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その4 青白い影  (体験採集地:中学校校舎)

2005年夏に、創作仲間のサイトで行なわれた百物語企画に投稿し、同時に旧自サイト「よいこのためのアジト」で発表した「怪談十話」の第3話です。


旧自サイトで宣言したように、著作権を放棄します。改変、再使用はご自由に。

 中学の頃の話だ。

 僕の中学校では毎年11月後半に文化祭を開いて、各クラスがテーマを決めて教室で発表する。僕のクラスは心霊現象と云うテーマで真面目な発表する事になった。お化け屋敷ならぬ、真面目な発表で心霊現象はちょっとどうか、と僕のみならずクラスの大半がそう思っていたが、とにかくそう決まってしまった。決まったいきさつは今から考えてもちょっと悔しい。

 文化祭のテーマを決める話し合いの時、僕のまわりの数人が、お化け屋敷なら面白そうだと言い始めたのだが、それを近くにいたA子…クラスで一番生意気な女だ…が、お化け屋敷ではタイトルがまずいから、心霊現象という名目はどうかと知恵をつけて、それで提案したら、数あるライバルを破ってそれに決まった。ここまでは良くある話だろう。ところが、決まった瞬間に、それまで黙っていた担任が、心霊現象の研究という以上、お化け屋敷は論外で、真面目な研究発表で無いといけないぞと吐かしたのだ。そんなことは、採決の前に言って欲しい。担任が黙っていたのは、きっと怪談でも採集していて、心霊現象に決まる事を望んでいたに違い無い。そんな訳で、真面目に心霊現象の例を捜す事になった。

 いきさつはともかく、心霊現象がテーマとなれば、それだけで他愛無い遊びは始まるものだ。男子は、ウラメシヤーとか1枚2枚3枚とか言って騒ぎ、放課後なんか、外が薄暗いのにかこつけて教室の電気をいきなり消したりする。中学と云うのはそんな年頃だ。男子は精神年齢が女子より遥かに低い。そういう幼稚な男子を、女子は半分馬鹿にしたように、半分幼い弟に遊んでやるかのように付き合っていた。まるでお釈迦様の掌の上のお猿さんだった。

 もっとも、いくら男子中学生が幼いと云っても、同じ事を毎日毎日繰り返すほど馬鹿ではない。ところが1人だけ違っていた。仮に甲とでも言っておこう。その甲だが、彼はクラスの女子に向って、

「夕方暗くなると、階段下の踊り場で幽霊が出るよ」

と、毎日毎日云い続けたんだ。そうして御丁寧にも、毎晩最後まで教室に残って、教室を出ていく女子の半分ぐらいに、

「幽霊が怖いなら一緒に帰ってやるよ」

と言っていた。さすがに、男子からすら『阿呆や」と白い目で見られていたが、本人は無神経と云うか気にしない。もちろん女子が相手にする筈も無く、彼が何と云おうと無視してさっさと教室を出ていた。

 肝心の甲は、一番最後の女子の時だけこっそりついて行って、女子が階段の中ごろにさしかかるや、階段の電気を消して、ウラメシヤー、と言って舌を出していた。なんとも他愛のないイタズラだが、それを甲は毎日毎日やっていた。全く幼稚としか言い様が無く、始めの二・三日こそ不快感を表していた女子も、直ぐに無視するようになった。

 もっとも、どんなに幼稚でどんなに他愛無くても、継続は力には違い無い。瞬くうちに男子生徒の間でも有名になって、甲の幽霊真似を見ようと数人の男子ギャラリーが放課後残るようになった。女子の中にもパフォーマンス的な反応をする者も現れた。こうなると、幼稚を通り越して、偉いと云うべきかも知れない。


 甲がそういうパフォーマンスを2週間ほど続けたある日の事だった。例のA子を含む生意気な女子3人がたまたま放課後の最後になった。その時は僕も居合わせたが、甲がいつものように電気を消して、ウラメシヤー、と言い、3人の女子が当然のごとく無視して階段を降りようとしたその矢先だ。彼女たちが突然悲鳴をあげた。

「きゃ!」

「なに、あれ?」

3人とも1階を指差していた。彼女たちの様子には僕達もびっくりした。さっそく居合わせた学級委員が

「どうしたんだい?」

と言って、階段を駆け降りながら彼女たちの指差す方を見る。僕達だって2階から覗く。何も見えない。

「何もいないじゃないか?」

「今、いたの、そこに青白いぼおっとした人影が」

こう聞いてはじっとしていられない。残りの男子も階段を駆け降りて、彼女たちの指差す方を吟味したが、誰も、何もいなかった。

 彼女たちの話を総合すると、電気の消えた瞬間、青白い人影のようなものが1階に浮かび上がって、その人影は数秒で次第に姿を消したそうだ。奇妙と言えば奇妙だが、僕は子供の頃のコンデンサーの怪を知っているから、科学トリックに違いないと確信した。というのも、甲ならこんな手の込んだ悪戯が出来そうだったからだ。彼は精神年齢こそ低いが、理科と工作が子供の頃から天才的だった。

 僕達の興味は彼のトリックを知る事にすぐさま移った。でも、そこは3人の生意気な女子が驚いているところだ。特にA子は生意気だから、彼女を安心させるのは悔しく、これがトリックだと口が裂けても言えなかった。他の男子も同じだろう。代わりに、僕は甲に向ってにやっと笑って見せた。そしたら、それまで驚いた顔…演技に決まっている…をしていた彼も、ちょっとだけニコっとした。痛快だった。


 翌日になると、前日の幽霊話はクラス中に広まった。もちろん幽霊としてだ。けっしてトリックとしてではない。ところはA子の奴は全然元気だ。もちろん生意気一番のA子が弱味を見せるようなヘマをする筈がないが、それにしても大したものだった。前日こそ驚いたけど、一夜明けるや、生意気の鼻は再び伸びて、

「わたしに霊感があるから見えたのよ」

と威張っている。文化祭のテーマに相応しい現象の体験者という意味では、確かに彼女は自慢できるから、僕達の淡い期待はすっかり外れて藪蛇になってしまった。もっとも、内心はびくびくしているのではないか、と僕達は信じていたから、

「怖く無いなら今夜は最後に1人で帰ったらどうか」

とA子に対して挑発はしていたが。

 その挑発の乗ったのか、A子はその日も最後になった。ただし他のメンバーは昨日と異なって、しっかり者の女子が一緒だった。そうして彼女たちは昨日と同じように階段の真中の踊り場にさしかかった。その時、A子は大胆にも

「昨日と同じようにやってよ」

と甲に注文してきた。どうも彼女にトリックだと入れ知恵した奴がいるらしい。

 注文通りに甲が電気を消したが何も起こらない。さては甲の奴、A子にタネを見破られるのを嫌がって今日は細工をしなかったな、と僕は思ったし、居合わせた男子もそう思っただろう。代わりに甲は

「どうした、霊感は」

と噛み付いた。だが、結果は、居合わせたしっかり者の女子に

「今日はいないんでしょうね。きっと甲君なら知ってるでしょうけど」

と締め上げられただけだった。こっちも悔しかった。

 

 勝ちを得たA子たち帰った後、僕達は甲を慰めた。生意気A子に楯つくべく、頑張って幽霊の細工をしたんだから偉いものだ。その時の彼の表情を今でも忘れる事が出来ない。

「え? あれは**君の細工じゃなかったの?」

そう聞き返す彼の表情は、全く意外だというものだった。僕は彼を知っている。こんな時は嘘はつかないし嘘をつけない。

 

 今でもあの謎は分からない。


written 2005-8-3

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