表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑草少女と花の国  作者: 山名真雪
雑草少女と新たな出会い
9/120

森の中で

辺りが朝焼けに染った頃、私は目を覚ました。

いつも通りに起きた自分に、少し驚く。昨日は、ハンナと夜を過ごし、いつの間にか時間を気にせず眠ってしまった。

起きる時間はいつもと変わらなかったけど……。


んー、と一つ伸びをして起き上がると、少し寝ぼけた様子のハンナがこちらを見ていた。


「ご飯の用意、するね」


私は最後になるであろう、ハンナの世話に取り掛かった。干し草を与え、水を取り替えて、丹念にブラッシング。

その頃には、日が完全に昇り初め明るくなってきた。


「さてと……そろそろ出発しようかな」


ハンナを運動場へ出し、私はそのまま柵をくぐる。

すると、ハンナも付いてきたそうに私を見つめてきた。


「ダメだよ、ハンナ。一緒に行けないの。許してね。その代わり、王都に着いたら、ローレル様にハンナのこと相談するから」


頭を撫でていると、別れが名残惜しくなる。

ずっとこうしていたいけど、そうはいかない。


「元気でね 」


またね、とは言えず私はそっと、その場を離れる。

何度か振り返る度、ハンナはこちらをずっと見つめていた。

私の姿が見えなくなるまで、ずっと。


森の中の舗装されていない白い道を歩く。

この道を進めば王都―フロルへとたどり着く。

ただ、ここからフロルへはかなり長い道のりになる。

普通は馬車や馬を走らせてフロルへ向かう人がほとんどなのだが、あいにく私にはそんなお金の余裕は無い。


残された選択肢はと言うと、歩きだ。

自分の足でフロルへとたどり着くしかない。


「まぁ、ゆっくりでもいいもんね」


一人になったことで、私は少し自分のことを考えることが出来る。

不安がない訳では無いけれど、気持ちは晴れ晴れとしていたとしていた。

それに、森の中にいると故郷の姚国を思い出す。土の匂い、木々のざわめき。それに、川の流れる音。

どれもが故郷を連想させる。


故郷もこんな感じだった。


「今、は……」


きっと今は、雪に閉ざされた滅びを迎えた国になっているに違いない。

お父さんとこの国に来る時には、もう誰も住めない国になってしまった。

私たちは、最後の住人だっただろう。

だからこそ、ここはとても落ち着く。


辺りを眺めながら歩いていると、ふと自分の足音と別の足音に気がついた。

そして、突き刺さる違和感。


誰か、見てる……?


ここで軽率に振り返らない。

相手に私が気づいたことを気取られてはいけない、とお父さんに教えを思い出した。

それを察知されてしまえば、相手は早急に何かしらしかけてくる。それを防がなくてはいけないよ、と。


まずは自分の周囲を見渡し、どう動くべきか安全策を見つける方が先だ。

ここは森の中、身を隠す場所は多いけど相手も同じ。

こちらは一人。だけど、あっちは複数いそう。


分かりきっていることだけど、分が悪い。

戦う、と言うよりもどうやって逃げ切るか、の方が大事かもしれない。


慌てず騒がず、相手との距離を測りながら前へ進む。

少しづつ脇に逸れながら、背の高い草むらへ。

小柄な私は直ぐに草むらに埋もれる。

相手からしたら私を見失いそうになるだろう。案の定、相手がザワついたのを感じた。

足音がバタバタと音が大きくなる。


近い。

そう感じた時には相手はすぐそこに居た。

大柄な男が数名。身なりは綺麗とは言えず、薄汚れている。どうやらこの当たりを根城にしているゴロツキのようだ。

相手に自分の居場所を悟られないように、その場に屈んで息を潜め……、そして。


「今だっ!!」


元に張っている蔓科の植物を引っ張った。


「うぉっ!?」

「うげっ!?」


ピン、と張られた蔓にタイミングよくひっかかり、大男達が情けない声を上げた。

私は直ぐにその場から走って逃げる。

少しは足止めになる。


あとは逃げるだけだ。

背後から、待てっ!!! という怒号が聞こえるが、止まるわけが無い。止まれるわけが無い。

一心不乱に、息を切らしながら前だけを見て走った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ