第13話 怪しい仕掛けを発動させてみよう。その1
とりあえずは調査、ということで、「何か分かった?」とシトラスがレグホーンさんに聞く。
すると、「少し前からやっているが、流石に詳細は分からないな。」と答えつつ、とある方角を向くレグホーンさん。
「そう。まあいいけど。」
行ってみれば分かるしね、とシトラス。
「一応確認だけど、ギルドが無関係で、本当に善意の忠告だったら、それを無視することになっちゃうよ。」
「言い訳は一応あるわよ。」
「何?」
「道に迷いました。」
「それは無理があり過ぎるよ…。」
もう少し使える言い訳を後で考えよう。
「それにしても、こういうのが、あの噂が現実になるタイミングなのかもね。」
「というと?」
「忠告を無視して森に突っ込んだ結果、ひどい目に会いました、と。」
「それは、明らかに冒険者としての資質が疑われるな。」
「初陣に意気揚々と出発して、ひどい目にあって。」
「這う這うの体で何とか帰ってきて。」
「その責任を擦り付け合って、パーティが分裂して。」
「追い出した側が落ちぶれて、抜けた側が新しいメンバーでうまくやる、と。」
「想像力あり過ぎ。」
だけど、噂だけではなく、実際にそういう出来事があったからこその広まり具合なのかもね。
「でもまあ、おかしいわよね。」
「そうだな。」
「何がですか?」
「そんな噂が立って、真っ先に困るのはギルドでしょ。」
「まあ、そうですね。」
「なのに、まともに調べた様子も無ければ、火消しに走るわけでもない。まるで他人事のようだわ。」
「一時的に冒険者の数が減るだけだと簡単に考えているのでは?」
「たとえ一時的でも、減れば依頼は滞る。AとかBが減るならなおさら問題だろう。」
下の方のランクの冒険者が一時的に減るだけなら、何とかなると考えている可能性もある。
ただ、高ランクのパーティが活動を停止するのは、冒険者ギルドとしては明らかに痛手だ。
それをまるで他人事のように傍観している。
「今回の案内といい、この状況といい、怪しいわね。」
シトラスはギルドが怪しいと決めつけている節があるが、実際には単なる偶然ということも考えらえる。
「一応、単なる偶然、という可能性も踏まえておこうよ。」と言っている僕自身も、それは無いかも…と思っているわけだけど。
いずれにしても、シトラスの「行けば分かる」はそのとおりだ。
じゃあレグホーンさんに先導をお願い…と言おうとした瞬間、バッ!っと、5人が一斉に同じ方を向く。
「何の気配かしら?」
「ちょっとここからだと分かりにくいね。」
そのまま皆で凝視していると、どうしますか?とリラさんが問いかけてきた。
「かなりの悪性を感じますけど、どうしますか?」
「森の中よね。」
「はい。結構奥です。」
「よし、行きましょう。」
行く、というシトラスの発言に特に反対もなく、こまめに位置を確認しながら森に入ってしばらく歩くと、明らかに目立つ場所を発見した。
「見事に更地ね。」
広い森の中に、木も草も無い更地。
それだけでも違和感があるのに。
「しかも何かあるし~。」
更地の真ん中に、明らかに異質な黒い柱。
怪しい。
というか、怪し過ぎる。
「ここだよね?」
「はい。」
「あからさま過ぎて逆に引くわ。」
改めてレグホーンさんに調べてもらうと、この柱、このままだと近いうちに勝手に壊れるそうだ。
そして、壊れた結果。
「壊れることで発動する召喚陣ですか?」
「そうだ。」
「召喚陣自体は目視できるの?」
「いや、今の段階では見えないだろう。」
すると、これと似たようなもので描いていると思う、とレグホーンさんが指先から光る糸のようなものを出す。
「これは…。」
「彩糸、と呼んでいる。」
綺麗ですね…と呟くリラさん。
確かに、虹色に輝く糸が、風になびくように翻る様は幻想的だ。
「へー。7属性の魔力を編み込んでいるのね。」
「ああ。」
「器用ねー。」
実際には、器用で済ませられないほどの技巧だと思うけど。
まあ、それはまた後で。
「魔力で描いているから、魔力探知には引っかかるけど目視は出来ないということですか。」
「召喚陣自体を破壊は?」
「出来るな。」
「じゃあ…。」
「ただ、何が出るのか、誰が仕掛けたのか、は分からなくなる。」
「つまり証拠が無くなるってことか。うーん。」
誰が何を召喚しようとしているのか見極めたいか…ということか。
「まあ、何が出てきても何とかなるでしょ?」とシトラス。
「つまり?」
「つまり、さっさと壊して起動しちゃいましょう。」
「だよね。」
過激というか短絡的な意見ではあるが。
まあ、実際のところ、どうにでもなりそうなんだよね。
「私は問題ありません。」
「僕もです。」
「問題ないだろう。」
何というか、肝が据わり過ぎていて逆に怖い。
これって、もし自分が「やっぱりやめよう」とか言ったら、臆病者はパーティには不要とか言って追い出されりするのだろうか。
「大賢者クロムなら余裕っしょ!」
「その称号は人前では止めてね…。」
まあ、自分含めてこの様子なら大丈夫と思いたい。
「ということで、いっきまーす!」
と、柱に向かって走り寄るシトラス。すんごい笑顔だ。
「八刀・冥!」
と言って振りかぶったシトラスの手には、剣も何もない。
つまり手刀だが、他の技とは多少使い道が異なる技だ。
「剣を使わない?」
「魔刃と呼ばれているものだろう。」
「目に見えるものと見えないものを、まとめて切り飛ばす技、なんだよね。」
「ということは?」
「何か気になることがあったんだと思う。」
シトラスが手を振り下ろしてしばし、
黒い柱を両断するように赤い光が迸る。
「あ、こういうときに言うセリフ、僕知ってます。【やったか?!】」
「切れてないということは無いと思うけど。」
「だとすると、想定した結果ではない、ということだろう。」
柱が真っ二つに割れ、左右にゴロン、と転がる。
そして、待つことしばし。
「発動したかしら?」
「そうだな。」
切断された柱の断面から、別の赤い光が広がり、地面に複雑な文様を描き始める。
そして。
「ここまでは予想どおりの召喚陣だな。」
「そうね。」
「時間と破壊行為の両方に反応するって、結構な手間をかけてるわね。」
「設置慣れしていれば、そう手間でもない。」
「召喚陣の設置に慣れるって…変ですよね?」
変ですよね?と、トープさんが言い終わるあたりで、召喚陣に変化が見える。
「おお…。」
「不謹慎だけど、かっこいいわね。」
赤い光が正八角形の複雑な文様を描く。
すると、正八角形は縦に分裂して、一方が宙に浮き始める。
するすると浮かんで、大体5mくらいの高さで止まると、地面の正八角形との間に、今度は赤黒い光が稲妻のように暴れ回る。
「かなりの大きさですね。」
「八角の立体雷獄陣。」
「これって、どのくらいの技量というか、力量なんでしょうか?」
「設置そのものは、時間が掛かるがそれほど難しくはない。ただ…。」
「ただ?」
「かなりの魔力を吸い込まないと、発動できない。」
「どこからですか?」
「人間から吸い込むのが、一番効率が良い、と聞いた。」
なるほど。
うまく誘導されて、魔力を吸われた冒険者が多いのかも。
「それにしても、もし私たちが報告優先で王都に戻って、これが発動していたとしたら…。」
「王都に被害が及んだかも?」
「そうなると、どこまで王都の人たちを守り切れるかは、運次第だったね。」
「まあ、実際のところは此処にいるけどね。」
バチバチと音を立てて、ゆっくりと上下逆方向に回転する八角陣。
すると、上の八角陣から、巨体が姿を現す。
身の丈5mに迫ろうかという巨体。
4本の手には、同じく巨大な剣が握られている。
うへえ、というちょっと間抜けな感想を漏らすシトラス。
でもまあ、気持ちは分かる。
「えっと…これって、名前あったっけ?」
「似たような魔物はいたと思いますが、大きさが違いますね。」
「スケルトンナイトのこと?」
「はい。」
巨大な四本腕の骸骨。
一般的に言われるスケルトンナイトは大きさは人並み、腕も2本という常識的な見た目だ。
でも、目の前の巨大な骸骨は、明らかにそれとは見た目も雰囲気も全く違う、禍々しいものだ。
「まあ、多少は歯ごたえがあればいいわね。」
というシトラスは余裕の表情だが、しっかりと相手の様子を見定めているようだし、油断はしていないようだ。
僕も油断なく様子を見ていたところ、その骸骨に異変が起きる。
突然、力が抜けたように膝から崩れ落ちると、全身の骨という骨がバラバラと崩れて地面に落ち始める。
骨自体は軽いのか、カラカラと乾いた音を立てながら召喚陣の上に広がる骨。
えー…という表情のシトラスが見たのは、上空から降り注ぐ骨に「ぎゃー!」と言いながら、召喚陣の上で逃げ惑っている少女だった。




