本物の“悪魔”
牢獄の中にいると誘拐されたから何日経ったのかも分からない。眠れていたら分かったのだろうけど、レオン様が隣にいない今、一睡も出来ていない。
(きっと…酷い顔だろうなぁ…)
それにレオン様はまだ来ないのだろうか…。
あれほどアリスに対して自信満々に言ったのに…
(必ず来るって…信じてる…。信じても…いいよね?)
どんどん不安が私を包み込んでいく。
もう二度と彼に会うことが出来ないかもしれないという恐怖。全てが私を追い詰める。
──コツッ、コツッ
あのヒールの音だ…
そのヒールの音はまた軽快にこちらへ向かってきた。
「ご機嫌よ〜!ユリアさん?」
「アリスさん…」
「どう牢獄での暮らしは慣れたかしら?」
楽しそうに聞くアリスに酷く怒りを覚える。
だけど、ここで感情を表すわけにはいかない…
「ここに慣れるくらいなら、死んだほうがマシね。」
「まあ…!そんな物騒なこと言わないで?」
白々しい…
暗殺者を送っておいて何を言ってるのよ。
「でも、そんなユリアさんにとーっても嬉しいお知らせがあるの!入ってきて!」
何…
(……っ!)
「久しぶりだなぁ…ユリア。」
「…っ。リューク様…」
私を見下ろすその目には優しさなど何もない。
一体、何しに来たのよ…
「ユリアさん!どうして?って顔してるわ…。でも、私、ちゃんとあなたに言ったでしょ?三日後にリューク様と婚約だって。」
「だからなんなのよ…」
「あら?気づかないの!?もう三日目よ!あははっ!」
(なんですって…!?)
私が誘拐されて三日経ったというの…?
ということは…私は…今日…
「おめでとう、ユリアさん!晴れてあなたは今日、ヴァルグア王国の王子、リューク様と正式に婚約して王太子妃になるの!お昼頃に式典だわ…!楽しみね!」
ふざけないで…
私はこの男に婚約破棄されたの…
誰がこの人と婚約するものですか。
「私はリューク様と婚約なんてしないわ!私はレオン様の───。」
───バチンッ
(……っ!)
「イタイッ…離して…」
私は頬を叩かれ、髪を引っ張られベッドから引きずり下ろされる。
「いい加減にしろ!」
冷たく放つリュークの声に身体が固まり震えが止まらない。
「お前は俺のものになるんだよ。レオン様だ?ふっ、笑わせるな。俺がお前を拾ってやるんだよ。」
(拾う…?)
「俺とアリスに感謝しろよ。お前が婚約破棄された令嬢だと笑い物になったせいでお前の公爵家はヴァルグア王国の笑い物だ…。だが、アリスが可哀想だと言うし、アリスはレオン王子と婚約したいと言うからお前を連れてきたんだ…感謝しろよ?」
リュークの行動、言葉全てに思った。
(リュークこそ本物の“悪魔”よ…)
それに、感謝…?
あなたたちに感謝することなど一つもないわ。
「ふざけないで…。あなたたちが婚約したかったからあの場で婚約破棄したんじゃない!」
「ユリアさん。言ったでしょ?リューク様はあなたが泣いて縋るのを待っていたって。その意味、まだ分からないの?」
(……。)
「やっぱりユリアさんは馬鹿ね〜!だったら教えてあげる。リューク様も私も人が愚かに泣いて縋って頼みこむ姿が大好きなの!だから、あなたのそういう惨めな姿が見たかった!これで分かった?」
沸々と怒りが湧いてくるのが自分でも分かる。
人として最低な考えだ。
自分たちの欲望のためだけにそんなことを…
「ユリアさん、安心して?ドレスももう用意してあるわ!綺麗にお化粧もしてあげる。今日の婚約式典が楽しみね!あははっ!」
「嫌よ…。絶対に婚約はしないわ!」
───バチンッ
「なんだと!!」
「まあまあいいじゃない…。どう足掻いても、レオン様は来ない。この場所すらどうせ見つけられてないでしょうから。せいぜい、今までの記憶を思い出して泣いた〜?あははっ!」
それだけ言い残して去っていったアリスとリューク。
(レオン様は来ないですって?)
いや…レオン様は必ず来る。
私は彼を信じてる。
彼の言葉にいつも嘘はない。
約束は守る人。
だってそうじゃない?
約束を守れない人が私と約束した条件を守れると思う?私は無理だと思う。
だけどどうかしら。
レオン様は私との約束をすべて守ってる。
だから、私は彼を信じる。
必ず助けてくれると。
(レオン様…あなたを待っています…)
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