本編とは全く関係ないところで転生した男の、危機感スキルがいい感じで仕事をしない話。その6。
「良く見えるな。」
この丘の上からは、二手に分かれた軍隊同士の動きが一望できる。
それでもって、そろそろ決着がつきそう。
煙は、一方が仕掛けた火攻めの残滓だったようだ。
ん?
一望?
瞬間、地面に伏せる。
この見え方…向こうからも丸見えじゃなかろうか。
だとすると、ぼーっと立っているのは危険すぎる。
しかも普通に考えたら、戦場を一望できる場所に、誰もいないはずがない。
心なしか強まった頭の中の警告音。
「一度逃げよう。」
と、周囲を見渡そうとした俺の首に、いつの間にか白く輝く剣が添えられていた。
「ゆっくりこちらを向け。何者だ。」
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錆びた機械のように、ギギギ…と顔を回すと、白馬に跨り純白の鎧を着こんだ女性が、険しい表情でこちらを睨んでいた。
「何者だ。」
これはあれだ。
危機だ。
危機感スキルの元凶はこれか?
と考えていると、女性の表情が更に険しくなる。
「答えねば斬る。」
「あ、えっと…。」
どう答える?
違う世界からきましたー。
敵じゃないですよ。味方でもないですけど。
頭の中で響いている警告音の元は貴方ですか?
だめだ。殺される。
考えろ。
体は動かせない。
動かした瞬間に首を刎ねられそうだ。
視線だけで辺りを見渡す。
女性の他には…同じように鎧を着た集団が…3つ。
全部で100…150人くらいだろうか。
しかし、結構な人数の集団なのに、何故この集団が近づいてきたのに気付かなかったのだろう。
全く音がしなかったのだが。
とりあえず何か話をしなければ。
どうする。
どうする。
「あの…神様から、この世界を見て回るように言われて、先ほどここに降り立ちました。」
「は?」
いや、まんま説明してどうする俺。
どうやら想定外の反応だったのか、女性の表情が一瞬だけ緩む。
こうしてみると、そこまで年齢は高くないのかな。
少女のようにも見えるが。
「…もう一度聞くぞ。何者だ。」
微妙な雰囲気を払拭するように、更に低い声で問いかけてきた。
そりゃそうだ。
怪しいもん。俺。
どうしたもんかなあ…。
答えに窮して女性を見ると、何やら先ほどとは別の警告音が、頭に響いた。
すると、変な感覚。
ん?
自分の危機ではないって?
「そういうことじゃよ。」
だから会話をしてくれ!と思いつつ、平静を装う。
じゃないと首はねられそうだし。
それにしても、どういうことなんだろうか。
女性を見る。
ゆっくりと周囲に目を向ける。
50人ずつくらいに分かれた集団を見る。
女性を見る。
集団Aは…普通。
集団Bは…普通。
集団Cは…危険?
…。
…。
やってみるか。
間違っていたとしても、黙っているのと結論は変わらないだろう。
「あの、神様から特別な能力をもらって、先ほどこの世界に来ました。向こうの方々は、あなたの味方ですか?」
何だこいつ、という表情のまま、軽く頷く女性。
「右の集団2つは味方ですが、左はあなたの敵です。危険です。」
「…。」
「信じなくてもいいですが、確認くらいはした方がいいですよ。」
さて、どうだろう。
俺の首に剣を当てたまま、動かない女性。
すると、女性の表情が更に険しくなった。
「ドネル。」
俺から視線を離さず、女性が呼ぶ。
すると、右側の集団から騎馬が一騎近づいてきた。
「はい。」
「向こうの兵士、うちの軍か?」
「と聞いております。」
「誰から?」
「ルフリー様です。」
「…。」
すっ、と、俺の首から剣が降ろされる。
「ドネル。念のためもう一度【確認】してきてくれ。」
「直ちに。」
「気をつけろ。」
「分かっております。」
ドネルと呼ばれた騎士が、離れていく。
すると女性が、こちらを見ながら「お前…誰だ?」と話しかけてきた。
俺の頭の中では、一段高い警告音が、鳴り響いた。
危機は去ってないのね。
ですよねー。




