第17話 侵略
「では行ってきます!」
「リク殿の話ではまだ奴等は遠い。できるだけ町から離れるよう通達するのだ」
――伝令で騎士達が町へ行き、避難をするよう呼びかける動きがあった。
口では『仕方がない』と言いつつ、見捨てることはできないのだろう。逃げる途中の町にはいくつか避難勧告を出したらしいが、正直逃げ場所などない。
そしてこの少人数ではできることも少ない。やるせないな、マジで。
◆ ◇ ◆
「……」
そして深夜。
林に潜伏した俺達はキャンプとも呼べない簡素な寝床を作り、飯を食い、寝静まる。煙も出さないように水とパン、それと干し肉で渇きと飢えを癒していた。
俺はというと、じっとしている。
喉も乾かず、腹も減らず、排せつもないし、眠くもならないので生きる上の欲求が無いので特に困らない。だけど起きっぱなしというのも意外と疲れるものだなと考える。
「……色々と考えてしまうからなあ」
<どうしましたか、マスター?>
「いや、ここまであんまり考えないようにしてきたけど向こうは今、どうなっているとかな。父さん達や志乃の治療費……ホント、色々だ」
<今は考えても――>
「仕方が無いってのは分かるが、眠れないとどうしてもなあ」
サクヤが言うには意識を閉ざすことで眠ることができるそうだ。しかし、次に目が覚めなかったら……? そういうのも悩む要因の一つだったりする。
「くかー」
「ん? ったく、姫のくせに行儀が悪いなこいつ」
見ればシャルが荷台の上で毛布を蹴り飛ばして寝ていた。頭に浮かぶモニターには冷える温度を指しているため、毛布をつまんでかけなおしてやった。
「……お優しいのですね」
「ん? アウラ様か。寝なくていいのか?」
「昨日、よく眠れましたから。それに移動中もみなが気を使ってくれるので昼間にも眠れております。リクさんは?」
「この身体になってから寝なくてもよくなったみたいでな。眠くないんだ」
「そうなのですね。……申し訳ありません、リクさんも大変な時なのに敗走のお手伝いを。グライアード王国は魔兵機を作るほどの技術を持っています。向こうの方が得られる情報は多いかもしれません」
アウラ様が困った顔で笑う。
その側面はあるかもしれないが、俺は自分の考えた答えを返す。
「いやあ、多分ダメだな。告知なしで襲ってくるような連中だ。俺が行けば『手伝え』とか言ってくるんじゃないかな。話したと思うが俺も侵略された側の人間だ。向こうで暴れてると思うぜ」
「ふふ……。そう言うと思ってました。だからガエインも私の下へ連れてきたのでしょうから」
そう言って笑うアウラ様へ俺は話ついでだと尋ねてみることにした。
それは今後、どうするかということだ。いや、どうなるのか? の方が正しいか。
「俺のことよりそっちはどうなんだ? ヘルブスト国に亡命したとしてその後のことは?」
「……」
<特にプランが無いようですね>
そんな感じがするな。
ヘルブスト国にしてもとりあえず受け入れてもらえるだろうけど、グライアード国とやらが姫二人を狙って攻められる可能性がある。
よくは知らないが差し出されてしまうことも考慮しなければならない。
「……ヘルブスト国には一時避難予定です。ですが、私は彼等を許せない……。グライアード王国も王都周り以外をすぐに占領することはできないはずです。装備を借り入れたら辺境にある砦で兵を募り、反攻をするつもりです」
「マジか」
現在でも百人いるかどうかという戦力。いや、メイドなども居るので戦える人間は八十もいないかもしれない。
王都で先に逃がされたと言っていたのでどれほどの人間が残っているのか。
早々に離脱している可能性も高いだろうから集めればなんとかなるかもしれないが殺されていてもおかしくはない。
それと魔兵機の存在だ。まだ見ていないが何機いるかわからないし、大型兵器と戦うのはかなり厳しいだろう。
……俺達がメビウスに初戦でボロボロにされたみたいに。
「お父様とお母様も心配です。……もう殺されている夢も見ました。だけど諦めきれないのです」
「ま、そりゃあな。俺も妹が病気で、金を稼ぐためにこいつに乗り込んだわけだし。諦めるのはないな」
「そうなのですか? ……でもわかります。最悪、シャルが残っていれば王族の血は残ります。だからあの子はヘルブスト国に置いていくつもりですよ」
「納得するかねえ……。あの性格の子は厄介だぞ」
「そこは――」
と、アウラが説明しようとしたところでそれは起きた。
町の方角が明るくなったからだ。さらに轟音が響き渡った。この距離で聞こえるとはよほどのことだ。
深夜まで動かなかったのは寝静まってからを狙ったな? 騎士達も戻って来ていないしこれはまずいな。
「まさか町を燃やすつもり!? こ、こうしてはいられません!」
「ダメだアウラ様。町に行けばあんたが捕まる。もしくは殺されるかもしれない」
「し、しかし、それでは町の人達が……!!」
取り乱しているな。
元々、占領されても仕方が無いという話だったが、目の前で破壊活動が始まればこうなるのも分かる気はする。
だから――
「……俺が行く。ここから動くんじゃないぞ?」
「あ! リクさん! ま、待って――」
俺はみんなを踏まないように立ち上がると、町の方へ全速力で駆け出していく。
間に合えばラッキーだし、奴らの機体がどれほど戦えるか確認するという名目もある。
<だけどそれで止まるマスターではないのでしょう?>
「ま、そういうこった……! うおおおおおおお!」
俺は肩と足のブースターを使ってホップする。簡単に言うと『スキップ』ってやつだ。ジャンプする際に足のブースターを使って高く飛ぶ。頂点に達した時、肩と背面ブースターを使って前へ。
着地が近くなれば足のブースターを使って……という流れでいけば足の駆動系に負担はかからないで急げるはず。
「間に合え……!」
◆ ◇ ◆
「い、行ってしまいました……!? ガエインどうしましょう!?」
「任せるしか……いや、ワシが行きましょう。馬を!」
「私も――」
「姫様を守る人間が居らんでどうする。ダメそうなら即撤退する。待っていて下され。しかし夜明けまで戻ってこないようであれば。先へ進むのだ」
まったく……異世界人が先に出てどうするというのだリクよ。
しかし、ワシの見立て通りお主はいいヤツじゃったな。さて、姫様を置き去りにするのはいささか不安だがやれるところまでやるしかないのう。




