第31話 夜に狩る、ついでに説明回。
「それにしても、パーティから追い出された人の境遇が、上振れてますよね。」
「パーティの主力が放出されたと聞いたら、獲得に走るのが当たり前だろう?」
「ですよねえ。」
何故、主力を急に追い出そうとするのか、については一旦置いておくとして。
有名になれば憧れている人もいるだろう。
無名でも実力を認めている人はきっといるはずだ。
そもそも「追い出された人」=「悪」ではない訳であって。
実力者には需要がある。
その待遇は、より良いところに落ち着こうとなるわけで、一度加入させたら全力で引き留めに入らないとだめだよね。
「実際のところ、生死の境で頑張る冒険者が、私情を挟んでメンバーを選んでどうすんの、ってことか。」
事情はさておき、それなりのランクでやっているパーティのメンバーが追い出されて『あ、こいつ無能だったのか』ってなるかというと、むしろこじれてくれてラッキー、うちに来ない?、だよね。
「ということで、うちのパーティにも穏健派の人が欲しい。」
「何それ。」
「ギルドが怪しい、からの殴り込み一択という選択肢の無さを是正したいだけです。」
「全員ぶん殴れば済むのに、わざわざ遠回りする理由がないじゃろ。」
「状況証拠だけど大分揃っているし、その話はまた今度にしましょ。」
今後があるのか期待は薄いけど、しょうがない。
まずは目の前のことかな。
「じゃあとりあえず、ウィスちょっと手伝って。」
「ん?儂?」
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「すいません、ギルドに回復に使える薬があるって聞いたんですけど。」
といいつつ、ギルドの受付に話を持っていく。
ウィスには、高熱を出して苦しんでくれ、と無茶ぶりをしたところ、
「任せるがよい。」
と二つ返事でオッケーをもらった。
どうするのかと思ったら、高密度の魔力を体の外側に循環させて、高熱患者の容態を再現するらしい。何それ?
ギルドの受付は、「いや、今は無理なんです」と言うが、困った様子はない。
しょうがない…という雰囲気を出しながら受付で水掛け論を交わしていると、潜入捜査中のレグから彩糸で連絡があった。
「予想どおり地下だ。裏手から隣の建物へ。右奥の部屋の床。」
「わかった。みんなでいく?」
「いや、クロムだけで頼む。」
僕だけ?
まあいいか。
「分かった。すぐ行く。」
受付でぎゃあぎゃあと騒ぐシトラスたちから少しづつ距離を取り、気配を消して外に出る。
建物の裏手に回ってから、レグの案内に従って隣の建物へ。
右奥の部屋に行くと、床に結構な大きさの穴が空いていた。
どうやらレグが入っていたようだ。
ロープもはしごも無いけど、どうやって降りていったんだろう。
って、レグなら普通に飛び降りそう。
…。
まあ、出来そうだけど、一応用心しておこう。
ということで、魔力で足場を作りながらゆっくりと降りていく。
暗い穴の底に向かって少し降りていくと、明かりの漏れる木の扉があった。
レグが先行しているからそれほど危険は無いと思うけど、向こう側の様子を伺いつつ慎重に扉を開ける。
そして、目に飛び込んできたのは、縄で縛られた男が一人、床に転がっている様子だった。
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パーティから離れて、潜入捜査に向かったレグ。
ギルドの隣の建物の、表の入口ではなく裏口に向かう。
一見普通の民家の裏口のように見えるが、彩糸で確認すると警報のような仕掛けがあることが分かる。
「一般市民のセキュリティレベルではないな。」
仕掛けの発動元と思われる扉の下の方を、魔力でまるごと包み、仕掛けを暴発させる。
そして、警報がならないように魔力を調整すると、魔力の包みを狭めて仕掛けそのものを押しつぶす。
後でクロムが来たときの保険だ。
「クロムなら普通に入ってこれそうだな。」
さて、幾つかある部屋のうち、明らかに魔力の残滓が濃い右奥の部屋に向かう。
部屋の扉はしまっていたが、人がいる気配がある。
中の様子を確認したレグは、特に策は用いずに、そのまま普通に扉を開けて部屋に入っていく。
10数人は横になれそうな広い部屋の中には、冒険者と思われる男が3名、椅子やベッドに座っていた。
「ん?なんだてめえ。」
「まて、警報が鳴らなかった。」
「ちっ。」
警報が鳴らなかった事実を正確に理解し、戦闘態勢を取る3人。
扉を開けて入ったレグの正面に、長剣を腰から抜いて構える男A。剣士らしい。
その右側に、両手に短剣を持った男B。盗賊っぽい。
後ろには、幾つかの指輪を嵌めた男C。ローブ。レグから目を離さない。
「聞きたいことがある。」というレグ。
気負わない雰囲気で語り掛ける様子は、この場では明らかに異質だ。
一方、レグの問いかけに一切反応しない3人。
話し合いをするつもりはない。
やるのは、殺し合い。
静かに佇むレグに向かって、男Aが一瞬体を沈めた後、右足を踏み込んで剣で突く。
突きに適した形状には見えない剣だが、慣れた技の様だ。
「しっ!」と息を小さく吐きながらの、超速の突き。
レグは「ふっ」と軽く息を吐くと、突きの軌道を見切り、左足を後ろに引きながら体を捻って躱す。
躱しながら右手で腰から【煌剣ジャー】を抜き、伸びた右腕の肘を狙う。
シュッ!っと振り抜かれた【ジャー】。
突きで伸びきった右肘を切り落としたかのように見えたが、そこに右腕はなく、しかも握られていたはずの剣すら無い。
「分け身か」
「知ってんのかよ」
一つの物体を、同時に幾つもあるかのように、自在に移動させるスキルである「分け身」。
熟練の剣技と相まって、その危険度を数段跳ね上げる。
男Aは、反撃を予想し、右手を曲げながら体を捻るように回転させて【ジャー】を躱していた。
そして「左手」に握られている長剣でレグの膝を横薙ぎに払う。
変則的な回転切りのような技。
さらに、回転切りに合わせて盗賊風の男が短剣を投擲しながら「2!」と叫ぶ。
その掛け声に合わせ、ローブの男が投擲された短剣を魔力で加速させる。
レグの頭と胸を襲う2本の短剣。
その表面には、僅かな湿り気。大型の魔物にも有効な麻痺毒だ。
だが、飛来する短剣2本の陰に、さらに2本が隠されていることを瞬時に察するレグ。
横薙ぎの長剣を、魔力強化された右の脛当てで「ギィン!」と弾く。
同時に、網状に展開した彩糸で短剣4本を音も無く絡め取る。
「弾くのか、厄介だな」
「あの糸っぽいのも」
男Aは再び右手に長剣を戻し、レグから男Cの姿を隠す動線で、警戒しつつ素早く後ずさる。
男Bは更に2本の短剣を投擲しつつレグを牽制。
レグの視線が一瞬外れた男Cは、レグの足元付近に『縛鎖陣』を発動させようと試みる。
しかし、レグが左の踵を「ダン!」と踏み鳴らすと、発動しかけた縛鎖陣がかき消える。
「マジかよ」
男たちと距離を取ったままの状態で、【ジャー】を右手に構えつつ、レグが再び「聞きたいことがある」と低い声で問いかける。
だが、当然返事は無い。
すると男Aが「ちょっと分が悪いかもしれん」と、レグから視線を外さずに言った。
「あの剣と、防具は」
「見たことがない」
「下だ」
下だ、という発言と同時に、男Bが懐から小さな宝石のようなものを取り出し、山なりにレグのいる辺りに投げる。
同時に男Cが、極限短縮詠唱で【黒光】と唱える。
瞬間、宝石から闇が溢れ、部屋を満たす。
闇が満ちた部屋は完全に視界が閉ざされている。
だが男たちは、全て見えているかのような動きを見せる。
恐らく、何かしらの強化魔法か魔導具で視力を補っているのだろう。
そして、レグの気配には十分に注意しつつも、外からは見えない非常口を使って、部屋からの脱出を試みる。
「10の4だ…ぐっ!」
男Aが、暗号で集合場所を指示しようとした瞬間、レグの右脚が男Aの脇腹にめり込む。
振り抜かれた右脚の勢いそのままに部屋の反対まで飛ばされた男Aは、壁に叩きつけられ、程なく意識が飛んだ。
男Bと男Cは、闇の中のレグの動きに驚愕しつつも、仲間に意識を向けっぱなしで隙を見せるような実力ではない。
緊急脱出用の仕掛けを一瞬で発動させると、非常口から脱出。
男Bが尾行防止用の魔導煙幕を発動し、男Cも気配遮断の魔法を唱える。
逃走や隠密行動に慣れすぎていると感じる、その逃げっぷりは、明らかに普通の冒険者とは異質な何かを感じさせる。
だが、逃げる二人の足に、風景に同化しながら七色に光る1本の糸が絡みついていることには最後まで気付かなかった。




