七話 良い助手と日常
起きたら昼だった。
「所長、遅いですよ。」
と、人見が私のためにコーヒーを沸かしながら言った。良い助手である。
「そんな事はいい。マウスはどうだ。」
カップにコーヒーが注がれていく。
「何も変化ありません。元気に走り回ってますよ。」
私は大げさにため息をついた。
「まあまあ、いつものことじゃないですか。ところで、例の冬眠男って本当なんですか?」
コーヒーが側に置かれた。
「その冬眠男に会ってきた。まだ冬眠すると決まった訳じゃないがね。」
コーヒーを啜る。美味い。私の好みを良く分かっている。
「となると、また行くんですか?」
「もちろんだ。人類の奇跡に出会えるかもしれないんだぞ。」
「それって僕も行くことってできませんかね?」
彼は好奇心が人一倍強かった。だからついて行きたいと言われても驚かなかった。
「悪いがダメだ。マウスが可哀想だろう。」
「むぅ、確かに。いや、でも、そんなぁ」
マウスにヒミコとイヨなんて名前を付けて、特別可愛がっている人見なら、きっと納得するだろうと踏んでいた。
「マウスを連れて…」
「そりゃダメだ。ここまできて急に環境変えたら、それこそ完全に君のペットと化してしまう。」
むぅと唸ると、それきり押し黙ってしまった。
「本当にすまない。結果は一番に君に伝えるよ。」
「仕方ないですね…じゃあ待ってます。」
ふう、なんとか納得してくれたようだ。
その後私は、厳冬を乗り切るために必要な物資諸々を買い、翌日もう一度その村に向かった。