違う温度のぬくもり
ぱぁぁぁ、と部屋の中がまばゆい白い光に覆われる。
白い空間で、コウエイの後ろ姿が見えた気がした。
コウエイ! と手を伸ばすとその手に触れられた。
今度こそ温かくて、柔らかい。ちゃんと人の形をしている。
「よかった、コウエイ……!」
私の呼びかけに、ゆっくりと振り返る。
その姿は振り返るとコウエイではない別の人になった。長い黒髪を靡かせて、微笑んでいる妙齢の女性だった。
「……誰……?」
見たことのないその人は、自然と私の手を取った。
その温もりを、懐かしい思うのはなぜだろう。
私はどこかで出会ったことがある、そんな気がした。
ずっと前、カロラに来るよりはるか昔。
もう覚えてすらもいない幼い頃。声も顔も覚えていない、温もりだけが残っている。
「おかあ、さん?」
「やっと、会えたね……」
そう言うと、ぎゅっと抱きしめられる。
とても温かくてお日様の匂いがした。包まれているとなんだか落ち着く匂いだ。
すがりつくように、私も手を回した。
お母さんはそれに答えるように、抱きしめた腕に力を込めた。
「ごめんね、一人にして。本当は、ずっと一緒にいたかったのに。あの人も…あなたを一人ぼっちにして、だめな親でごめんなさい」
「……っ」
まるで言葉にならなかった。だって、ずっと寂しかった。一人で居ることが、とても寂しくて辛かった。
誰も隣りにいないことを実感すると、冷たい夜に耐えられそうになかったから。
「このまま、一緒にいてくれるならいい、それだけでいい」
ふふ、と優しくお母さんは笑った。
その声は私の鼓膜を優しく揺らす。
「もっと、話していたいけど……時間みたいね」
「どうして!? せっかく会えたのに、なんで!!」
そうやっと出会えた。私の記憶の中にはほとんど無いお母さんの記憶。
ただ覚えているのは、この温もりだけだ。
なのに、それすらも離れていってしまうなんて認めたくなかった。
離すまいと掴んだお母さんの腕は、少しずつ空気に溶けるように透けていく。
「大丈夫、近い内にまた会える。必ず。今は、あなたの帰りを待っている人の所に」
ほとんど消えていた姿が、完全に空気に溶ける。
「お母さん!!!」
縋り付く手には、何も残っていなかった。
「シオン!」
は、と眼の前が再び明るくなると、私はローレル様の腕に抱かれていた。
お母さんの温もりとは違う、熱い温度。
焼けそうな、身を焦がれるような熱さだった。




