私が知ることには
「だから、ごめんね。いっぱい心配かけて。コウエイは、安全な所にいて。必ず、帰って来るから」
約束、と小指を差し出すがコウエイは一向に指切りをしてこようとはしなかった。
俯いたまま、膝の上で拳を握りしめた彼女に私は無理やり小指を絡ませる。
ハッとした様子で顔を上げたコウエイに、にっこり微笑む。少しでも安心してほしい、と思って。
「大丈夫、一人にしないよ。だから、信じて」
絡ませた小指に僅かに力を込めると、コウエイもゆっくりと小指で答えてくれた。
そのまま、指切りげんまん、と二人で歌い小指を離す。
「約束だよ」
そう言うと、コウエイは静かに頷いた。
その様子を見ていたロイさんも静かに笑っている。
「ロイさんも、ですよ。必ず、ここに戻ってくるって、コウエイに約束して」
「あぁ、そうだな。コウエイを一人にはしないさ」
「……はい」
コウエイもロイさんをゆっくりと見据えて頷く。
その時、コウエイの返事がやや遅かったことに、私は疑問も抱かなかった。
「虹脈のことは、こちらも調べることにするよ。あと気になることが僕にもあるんだ」
「なんです? 気になることって」
「ここを調べている時に、小耳に挟んだんだけど、どうやら不治の病が蔓延してる、っていう噂があるみたいなんだ」
「不治の病なんて……ちょっと、怖いです。でも確かに、細い路地とかに人がたくさん……」
今日歩き回って嫌でも気づいてしまった。老若男女構わず、ひっそりと倒れている人たちがいた事。
生きているのか、死んでいるのか、分からない様子に思わず私は目を背けていた。
人が倒れている事に、ロイさんも気づいたのだろう。どうやら調べて、その原因に行き着いたらしい。
「その不治の病って、どんなものなんでしょうね」
「さぁ……そこまで調べられなくて。コウエイに聞こうと思ってたんだ。なにか知ってるなら教えてほしい」
ロイさんに問われ、コウエイはきゅっと口を結ぶ。
思い出したくないことでもあるのだろうか。そのうちは重く小刻みに震える。
「言いたくないことなら無理しないで良いんだよ」
「いえ、大丈夫です。私もあまり知らないのですが……」
そう語りだすコウエイは、不治の病の恐ろしさを十分に知っているようだった。




