第27話 南部の都市、ベッシュ
王都の周辺には、大小合わせて30ほどの街・村が点在している。王都の守備を担う軍の駐屯地もある。
ちなみに、普通の感覚なら「いやこんなところに砦なんて築かないでしょ」というような、攻めにも守りにも効かない砦なんかは無い。
王都から乗合馬車を乗り継いで6日ほど、一行はブリトン王国南部最大の都市である、ベッシュに着いた。
「王都よりも、少し暑いですか?」
「もう少し季節が進むと、もっと暑くなるようだぞ。」
うえー、暑いのは苦手、と顔をしかめるシトラス。
対してウィスが「儂は問題ないぞ」と無い胸を張る。
それにしても、全身黒尽くめのレグが涼しげなのが、何気にすごいかも。
「暗殺業をするなら寒暖には強くないとな。」
いや、暗殺業は色々面倒くさいからやめて。
というか人に聞かれるだけで厄介だから。
さて、王都アバーフロウとベッシュの間は、本来ならば馬車で3日もあれば余裕の行程のはずだが、どうやら馬車の本数が減っているらしい。
「原因は何でしょうか。」
「やっぱり流行り病ですか?」
自分、頑張ります!と意気込むリラ。
対してシトラスは、「病気かどうかは分からないけど、可能性としては高いわね」というと、輸送や交易に影響が出るほどの事態なのね、と事の重大さを改めて認識しているようだ。
とりあえずは…どうしようかな。
「まずはギルドに行ってみようか?」
「そうね。あ、でも二手に分かれましょうか。」
シトラスの提案で、リラ・レグは街中で情報収集することになった。
「情報収集のついでに、何か甘味を頼む。」
「この辺りだと何か有名な料理とかあるのかしらね。」
「それも一緒に調べてきますよ。」
「任せたぞ。」
王都探索の結果、ウィスの甘味探究心は相当強くなったみたい。
まあでも、それくらいはいいんじゃないかな。
態々人間界まで来たわけだし。
「じゃあ僕らはギルドに行ってみようか。」
ちなみに冒険者ギルドの入る建物には、必ず目印がある。
建物の屋根に、細長い棒のようなものが突き刺さっているのだ。
冒険者に対する緊急連絡手段として利用する、この棒のようなものは、平時は木の棒のような見た目になっている。
でも例えば、巨大な竜が飛来してきた!なんていうような時には、全ての冒険者に対する迎撃要請となる赤に光る。また、方角がわかっていれば、それぞれ対応する色と交互に光る。
北なら白、南なら黒、みたいに。
ある意味、そうやって冒険者は街の秩序に貢献しています、とアピールしているわけだ。
職業として地位向上は大事だよね。
ということで、さして迷うこともなく4人でギルドに移動する。
街の規模からすればこのくらいかな、という大きさの建物だが、一般的にはかなり大きな建物だろう。
両開きのドアを開けて中に入ると、室内のレイアウトは王都のギルドと似ていた。
ざっと見渡すと、受付の一角で揉め気味の集団が見えた。
「何か揉め事でしょうか?」
「ちょっと近づいてみましょう。」
シトラスが揉めている現場に向かおうとするので、「あんまり騒ぎを起こさないでね」と釘を差しておいた。
「大丈夫大丈夫。」
といっているけど、正直信用はしていない。
売られた喧嘩を即決で全部買う性格が治らない限りは、信用は難しいなあ。
まあ、一応僕らもいるから、何とかなるでしょ、と4人で近づくと、ギルドの受付と複数のパーティが揉めていた。
「何で無いんだよ!散々集めただろ!」
「文句は領主にでも言ってください。ギルドとしてはこれ以上提供できません。」
「死ぬかもしれないんだぞ!」
「出したくないわけじゃないんですけど、出せないんです。これは決定事項です。」
冒険者側はかなりの剣幕だ。
けど、何か引っかかるのは…領主という単語が出てきたから?
「何かしらの病気が流行って、でも領主が状況的に薬の在庫を確保したいから市中の流通量が少ない、という会話に聞こえるけど…。」
というシトラスの分析は、当たっていそうだけど。
やはり流行り病が深刻な状況なのだろうか。
いや、でも何か引っかかるな。
なんだろう。
「あ、そうか。」
「何?」
「いや、単純なことだった。ギルドが領主の指示に従う理由がないよね。」
冒険者ギルドは、最終的には独自の指示系統で動ける組織のはずだ。
「つまり、出し渋っているのは領主の動向は関係なくて。」
「うん。恐らく、ギルドの中で何かがあるんだと思う。」
しかもベッシュくらいの大都市のギルドなら、王都のギルドとも繋がっているはずだし、何だかなあ。
「もしかして、何かしらの企みに巻き込まれてる?」
「何か、そんな気がする。」
「ちょっと面倒になってきた。」
「お願いだから全員蹴り飛ばすとかはやめてね。」
「なるべくね。」
いや、なるべくじゃなくて、やめてください。




