第33話 前線指揮官を狙撃すれば、騎士の数が減って指揮ができなくなるよね
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第33話 前線指揮官を狙撃すれば、騎士の数が減って指揮ができなくなるよね
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軍議から帰ってきたトルク様は、俺たちの持ち場が決まったと言った。
「ここが俺たちの持ち場ですか」
山城のルイノース城を攻めるポイントはあまり多くない。
俺たちの持ち場は正門の左側だ。
簡単に言うと、敵の攻撃が一番激しい場所付近ということになる。
「ロッガ。偵察を頼む」
「あいよ」
ロッガが使役している鳥と感覚共有することで、視覚や聴覚が共有できる。
大空を飛ぶ鳥の視界を通し、敵の居場所がリアルタイムで送られてくるわけだ。
魔力が少ないとこんなことはできないが、今のロッガの魔力量なら長時間視覚共有ができる。頼もしいよ。
「この辺りがいいかな。組み立ててください」
「「「あいよ!」」」
正門から左に少し入ったところで、俺は男衆(大人たち)に仕事を頼んだ。
荷車が横づけされ、一時間ほどででき上ったのは狙撃櫓だ。
高さ五メートルの狙撃櫓は防壁より高く、組み立てしやすいようにユニット工法を取り入れている。
村で何度も組み立てる訓練を男衆がしてくれた。
おかげで、あっという間に出来上がったよ。
うちは弓とクロスボウを使うので、高所があると狙いやすいわけだ。
上部の狙撃場には矢を防ぐ板も張ってあるので、狙撃手が狙われても防ぎやすいところがいい。
「おー、いい感じに見えるじゃないか」
狙撃櫓から正門に続く蛇行した道を、見下ろすことができた。
そこから戦場になる場所を念入りに確認していると、俺たち子供を莫迦にする言葉が聞こえてきた。
「おいおい、ソルバーン家はガキまで連れてきてるのかよ」
「人がいないんだろ。アハハハ」
どこかの兵士が俺たちを笑う。
タタニアがいきり立って飛びかかろうとするのをロッガが止める。
彼女が暴れたら、敵を殺す前に味方を殺してしまう。
俺も狙撃櫓から降りて、タタニアをなだめる。
「あんなのを相手にするな」
「ムカつくじゃないかよ、ボス」
「戦が終われば、タタニアが怖くて近づいてこないさ」
「早く暴れさせてくれよ」
「その時になったらちゃんと暴れてもらうから。我慢してくれ」
タタニアを諫めるのも楽じゃない。
暴れ牛を押さえつけるように、彼女の腕を掴む手に力を入れないといけないんだよ。
俺たちがルイノース城に入ってから二日が経過した。
敵さんも布陣が完了したようで、騎士が正門の前へやってきて口上を述べる。
「ダルバーヌ家の正嫡の血筋であらせられるヒンドル様に反抗する者らに告げる。直ちに武装を解除し、開城するべし! さもなくば、謀反人として族滅の憂き目に遭うことになるぞ!」
随分と傲慢な口上だな。
これで開城するとでも思っているのかな?
思ってないんだろうな。
俺たちなんか道に転がっている石以下なんだろう。踏んでも気づかない程度の存在だ。
「寝言は寝てから言え! 栄えあるダルバーヌ家の面汚しのヒンドルなどに降るくらいなら、アシャールに降ったほうがよいわ!」
お互いに降伏したりされたりなど考えていない。
特にこちら側の人たちは、ヒンドルの下についたらどちらにしろ殺されるかもしれないと思っている人が多い。
それほどヒンドルの評判は一定の人に悪いのだ。
口上に関しては、どちらも引かないということを確認した感じだな。
その後一時間もすると、敵の先陣が攻め寄せてきた。
正門から左右に伸びる防壁の上で、数人の騎士が弓を構える。
うちも男衆が全員クロスボウを持って防壁の上に並ぶ。
防壁の高さは二メートル半ほど。
あまり高くないが、山の傾斜を利用しているので敵はもっと高く感じていることだろう。
「なんだあの弓は?」
「あれは弓なのか?」
「あんな弓見たことないぞ」
あれ? 今までの戦でクロスボウを使ってないのか?
「クロスボウが弓だと誰も思ってないようで、弓合わせの時に呼ばれなかったんだよね」
「ああ、なるほど……」
一般の兵士が弓を使うのは稀だ。
うちのように多くのクロスボウを用意している家はないだろう。
弓は騎士の専売特許みたいなものだから、平民の寄せ集めと思われているうちが弓を使う場面に呼ばれることはなかったようだ。
「今回やっと使えるよ」
それはよかったですね。
九十九折の道を登ってくる敵兵に、騎士の弓が射かけられる。
クロスボウより弓のほうが射程は長い。
うちの男衆のクロスボウはまだ射ない。
騎士の射た矢は五人に命中し雑兵が倒れた。
さらに騎士が矢を番える。
そこで、トルク様の声が響いた。
「放て!」
クロスボウの軽やかな弦の音が漣のように耳に入ってくる。
同時に十数人の雑兵が倒れた。
「矢のセットを急げ」
クロスボウの矢をセットしている間に、騎士の矢が放たれる。
四人が倒れた。
まだクロスボウの矢はセットできてない。
その間に騎士が次の矢を射る。
遅れてうちもクロスボウを射る。当たれば威力は折り紙つきで、雑兵たちが倒れる。
「怯むな! 進めぇぇぇっ!」
前線指揮官と思われる騎士が声を張りあげている。
不意にその指揮官が倒れた。
その眉間に矢が生えていた。
あの矢は……ララの射たものか。
ララは狙撃櫓の上に陣取り、男衆が使うクロスボウよりも三倍重い大きなものを使っている。
重いためとても狩りには使えないものだが、今回はララの狙撃用に用意した。
ララの横ではグルダが大型クロスボウに矢をセットしている。
ララでは矢をセットすることさえできないのだ。
狙撃時もララ一人では持つことができないので、狙撃場を囲っている丸太の上に大型クロスボウの前部を置き、三脚代わりに使っている。
大型クロスボウの射程距離は騎士たちの弓よりも長い。
狙撃するならおよそ三百五十メートル、曲射なら八百メートルは飛ぶ。
おかげで軽々と指揮官を狙撃できる。
ララが指揮官を狙撃するものだから、敵の前線は混乱している。
次から次に指揮官が狙撃されて戦闘不能になるため、戦線維持が難しい。
多くの前線指揮官を失ったヒンドル陣営は、一旦兵を引いた。
以前、この世界に派手な魔法はない。それについて語った記憶がある。
戦争でも弓矢の距離では、魔法は使えないのが常識だ。
クロスボウよりやや短い距離になってやっと魔法が使われる。
派手な火球、見えない風の刃が飛んでいき、将兵を傷つける。
もっと近くにくると、今度は大量の水が将兵を押し流す。そして、地割れが将兵の行く手を阻む。
遠距離における花形は魔法ではなく、弓矢なのだ。




