秘密基地
その言葉を聞き逃さなかった。だけど、問い詰めるのも違う気がして、私はそっと浮かしていた腰を下ろした。
「さしずめここはコウエイの秘密基地だね」
辺りを見回すロイさんは興味深そうだ。
確かに、隠れるにはよく出来ている。入口も隠されているし、誰もこんな所に空間が広がっているなんて思わないだろう。
「でしょ、ここは私のお城、なの。初めて誰かを招いたよ」
くすくすと年相応に笑うコウエイがとても可愛く映る。なんだか、やっとちゃんと同胞と話が出来る気がした。
「コウエイは何時からここに居るの?」
「うーん、気づいたからここに居たなぁ。お父さんもお母さんも死んじゃってるし、正確にはよく分からない」
手元を弄りながらコウエイは答える。
何となく予想はできていたが、やっぱりコウエイには守ってくれる誰かは居なかったのか。
たった一人で、どう生きてきたのだろう。こんな排他的な場所で……。そんな事に思いを馳せる。
「でもね、ここで出会った姚国の人に助けて貰ったりしたんだよ」
「それがこの家をくれた人?」
そう! ととても良い返事をしたコウエイは頷く。
「今その人はどこに?」
「うーん、遠い遠い場所に行っちゃった。時々会えるけど……私からは会いに行けない、かな」
歯切れ悪く言いづらそうにしているコウエイに、私は大丈夫、と声をかけた。
「話してくれてありがとう。コウエイを困らせたいわけじゃないの、ごめんね」
「うんん! 多分、そのうちふらっと来るかも。私たちのところに……」
「そう。その時は挨拶させてもらうね」
そう言って、ここに住んでいたであろう人を思い浮かべた。
姚国の人で、コウエイの面倒を見、この場所を与えた人物。きっと優しい人なのだろう。
コウエイも懐いているようだし、まともに話せるかもしれない。カロラのことをどう思っているのか、そして私の考えも少しは聞いてくれるかもしれない。
そんな期待に胸を踊らせつつ、私はその時を待った。
けれど、その時はそうそう訪れなかった。




