片道切符
「何を馬鹿なことを言ってる! シオンは渡さない!」
そう、ロイさんが噛みつくように叫ぶ。
「それはどうでしょうね。シオンさん、一緒に来たら、あなたが会いたがっているあなたのお父さんに会えるかも知れませんよ」
「……っ!?」
「会いたいのでしょう? それに、虹脈様のこと、知りたくありませんか?」
畳み掛けるように、リーク様は言葉を紡ぐ。
それは、甘い誘惑に聞こえた。
「それに、あなたが来てくれるならローレル様、底で眠っているコウエイの衣食住全部、保証しますよ」
「なっ……」
ローレル様は言葉に詰まった。あまりにも好待遇過ぎて。
恐らく、リーク様は何かを企んでいる。
私たちが不利になるようなことの可能性が高いだろう。
だけど私は迷っていた。もし、ここでリーク様のもとへ行けば、リーク様が何を考えて、何を思っているのか聞き出せるかもしれない。本当に、ローレル様を裏切ったのか、見極められるかもしれない。
このまま、離れてしまうなんてそんなの駄目だ。
ぎゅっ、と拳を握りしめる。リーク様に近づく。
「分かりました、行きます。その代わり、ちゃんと約束守ってくださいね」
「だめだ……!」
「もちろんですよ」
差し出された手を、私は取った。
それが地獄の片道切符であろうとも、きっと何度でもリーク様の手を取っただろう。
「シオン、だめだ」
「ロイ」
「……!」
静かに、リーク様がそう呼んだ。
「あえて、ここはこう呼ぶ。これはシオンが選んだこと。ロイが口を出すべきじゃない。それに君にもコウエイにも悪い話じゃないと思う」
「そうか、あえてリークはそう言うんだね。二人の時、友として話すときみたいに」
敬語を取り払った、砕けた口調のリーク様にロイさんは少し寂しさを滲ませて言った。
「分かった。なら僕からも一つだけ、お願いを言っていいかな」
なに? とリーク様は厳しさを思わせない声で言う。
「僕もコウエイも、シオンの側に居させてくれ。
それだけは譲りたくない」
「へー、まぁ、想像してたとおりか。いいよ。一緒に来い」
くるり、と身を翻し外へ出ていくリーク様の後を追いかける。
ロイさんは、コウエイを抱き上げて私の後ろをついてきた。




