寂しかったから、ここにいて
気がつくと、暗闇。少し恐怖を覚え手を伸ばす。どうやら、空間はそこそこ広がっているようだ。自分の手が空を切りながら、前へと進む。
やがて、こん、と壁にたどり着いた。
「部屋……?」
すると、ぼっと急に明かりが灯り目を細める。
明かりの方へ目をやると、ランタンを持ったコウエイが近づいてくる。
「ここまで来ればとりあえずは大丈夫だと思います。ようこそ、私の家へ」
ランタンを足元に置き、コウエイはゴミ袋を穴の中へと詰め始めた。
どうやら私たちはここから落ちてきたらしい。巧妙にゴミ箱の中に入口は隠され、すぐにはまず見つからなさそうだ。
「これ、コウエイが作ったの?」
「うんん、これは先にここに住んでた人が作ったの。それを私が貰ったんだ」
入念に入口をゴミ袋で塞ぎながら、コウエイは答えた。やがて、詰め終わると額の汗を袖で拭うとやっと一息ついた。
「誰か、僕たちを狙ってた?」
「ですね。私も外で食べ物を貰ったのは軽薄でした。誰かが奪いに来ること分かってたのに…… 。気づくのがもっと遅かったら、恐らくシオンさんやロイさんの荷物全て奪われてましたよ」
苦笑いを浮かべるコウエイ。
その言葉存外重い。恐らくここでは日常茶飯事なのだろう。見慣れた光景に笑うしかない、と言った様子のコウエイに私はただ震えた。
ここでの生活の劣悪さと不条理さ。まさに裏の世界だった。
「でも、二人を守れて良かったですよ。とりあえず、ゆっくりしてください。まぁ、何も無いですけど」
言われてくるりと部屋を見回す。
窓のない一部屋。
キッチンや風呂場といったものはなく、ただ空間があるだけのこの場所には、コウエイの荷物であろう衣類や食料を入れている袋などが乱雑に置かれていた。
最早スプリングの効いていなさそうなソファが置かれ、その肘置きには薄い毛布が掛けられている。きっと、ここでコウエイは寝ているのだろう。
狭い生活空間に、三人居ると少し狭くなってしまう。身を隠し息をつける貴重な場所だ。コウエイに迷惑にならないだろうか。
「なんですか? あ、何か良くないことでも考えてますか? うーんと……」
私の顔色を見るなり、唸りながらコウエイは考えているようだった。まるで、私の心の内を読んでいるかのようだった。
「そうですね、ここから出ていった方がいいのかとか、迷惑にならないかとか、気を遣ってますね」
図星、だった。
「当たりですか。ふふ、大丈夫ですよ。そんな事考えていませんから。むしろ、いてくれた方が嬉しい……です」
寂しかったから、とコウエイが小さく呟いたのが聞こえた。闇にすぐに消えてしまいそうな小さな小さな声だった。




