白亜の城
「シオン……! 大丈夫!?」
ローレル様は馬から軽々と降りると、膝を付き私と視線を合わせた。
慌てていたのか、汗が流れていて呼吸も少し乱れている。
私は、大丈夫、と弱々しく答えた。
「遅くなってごめん。ククルが慌てていたものだから、なにかあったのは分かってたんだけど、まさかこんなことになってるなんて。肘とか膝を擦りむいてるね。これ使って」
ローレル様は懐からハンカチを取り出して、私に手渡してきた。
私は一瞬戸惑ったが、にっこりと笑うローレル様に押されてハンカチを受け取る。
その様子を確認したローレル様は、ゆっくりと立ち上がり、衛兵達と向かい合った。
「これはどういう事か、説明してくれるよね?」
背中越しなので、表情は見えないが声が怒っている。
低いうなるような声に、衛兵も恐れおののいて身を縮めた。
それでも、王子に応えなければいけないという衛兵達の性分があるのか、しどろもどろに事のあらましを答える。
「ふーん、それで女の子一人にこんなに寄ってかかって行ったんだ? 彼女は最初から暴れた訳でもないのに?」
「ですが! 女王陛下、王子の物を所有している怪しいやつでしたので、我々は職務を全うした迄で!!」
「それでも、こんな往来で衛兵としての権力を振りかざしたの?」
なおも言い訳をしようとする衛兵達に、ローレル様は冷静にかつ、怒りを募らせたように言った。
「まずは話を聞くために、同行を願うのが筋じゃないかなと思うよ。だから、後で話、聞かせてね?」
ひいぃ、と衛兵の声が漏れる。
ローレル様は、ふふふ、と笑みを浮かべて私に向き直ると、立てる? と手を差し伸べてきた。
私がその手を取るとすごい力で引っ張られる。
そのまま、ローレル様の胸に飛び込み、抱き止められた、と認識するまでそう時間はかからず私は顔が熱くなる。
「怪我してるから、僕の馬に乗って?」
「え、いや、あの……!」
大丈夫だと、首を横に振るがローレル様は有無を言わせず背中を押し、私は断りきれずローレル様の黒い馬に跨った。そして、ローレル様も颯爽と後ろに乗ってくる。
ローレル様とピッタリくっつき、私はどきまぎしてしまう。男の人と、こんなにくっつくのは初めてだ。
恥ずかしさと戸惑いで、私は俯く。
「怪我が痛む? 少し我慢出来るかい? 直ぐに医者に診てもらおう」
はっ、と言う掛け声とともに、馬が走り出す。
ローレル様は私が振り落とされないように、気を使いながら巧みに馬を操縦している。
そんなローレル様の邪魔をしないように、しっかり捕まりながら、私は後ろを向いた。
「は、ハンナは?」
「大丈夫、後ろついてきてるよ」
ほら、と言われ更に後ろに目をやると、ハンナが一人走ってきていた。
本当に後ろを追いかけて来ているらしい。
「よっぽど、シオンのことが好きなんだね」
けらけらとローレル様は笑う。
先程の怒りなど、忘れたかのように穏やかだ。
「そ、そんな事ないですよ」
「いやいや、きっとあるよ。じゃなきゃ、ハンナはここまで来なかったと思う。あ、ほら、城に着くよ」
やがて、目の前に白亜の城が聳え建つ。
フロルの中心に建つこの城は、この国の中心でもあり、王族の住まう場所。
私は決して立ち入ることの出来ない、はずだった場所。その門を私はくぐろうとしていた。
「ようこそ、フロル城へ。歓迎するよ」
門をくぐり、中庭を通るとやがてローレル様は馬を止めた。
すぐさま衛兵が近寄ってくる。
先にローレル様が降り、さぁ、お手をどうぞとエスコートをされ私も馬から降りた。




