三話 冬眠する男
「夫は、秋の終わり頃。冬の始まる少し前に籠もるのです。」
「籠もるとは?」
「離れで眠るのです。」
「どうして?」
スイが眠そうな口を開く。
「冬が近づくと、途端に眠くなりましてな、どうしようもなくなるんですわ。」
スイはうとうとし始めていた。
「それはいつからです?」
これにはハルが答えた。
「産まれた時からずっとそうだと聞いています。」
「そういや、あと半月もすりゃ冬ですな」
本当に眠そうな顔になっている。さっきまでは元気だったのだが。急にくるものなのか。
「今回はいつですか?」
ハルが言った。
「この調子だと、あと三日位かなぁ」
スイが応える。あと三日程で離れに向かうようだ。そこで眠る支度をするのか。
「眠る時はどんな感じですか?スイさん。ほら、身体の調子とか、気分とか。」
「眠くて眠くてたまらなくなって、真っ暗になって、気が付くと春になっています。」
「眠っている間の事は?」
「それが、まるで覚えとらんのです。」
ふむ、それが本当だとしたら実に興味深い話だ。是非ともそれを見たい。
「唐突ですが、それまで、ここに居させてもらってもよろしいでしょうか?」
「すみません。食料の備蓄が少なくて、とてもお客人を迎えられる状況ではないのです。」
ハルは少し困ったような顔でそう言った。
「それなら仕方ないですね。私は一旦帰ります。突然お邪魔しました。またきますね。」冬眠についてはまだ半信半疑だったが、このままではどうしようもない。私は一度研究所に戻ることにした。