もう、要らない?
「いいのかい、このままで」
「言いも何も、僕もリークもそれぞれ選んだ。だからだからこれでいい」
「そうかい、それなら何も言わないよ」
やっと緊張がほぐれたのか、女将さんは深い息をひとつ吐くととりあえず中へ入ろう、と私たちを促した。
中へ入ろうと歩み出すが、ロイさんは一歩も動かなかった。
「女将さん、僕はこのままここを発つよ」
その目には強い意志が宿っていた。誰にも意思は曲げられない、曲がらないと言った真っ直ぐな瞳。何かを決意したような、色が見えた。
ビックリして目を見開いたのは私だけじゃなかった。女将さんも驚いた様子で、少し慌てた声でどうしたんだい、とロイさんに問いかけた。
「何時またリークがここに来るか分からない。また来たら、僕だけじゃなく女将さんにも迷惑がかかる。それだけは、避けたいんだ」
「そんなの、迷惑だなんて思ってない。そんな寂しいこと言わないでおくれ? 私はいつだって、ロイの味方だよ」
ね、と優しく微笑む女将さんにロイさんは首を振り、優しく笑う。
「だからこそだよ。大好きな場所だから、ここは暖かい場所でいて欲しいんだ。いつでも帰れる、いつか帰る場所としてあってほしい。その代わり……シオンの面倒も頼みたいんだ」
「えっ……?」
「それは……!」
不意に言われた言葉の意味を理解するのに、頭が躊躇った。それは、私をここに置いてどこかへ行ってしまうという意味だったから。
女将さんも同じことを思ったのだろう。声を上げた。
「待って、それは私を連れて行ってはくれないってことですか」
「そうだ」
詰め寄る私から目を逸らし、俯いたロイさんが言う。
それは、私には後悔しているようにも見えた。
数秒考えて、口を開く。今から言う言葉はただただ我儘で重いものにしかならないだろう。
けれど、ロイさんの本当が、本音が知りたかった。それで、私が要らないと言う判断になったなら、甘んじて受け入れよう。
「ロイさん、私が邪魔になった?」
ば、っとロイさんが顔を上げた。
その目が見開かれる。
「シオン……!」
名前を呼ばれて、私は泣かないつもりだったのに目の前は既に滲んでいた。




