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エピローグ・さよならの向こう側

~ソプニカ・ハイランド国境




 まさか敗北同然の姿でソプニカを後にするとは思わなかった。カチューシャはミレーニンの矛槍を背負い、とぼとぼと馬を歩かせていた。

 敗因といえば、準備不足の無謀な攻撃。これに尽きる。

 素人が戦に口出ししてくる督戦官という制度は、現状には全くマッチしていない。このせいで負けたようなものだ。

 だが、この敗戦は間違いなく問題となるだろう。そして、督戦官という制度の見直しも行われるだろう。何せ、督戦官に猛反対している皇太子が和平をまとめたのだ。彼の発言力はしばらくの間強くなるだろう。

 もしや、コリアノフの言っていた策というのは――。

 ――やめよう。わからないことは案じない。それが自分らしさじゃないか。カチューシャは小さく頭を振った。

「カチューシャ、それは……」

 カチューシャの背中にある矛槍を見て、ロフスキーが何かを思い出したかのように問いかける。

 そう。これはミレーニンの形見。

「ラナとかいう人がくれたとです。自分の細腕じゃ扱えんから、ハイランドの人に使って欲しかっち言っちょりました」

 カチューシャがブリュスを後にするときにラナがくれたものだ。そして、彼女はミレーニンの武芸と気骨を褒めていた。全く、普段から褒められるようにしていればよかったのに。少し苦笑する。

 ともあれ、ミレーニンの形見の矛槍。そして、結局コリアノフの形見となった下賜の剣。これらに恥じぬような武人にならなければ。

 そして、この借りは必ず返す。

 カチューシャはラガド街道の方角を睨むのだった。




~ブリュス




 ブリュスは思ったよりは荒れていなかった。だが、城壁の修復、人口の把握、治安の回復と、やることは多い。

 机に積まれた書類の山に、ラナは思わず顔をしかめた。

 いいや、こんなのじゃダメだ。ブリュスを立て直す戦いはこれからなんだから。

「ヒエ~ッ。ラナ姉、こんなに決済するの?」

「しなきゃならないでしょう。それに、キーラにはアドルフと一緒に兵舎のほうをやっておいてと頼んだはずですが?」

「やだなぁ、もう。アドルフからの付け届けなのにぃ」

 それを聞いて、顔が一発で赤くなったのが自分でもわかった。あぁもう、情けない。

「ケッ、ケッ! 見せつけてくれちゃって、もうっ!」

 キーラが毒づきながら手紙を机に置いていく。

 一人になったところでラナは手紙の封を開け、笑顔になるのだった。




~カレワラ




「うん、これは問題ないと思う。これはちょっと変えた方がいいんじゃないかな?」

 ミカは決済を求められた書類をさばいていた。もちろん、フィリップの助言を受けつつではあるが。

 以前はサビーネとフィリップに任せっぱなしであった。だが、立派な領主になるって深雪と約束した。

 ならば、ちゃんと働かねば。約束破っちゃ悪いから。

 深雪がいなくなってから、そんな気持ちで働いていた。

「ところでフィリップ、兵隊さんの件だけど……」

「うむ」

 戦が終わった今、軍をどうするかが問題となっていた。維持するにも金がかかるし、かといって解散するわけにもいかない。この戦争で練度が大いに上がり、解散するのはもったいないのだ。

 今まで常備軍は存在していなかった。戦が始まったら傭兵を集めて、そのバックアップに小規模な徴用を行う。それがソプニカ地方の常識だった。

「規模は減らすけど、やりたい人を集めて訓練して、一定期間でやめてもらう。それで、また新しく募集して……なんて繰り返しにしたらどうかな。そしたら何かあったときに経験のある人をたくさん集められる。傭兵を雇うよりもお金がかからないんじゃないかな」

「そうだな。それに仕事を与えることにもなる。カレワラはそうするとしようか」

「よし、じゃあ後でサビーネと細かいところを話し合おう。ここらで休憩するね」

「ああ。あまり働きすぎるなよ?」

 フィリップはミカの肩を叩いて退出した。

 一人になった部屋の中で、ミカは椅子の背もたれにもたれかかって大きく伸びをする。

「深雪、がんばってるかな。僕は頑張ってるから」

 部屋の隅に置いてある小さな、そして汚れている黒板に向けて、そう呟いた。




~日本・辛木市




 近所の居酒屋に、深雪は居た。深雪の他には、小学生の頃から仲のよかった親友が二人。千代田千歳と、衣笠あおば。二人とも剣道部で、一緒に汗と涙を流してきた。なお、辛木市は田舎であるため、居酒屋でも駐車場があるのが普通であり、運転代行業が大活躍している。今回の運転手は、下戸のあおばだ。

「では、再会を祝しまして、かんぱーい!」

 三人で乾杯。深雪と千歳はビール、あおばだけオレンジジュースだ。

「かー、やっぱちーちゃんと飲む酒はうまいっ!」

「ちぃと飲むジュースはうまいねっ!」

 あおばと一緒にオーバーリアクション。あながち間違いじゃない。本当に旨いから。

「私はつまみですか、そうですか」

 方や千歳はポーカーフェイス。彼女は何せザルか沼かという酒豪である。

「さて、大学生になって二年が過ぎようとしていますが、みゆきちに彼氏は……」

 胸が痛くなる問いに、無言であおばの頭をはたく。ちなみに彼女は現在遠距離恋愛中だ。それも国をまたいでの。

「なーんだ。期待してたのに、まるで成長してないね」

「うるさいなぁ! まだその時が来てないの!」

「永遠に来なさそう……」

 千歳は淡々としているが、彼女も現在フリーである。高校の頃にいた彼氏とは大学生になってから遠距離恋愛になり、結局自然消滅してしまったとか。

「……ところで、その指輪はどうしたの?」

 千歳が深雪の胸元のネックレスを指さす。よく見れば、小さな指輪が通されていた。部屋の中にあった、あの指輪。あれ以来、こうしてお守りのように持ち歩いている。

「うーん、よくわかんないんだよね。気が付いたら持ってたのよ」

「えー、なんだか気味悪いね、それ」

「うん。だけどね……」

 そっと指輪を握る。やっぱりなんだか暖かい気持ちになる。

「きっと大切なものだと思うんだ。大切な人がくれた、大切なモノだって」

 深雪は暖かな笑みを浮かべた。

読んでいただき、ありがとうございました。

初めての異世界召喚ものであり、色々とセオリーを破っているとは思いますが、いかがだったでしょうか。


また年の差だって? 好きなんですよ!


結構難産だったこのお話ですが、自己最多のアクセスとお気に入り登録を記録し、本当に嬉しかったです。

読んでくださった方、お気に入り登録してくださった方、そして評価を頂いた方。

本当にありがとうございました! ぜひともまたお会いしましょう!

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