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エピローグ 孤独の終わり、輝けるもの

 それから、十年の時間が流れました。

 ステラの病気は完治して、今では少女から立派な大人に成長しました。

 夜魔の森の守護者としてあの家に住み続け、そして人形師として活躍しています。

 森の管理は薬草が必要なときと、森の獣たちの様子を見るときだけなので、一日の時間はどうしても余ってしまいます。

 ステラはその時間を、人形師を目指すことに費やしました。

 翡翠の欠片の胚珠を飲んでから病気を完治させたステラは、人形師としてのリゲルに弟子入りしました。

 どうしてそんなことをしたのかというと、もう一度あの少年に出会う為です。

 アルファルドが壊れてしまってから、ずっとその身体を抱き締めていたステラに、リゲルは救いとなる未来を示してくれました。

 心臓になる部分にあった赤い石を取りだして、ステラに持たせて、それがアルファルドの心だと教えてくれたのです。

「アルファルドだった少年は死んでしまった。身体が死んだ以上、心はもそれに引き摺られてしまう。だけどね、アルファルドだった心はこの石に宿っている。あの子自身の記憶が消えてしまっても、それでも残るモノはきっとある筈なんだよ」

 リゲルが示した未来は、ステラが人形師になることでした。

 いつか自分の手で人形を作って、そしてこの石を、心を込めることにより、アルファルドの心を引き継いだ少年に出会うことが出来ます。

 アルファルドとしての記憶がなくなっていても、それでも同じ心を持っている存在であることは確かなのです。

 そしてステラは決めました。

 今度は、自分が彼に心をあげるのだと。

 偽物の身体、偽物の心。

 けれど、本物を目指すことが出来るように。

 痛みを感じて、表情を変えられる。

 そんな人形を作れるようになろうと決意しました。

 嬉しいときは笑って、悲しいときは泣いて、心を伝えられるような身体を作れるようになろうと決めました。

 その為に、人形の研究を続けてきました。

 人形師として最高峰の技術を身に付け、それでも足りなくて、新しい技術を開発して、ステラは目指すモノを創り上げました。

 十年もの歳月がかかってしまいましたが、ステラはその時間を愛おしく思っています。

 もう一度あの子に出会いたい。

 今度こそ、幸せにしてあげたい。

 あの子が私を幸せに導いてくれたように、今度は私がこの子を幸せにしてあげるのだと誓っています。

 目の前に座っているのは、人間と何一つ変わらない人形です。

 見た目は人間の少年そのものです。

 白い髪、灰色の瞳、あどけない少年の顔がそこにあります。

 ステラの記憶に残るアルファルドの姿そのものでした。

 けれどあの時とは何もかもが違います。

 その身体は柔らかく、傷が付けば血が流れます。

 限りなく人間に近づけたその身体は、通常の人形よりもはるかに脆く、ちょっとしたことで壊れてしまうかもしれません。

 けれど痛みを感じることが出来ます。

 温もりを感じることが出来ます。

 そして涙を流すことが出来ます。

 笑うこと、怒ること、感情を示して、心を伝えることが出来ます。

 心を伝えられる身体。

 それを、ステラはアルファルドに贈りたかったのです。

「待っててね。もう少しだから」

 ステラは胸元に仕舞い込んでいたペンダントを取り外します。

 あの時からずっと、肌身離さず持っていた『石』です。

 アルファルドの『心』がここにあります。

 身体が死んでしまい、心が引き摺られて、かつてアルファルドだった少年の記憶はもう残っていない筈です。

 けれど、もう一度新しい身体を与えられたならば、まっさらな新しい命として目覚めることが出来ます。

 記憶は無くても、アルファルドだった『何か』がきっと残っていると信じています。

 ステラはその石を、人形の中に取り込ませました。

 心臓とも言える石を得たことで、人形の身体が動き始めます。

 そっと眼を開いた少年の瞳は、懐かしい灰色でした。

「……?」

 何も分からない少年はきょろきょろと辺りを見渡します。

 そして目の前に居る女性に気付きました。

 ステラは金色の瞳に涙を滲ませながら、少年に笑いかけました。

「初めまして。私はステラよ。あなたを作った人形師」

「マイスター、ですか?」

 その声も、かつてのアルファルドそのままでした。

 けれど声の響きに感情がこもっているのが分かります。

 心を伝えられる身体を造ること。

 声の変化までも再現すること。

 それは成功していました。

「そうよ。あなたのマイスター。これから一緒に過ごしていく家族でもあるわ」

「家族……」

 その言葉を噛み締めるように、少年は呟きます。

 そして何かを考え込んでいます。

「どうしたの?」

「……良かった」

「え?」

 少年は心から嬉しそうに笑います。

 灰色の瞳にはうっすらと涙が滲んでいました。

「笑えるようになったんですね。それに、とても幸せそうです。あなたが元気そうでよかった、ステラ」

「え? え? も、もしかして、アルファルドなの!?」

 記憶は失われた筈でした。

 肉体が壊れたと同時に、その心も引き摺られる筈でした。

 けれど、アルファルドはステラのことを忘れたくありませんでした。

 この心を残してくれるのなら、いつかもう一度ステラに出会いたいと願っていたのです。

 いつ途切れてもおかしくない程に細い糸で繋がっていた記憶は、その大半が失われました。

 けれど、大きくなったステラが自分に笑いかけてくれるのを見て、一気にその記憶が蘇ってきたのです。

 全てが繋がった記憶は、少年をアルファルドに戻してくれました。

「僕にも不思議な感じですが、どうやらそうみたいですね」

 アルファルドはステラに笑いかけます。

 笑える自分に驚きました。

 偽物の身体、偽物の心。

 かつてそう詰られた記憶は、どこか遠いモノになってしまいました。

 今の身体は限りなく人間に近いものです。

 笑うことが出来ます。

 心を伝えることが出来ます。

 そんな身体を、他でもないステラが造ってくれたのです。

 かつて偽物だということに苦しんだ自分の為に、ステラが一生懸命造ってくれたのです。

 アルファルドにとって、それは泣きたくなるぐらい嬉しいことでした。

 そして目の前に居る少年がかつてのアルファルドだと分かったステラは、そのまま彼に抱きつきました。

「わっ!?」

「良かった! もう二度と会えないかと思った!」

「ステラ……」

 アルファルドは泣きながら自分を抱き締めてくれるステラの身体を、そっと抱き返しました。

 記憶に残っているよりも随分と大きくなってしまいましたが、それでもステラであることに変わりはありません。

 こんなにも大きくなってくれたことが嬉しくもありました。

 そして自分の身体が昔のままであることが少しだけ悔しく思いました。

 昔のままの身体よりも、今のステラを包んであげられるぐらい逞しい身体だったら良かったのに……と、今ではマイスターでもある彼女を少しだけ恨めしく思いました。

 けれど、失ったものを取り戻す時間はこれから沢山あるのです。

 すれ違ってばかりだったあの時とは違い、今はお互いに心を触れ合わせることが出来るのですから。

「ステラ。僕は、これからも君の傍にいてもいいですか?」

「もちろんよ。その為に、その身体を造ったんだから」

 涙を拭って、ステラはにっこりと微笑みかけます。

 アルファルドは、昔からずっと求めていた笑顔を惜しみなく向けてくれるので、とても嬉しくなりました。

「それからね。あなたにプレゼントがあるの」

「プレゼント、ですか?」

「ええ。受け取ってくれる?」

「ステラがくれるものなら喜んで」

 この身体を貰えただけでも十分に嬉しかったのですが、ステラにはまだ彼に贈りたいものがありました。

「新しい名前をあげる。あなたはもう『孤独』なんかじゃないから」

 ステラはかつてアルファルドと名付けた少年に、新しい名前を贈ることにしました。

 両頬に手を添えて、額をこつんとぶつけました。

 そして、宝物のようにその名前を口にします。


「あなたの新しい名前は『シリウス』よ」

 

 それは『輝くもの』という意味の名前でした。

 ステラにとって、そしてかつてアルファルドだった少年にとって、新しい希望の光になるようにと考えた名前です。


「これからよろしくね、シリウス」

 ステラはシリウスとなった少年に右手を差し出しました。

「はい。よろしくお願いします、ステラ」

 シリウスはその手を笑顔で握り返しました。


 すれ違ったまま別れてしまった二人は、再び出会って、そして家族になりました。


 輝く星は、小さな星に寄り添います。

 これからずっと、穏やかな時間を過ごしながら、二人は幸せに過ごすのでした。



アルファポリス絵本・児童書大賞に参加してます。

気に入ったら投票してくれると嬉しいのであります。

ぽちっとな~(*^▽^*)

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