もうひとつの決別
「正当防衛? これは、僕たちの、カロラ王国が巻いてしまった種の間違いでしょう? 姚国の人たちを蔑ろにし、迫害してしまった僕たちに姚国の人たちが抵抗しただけのこと……いや……もっと別の何か……」
そこまで言って、ローレル様は考え込んでしまった。
どうやら、お父さんが去り際に言っていた言葉を思い出しているのかもしれない。
興味があるのは別の虹脈だと言った。
ならばそれはどこにある?
「あの人たちは、僕に何も知らない王子だと言った。ならば別の人間は知っている、ということになる。それは、リークなのか? それとも国王、あなたか」
ローレル様の問いかけに、リーク様も国王も何も答えなかった。あるのはただ沈黙。否定は無い。
この二人が、何か一口噛んでいるのは私にも分かった。
「何を企てている? 教えろ、リーク!」
黙ったまま何も答えないリーク様に、痺れを切らしたローレル様は叫んだ。
僅かな沈黙の後、リーク様は口を開く。
「私は、いや、俺は……ロイとは違う。俺は、この国のため、たった一人の為に、ここまで来た。それがロイでも邪魔はさせない。例えそれが君との決別になっても」
「それが、幼なじみの僕に対する返答か……」
あぁ、とリーク様が頷きローレル様と視線を合わす。一瞬たりとも逸らさずに、じっと見つめ合っていた。
私にはお互いがお互いの真実を探るかの行為に見えた。それは、ローレル様も同じだったように思う。
いつもはリーク様はローレル様に、敬意を払って喋りかけていた。だが今は敬語も取り払い幼なじみと言う対等な関係で話していた。
その培った関係の中で、嘘や本当を見極めようとしているのかもしれない。
「リークが本気なのはよく分かった。君が嘘をついてないことも、僕が必要とされていないことも」
ローレル様は、リーク様に背を向けて歩き出す。数歩歩いたところで、振り返らず足を止めた。
「僕が、王子として至らぬ所ばかりでしょう。本当はリークのようになれたなら良かったのでしょうね。けれど、僕には僕の、やらなければならないことがある、そう思っています。もし、その邪魔をするなら、僕もその時は容赦しません。それを覚えておいてください」
吐き捨てるようにローレル様が言いそのまま扉を開けて、出ていってしまった。
その消えていった背に、リーク様は一瞬後悔したような、寂しそうな顔をした。
まるで、その背に縋っているようだった。




