それでも忘れられない絆
「誰にでも気遣いができる優しい子だと思ってたよ。それは今でも思ってる。けどだからこそ、何でこんなことをするんだい? その顔は人に向けていい顔じゃないよ」
諭すように女将さんはリーク様に歩み寄りながら、その肩に手を触れようとした。
「何があったんだい? そんな、辛そうな顔……」
「あなたには関係の無いことですよ」
しかし、触れる間もなくリーク様はその手をぱしり、と弾いた。まるで、触るな、というように。冷たい目で、女将さんを見下ろしていた。
「過去が、今の私がどうとか、そんなことどうでもい。今は、私がやりたいことをしているだけ。そこに、感情は要らない。あの人がここにいるのか、居ないのか、それだけ分かればそれでいい」
ぴしゃりと女将さんの優しさや、温もりを跳ね返しリーク様ほ粛々と言った。
女将さんが絶望したような、血の気の引いた顔で伸ばしていた手をおろした。
「ロイっていう少年はいないよ」
そう言いきった女将さんから目を逸らさずに、リーク様は見つめていた。
数秒の沈黙が降りて、ふい、とリーク様は息を吐いた。
「分かりました。ならもうここに用はないです」
「リーク様……!」
くるりと背を向けたリーク様に、女将さんが叫ぶように呼びかけるがリーク様は足を止めず、さっさと衛兵を連れて去っていった。
残された女将さんは、それ以上何も言わず見送る。
ほかの野次馬も、唖然とししばらくその場に立ち尽くしていた。
どれくらい時間が経ったのだろう。やっと人気の無くなった通りに私とロイさんは出て立ち尽くしたままの女将さんに声をかけた。
「大丈夫、ではなかったですよね……」
珍しくロイさんの声色も強ばっていて、沈んでいた。かく言う私もなんと声をかけたらいいのか分からなかった。
たから、だらんと力無く下ろされていた手を握った。
その手は冷たく、凍えそうなほど体温は無かった。
「あ……いや……そうだね、あんなリーク様初めて見たよ。あんな人を冷たく見れる子だったなんてね」
そういえば、と思い出す。
昔女将さんは城勤めをしていたんだっけ。
なら、リーク様のことも知っていても何ら不思議じゃない。私が知らないリーク様を知っているのだろう。知っている馴染みのある人間の変わりように少なからずショックを受けたのは想像に固くなかった。
「リークはリークなりに考えてのことだと思いますよ。その上で、僕を邪魔だと判断した、それだけの事です 」
きっぱりとリーク様を庇うようにロイさんは告げる。
けれど、ロイさんもどこか悔しそうな、痛みを伴う表情を浮かべた。
そこに確かにある絆が、揺らいでいるのが見えた。




