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その2 幸運のクローバー  (体験採集地:都市縁の用水路脇)

2005年夏に、創作仲間のサイトで行なわれた百物語企画に投稿し、同時に旧自サイト「よいこのためのアジト」で発表した「怪談十話」の第2話です。


旧自サイトで宣言したように、著作権を放棄します。改変、再使用はご自由に。

 小学校の1年生か2年生の春先だったと思います。近所の友達と小川の川べりで遊んでいるうちに、ふとした偶然から友達の一人が四葉のクローバーを見つけました。あの、幸運の象徴と言われる四葉です。それをきっかけに、それまでの遊びをやめて、皆で四葉捜しに熱中し始めました。一人が幸運を見つけると、他の者も競って幸運を捜し始めるのは子供に限らないでしょう。

 やがて、50mほど上流にいる連中から次々に歓声があがりました。四葉が見つかったのでしょう。一人ならず3人までも同じ場所で四葉を見つけたとあっては、四匹目の泥鰌も五匹目の泥鰌もいるに違いありません。四葉と云うのは、有る所には有り無い所には無いもので、私たちはそれを経験で知っていました。そこで、私たちも歓声のあがったところへ、いや、そこは占領されていますから、もう少し上流側に行って捜し始めました。


 ちょっと捜しただけですぐに見つかりました。それも1つや2つではありません。沢山あるのです。夢中になって幸福を摘んでいますと、近くに移動した別の友達が、誇ったように

「見て見て」

と私たちを呼び集めました。なんと五葉のクローバーなのです。この時は、皆で競争のように四葉の数を競っていた所ですから、五葉が不吉だなどとは思いもよりません。葉っぱの数は多いほど良いに決まっていると誰もか思っていたのです。皆が彼女を羨みました。

 こうなると、幸運捜しの競争は、四葉をいくつ見つけるかの勝負ではありません。五葉のクローバーの数であり、誰も声には出しませんが、六葉のクローバーを誰が一番始めに見つけるかの勝負です。だから、もう皆が夢中です。そうして、実際に五葉のクローバーも次々に見つかって行きました。

 その頃、私は妙な事に気が付きました。3つの葉が同じ大きさの三葉が減って、葉の不揃いなクローバーが増えているのです。そうして、そういう歪な葉の一つとして四葉・五葉があるのです。おそらく他の皆も同じ事を感じていたに違いありませんが、そこは競争心理のなせる技で、それが不吉の前兆かも知れないと薄々感じても、やめるとっかかりが無いと止められません。私たちの暗黙の建て前は、一番始めに六葉のクローバーを見つけた者が幸運捜し競争の勝利者なのです。そうして、ついにその六葉が見つかりました。


 見つけたのは私です。当然、勝ち誇って皆を呼び集めます。そうして、皆が私の見つけた六葉を見入っていました。そのとき、最後に六葉の首検にやってきたのが、私たち遊び仲間を仕切っている年上の女の子です。彼女の表情には、勝ちを私に取られた悔しさが見て取れます。その様子に私が満足したのもほんの一瞬でした。彼女はこう言ったのです。

「それ、幸運どころか不幸の葉じゃないの?」

只でさえ奇形の多いのに気味悪く思っているところです。彼女の声は真実味を帯びていました。だれかれとなく

「ここのクローバー、絶対祟られている」

と言い始めて、怖くなった私たちはすぐさまその場から逃げました。もちろん、その日の成果をすべてその場に捨てて。


 数日のち、クラスの子が、五葉のクローバーを見つけたぞ、と威張っているのを聞きました。なんでも押し葉にすらしたそうです。私は、あの五葉が奇形の一種だから幸運でも何でもない、と彼に忠告しましたが、彼は怒って、私に取り合いませんでした。確かに喜びに水を差すような事を証拠も無く言われては、大人ですら気を悪くするものです。ましてや子供。だから私もすごすご引き下がりましたが、でも、私はもっと強く彼に忠告すべきだったのです。

 1ヶ月後、彼は奇病に罹りました。皮膚の爛れる病気で、お医者様も首をかしげるものでした。そう、祟りは確かにあったのです。私がたまたま祟りから逃れられたのは、偶然でしかありません。あのガキ大将の女の子が嫉妬しなければ、それこそ私がその奇病に罹っていたのかも知れないのですから。彼の病気の話を聞いた時、ぞっとした覚えがあります。


 今にして思えば、危険な化学物質があの一帯に廃棄さていたのかも知れません。その化学物質のせいで彼は病気になったのしょう。しかし、それは農薬ではありえまん。というのも、翌年以降、五葉のクローバーは同じ場所にさえ一度も見られなかったのですから。その毒が何だったのか、今でも分かりません。


written 2005-7-31

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