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厳冬籠もり春を待つ  作者: 猫面人
12/22

十二話 奥底

 目を覚ますと、雪が降っていた。予想よりも早かった。とりあえず体を起こし、手近にあった缶詰のフタを開けた。魚の臭いが車の中に広がった。時計は六時半を示していた。

 朝食を済ませ、さて、今日は何をしようかと考える。そうだ、長老に話を聞こう。スイの家系に詳しそうだ。やることは決まったが、まだ早い時間だったので村の中を見て回ることにした。

 村の中にはまあ確かに、これといって目を引くモノは無かった。畑があったが、とても村人全員を養えるほどの大きさではなかった。周囲の山々の紅葉ーー雪の中に佇む姿はなかなか幻想的であったーーには枯れてしまっているものも目立った。美しい村。初めそう思っていたが、ちょっと角度を変えてみただけでまるで違って見えてしまう。不思議なものだ。

 村の奥へと進んだ。そこには祠のようなものがあった。入口に『立ち入り禁止!』と書いてある。奥からどこかで嗅いだことのある臭いが漂ってきた。はて、どこだったか。とりあえず入ってみることにした。「おい、何してる。お前。」おっと、人が居たようだ。見ると三十くらいの男が立っている。

「ああすまない。少し気になってね。」

「あそこにある立ち入り禁止の文字が見えないのか?」

私は今気づいたかのように大げさに驚いて見せた。

「おっと、そうだったのか。いやぁすまない。まだ寝ぼけているようでね。」

彼はそんな私を訝しげに見ていたが、やがて諦めたようにため息をついた。

「次から気を付けろよ。」

とだけ言った。

「ところでその奥には何があるんだい?」

「よそ者は知らなくて良いことだ。」

呆気なくそう言われた。そんな言い方では気になってしまう。そのうち研究の合間にでも見に行こうか。

「ああそうかい。じゃ、長老ってのはどこに居るんだい?話を聞きたくてね。」

「それなら良いぞ、教えてやる。ただし今は駄目だ。昼過ぎあたりにもう一度来い」

けっこう良い奴なのかもしれない。何か困ったことがあったらここに来よう。

「わかった。サンキュー、頼んだぜ?」

男は驚いた顔をしている。そこで人の気配があったので振り向くと、ハルがいた。手に食べ物を持っている。よく見ると胸にペンダントのようなものを着けている。

「おい、ハル!どうしてここに…」

「差し入れです。シギに。」

ハルは男の言葉を遮るように、それだけ言ってさっさと帰って行ってしまった。彼はその背中に

「ありがとうごさいます。ハル様。」

そう言って頭を下げていた。

 ハルが去った後、男は何見てるんだという目で私を見てきた。私は気にしない。

「シギって誰だい?」

「俺だ。俺の名前。あんたは?」

「佐伯という。よろしくな。」

「なんで『ハル様』なんだ?」

「よそ者は知らなくても良いことだ。」

またそれかい。とは言えなかった。

「わかったよ。じゃあな。あ、長老の件忘れんなよ。」

そう言って車へと戻った。私は昼までどうやって時間をつぶそうか考えていた。

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