新しい朝の始まり
翌日、日の出前に目が覚めた。
いつも通りの朝だったけど、とても気分がいい。
鼻歌をうたいながら、身支度を終えて外へ出る。
少し待っていると、リーク様がやってきた。
朝が早いためか、少し眠そうだ。もしかしたら、朝は弱いのかもしれない。
「おはようございます。待たせてしまいましたね。行きましょうか」
若干、眠気の取れないふわふわした声に、私ははい、と頷く。
無言で城へ向かい、案内されたのは立派な厩だった。
教会の簡易的なものでは無く、城とおなじ白亜の建物。白なので汚れが目立つはずだが、一切それは無い。
清潔感のある厩には何頭かの馬が飼育されているが、どの馬も毛並みが良く手入れが行き届いているのが分かる。
その中の一角に、ハンナは居た。
私を見るなり、鼻を鳴らし蹄で地面を蹴っている。それは、ハンナなりの喜びの表し方で、私もハンナの元へ駆け寄った。
「おはよう。今日もよろしくね」
頭を撫でてやると、遠巻きで見ていた衛兵達がひそひそと囁きあっている。
声や言葉は聞こえては来ないが、どうやら私がハンナに触っていることを驚いているようだ。
中には指をさしながら、あれを見ろといった雰囲気を感じ取れる。
「不躾な反応申し訳ありません。後できつく指導しておきます」
背後をちらりと一瞥するリーク様に、我に返った衛兵達は縮み上がり各々の持ち場へと戻っていく。
「無理もないです。どこぞの得体の知れない人間がここに来たんですから。気になるのは仕方の無いことですよ」
それよりも、ハンナの世話をしたい。
食事や運動、やることはいっぱいある。
「そうですね。ここの管理者を呼びましょう。アシビさん、いらっしゃいますか」
あぁ、という声がしてやってきたのは鍛え抜かれた鋼のような体を持っていそうな男性だった。腕の太さも尋常じゃなく半袖が今にもちぎれそうだ。
背が高いため、近くに来られると私は見あげるしかない。
「この嬢ちゃんは?」
「前に話した、ノビリス女王の推薦で来てもらったハル シオンさんですよ」
ビリビリとした低い声で質問するアシビさんに、リーク様はそう答えた。
答えを聞いて、そうかとだけ言ったアシビさんは私を見た。
「は、初めまして。私はハル シオンと申します。よろしくお願いします」
「アシビだ。こちらこそよろしく」
自己紹介を手短に、頭を下げて挨拶するとアシビさんも自己紹介をしてくれた。
とりあえず、怒ってはいなさそうだ。
「では、あとは頼みましたよ」
「了解した」
その様子を見届けてか、リーク様は行ってしまった。
残された私は少し心細さも感じながら、目の前のアシビさんと向かい合う。
「お世話になります。頑張りますので、なんでも仰ってください」
「あぁ、だが当面はハンナのことだけでいい。それよりもハンナを連れてこっちに来い。運動場へ案内する」
厩の外へ出ていこうとするアシビさんに、私は焦りながらもハンナの元へ行く。
柵にかかっていた馬銜や鞍、手綱を手早く装着させて連れ出す。
昨日とはうって変わって、ハンナはとても大人しく私に付いて来てくれる。まるで別人だ。
その様子は厩にいた衛兵達にも同じように映ったようで、口をぽかんと開けている者もいた。
その後、ハンナの世話に必要な場所、道具、物の在処を教わったりしてその日はあっという間に夕方。
新しいことを始めると、やはり時間の流れは早い。
ハンナを運動場から厩に戻し、今日の仕事は終わりを告げた。




