揮官だが、このグルダが実質的に第二部隊を動かしているのである。
バルナンは十一歳で生命魔法を使う。
生命魔法は決して珍しいものではないが、バルナンのように魔力の多い生命魔法使いは滅多にいないだろう。
俺たちの生命線ともいうべきバルナンは、ロン毛の銀髪を首の後ろでまとめ、金色の瞳が優しげだ。
装備は軽革鎧で槍を使う。
将来の俺の義兄になるはずのリットは、十歳で風魔法を使う。
目端が利き、俺の気づかないことを指摘してくれる。
クラリッサの兄だけあって、顔はよく似ている。
それに赤茶色の髪もクラリッサと同じだが、クラリッサの瞳の色はエメラルドグリーンに対し、彼の瞳の色は淡い紫だ。
武装は軽革鎧で弓はかなりの腕前だ。
ララは十歳だが、容姿は七歳くらいにしか見えない。
灰色の髪と赤い瞳のララは意思疎通魔法使いで、クロスボウの名人である。
弓は弦を引く力がなく、今でもクロスボウを使っている。
実はロジャーに頼んでおいた機械式弓はできたのだが、引く力はそこまで軽減できなかったのだ。
機械式弓は完成したが、使用していると故障してしまうので、今は改良を施している最中だ。
残念ながら実戦に投入するにはまだ時間がかかる。
最後に俺だ。春に九歳になり、身長は百五十センチと同年代では高いほうかな。
肩まで伸ばした黒髪をポニテにし、胸当、手甲、臑当を装備、武器は三代目神刀ケルンと強弓を使っている。
そう、強弓ジュニアではなく、強弓なのだ!
やっとあの強弓が引けるようになったのである!
高速で動けるバリスタと言ってくれ!
これが今回の毘沙門党のメンバーだ。
俺たちは北上してルイノース城へと向かった。
このルイノース城はルテア平野を見下ろすように建てられた山城で、ロベルト・ダルバーヌを支持するダルバーヌ一門のラドン・バーダンの城だ。
ヒンドル陣営はルテア平野に布陣し、このルイノース城を包囲するつもりらしい。
戦力はヒンドル陣営が四千、対するロベルト陣営は千二百と三分の一以下の戦力だ。
三倍もの兵力差だが、俺はそこまで悲観していない。
せっかくなので、トルク様にはここで大きな戦功を立ててもらうつもりだ。
そうなれば、戦後のダルバーヌ家においてトルク様の発言力はかなり上がるはずだ。