14 第四皇女とビジューの贈り物。
アデルお姉様とヴィンガル公爵家のヘンリー様との結婚式から一週間。
はっきり言ってしまえば、私はすっかり退屈しております!
アデルお姉様の結婚式は、それはそれは素敵なお式でした。
真っ白なドレス姿のアデルお姉様はとてもお綺麗でしたし、皆の祝福を受けて寄り添われるお姉様とヘンリー様はすごく幸せそうでしたし、お肉は無かったけれどテーブルに並んだお料理はどれも美味しかったですし、私がこの日のために育てたお花も完璧に咲き揃って、お二人を祝福することができました。
でも、そのなによりも感動的だったのは、私たちの伯母上にあたる、大聖女マリアンヌ様からの “祝福” でしょう。
大聖女マリアンヌ様は、結婚式自体には列席は叶いませんでした。
「おそらく聖教会からの許しが出なかったのではないか」とお祖父様は仰っておられましたが、真偽のほどは私には分かりません。
ですが、王宮での式典が終了し、アデルお姉様とヘンリー様がお祝いに集まっていた民たちに挨拶をするために王宮正面のバルコニーへと出た瞬間に、それは起こりました。
王宮全体を覆うように “光の雨” が降り注いだのです!
雨とは言っても、実際に雨粒が降ったわけではありませんよ。
キラキラとしたとても美しい小さな光の粒が、空からゆっくりゆっくりと降り注いで来たのです。
あまりにも神々しく美しいその光景に、誰もが言葉を失ったように空を見上げていました。
その後にお城では盛大な舞踏会が開かれていましたが、私はそこには参加していません。
何故かって?
それは、まだ私が11歳だからですよー。
グルノー皇国では、成人として認められるのは18歳なのです。
でも、多くの貴族の令嬢は18歳になるのを待たず、16歳から17歳の間に社交デビューをするようです。
アデルお姉様は16歳の頃から王宮での行事に公式に参加されていたようなので、たぶん私もその頃になるのかなと思います。
聞いた話では、皇女の結婚ということもあって、舞踏会には他所の国からもかなり多くの列席者が来られていたそうなの。
ちょっと覗いてみたかったな。
ちなみに、聖女グレーテ様(叔母上)聖女クロエ様(第一皇女)聖女候補のヘンリエッタお姉様(第三皇女)の三名はお身内として結婚式には参列されました。
聖女グレーテ様だけは、舞踏会の方にも一瞬だけ顔をお出しになったらしいのですが……。
一瞬だけだった理由は、私には詳しくは分かりません。
余談ですが、現在聖女候補のヘンリエッタお姉様は、もうすぐ14歳です。
聖教会で奉仕活動などをしながら聖女になるための修行? を日々続けておられるそうなんだけど……。
もし15歳になっても癒しの能力が開花しなければ、聖女候補からは外れることになるでしょう。
そうしたら、お城に戻って来るのよね?
頑張っているヘンリエッタお姉様には大変申し訳ないけれど、もし戻って来て下さるなら……私としてはかなり嬉しいかな。
アデルお姉様のいらっしゃらないお城は、なんだかとても寂しいですからね。
それに、もうすぐラファエルお兄様も旅立ってしまわれるし……。
ああ、そうだわ!
すっかり失念していました。私にはお兄様の出発までに、やるべきことがあるのでした!
◇ ◇ ◇
「ふんふん、ふ〜ん♪ ふ、ふ〜ん♪」
「ルイーズ様ったら、随分とご機嫌ですね」
「だって、もうすぐ完成しそうなの。ふ〜ん、ふふん♪」
鼻歌混じりでごめんなさい。
今、丁度作業が最終段階に入っているところなの。はい、これで完成!
「ジネット。見て! 完成したわ!」
「まあ、とっても綺麗ですね!」
「そう思う?」
「ええ。これなら、きっとラファエル様もお喜びになられますね」
「そうだと嬉しいな!」
ラファエルお兄様が留学先へと出発される日まで後半月ほど。どうにか間に合いました!
私が何を一生懸命作っていたかというと、ネクタイ用のビジューです。
ビジューと言うのは、装身具全般のことを指すのだけれど……。お兄様用としては、指輪とか、ネックレスとか、ブローチとかって、ちょっと違うと思うの。
折角プレゼントするのだし、普段から使って頂きたいので、毎日着用されるだろう学院の制服のネクタイに留めるビジューにしてみました。
中央の大きなエメラルドはお兄様の瞳の色と同じもの。
エメラルドの周りには、蔦の葉が絡まる様なイメージで美しいプラチナ細工を施しました。
うん。とっても素敵な仕上がり!
ああ。誤解のないように言っておきますが、このビジューを作ったのは、もちろん私では無いですよ。
超一流の腕を持つ最高の職人さんに(お母様経由で)制作を依頼しました。
鼻歌混じりに私が今やっていたのは、箱に綺麗にリボンをかける作業です。
でもね。ぱっと見では絶対に誰にも分からないと思うけど、内緒で、仕上がってきたビジューの中央のエメラルドに、そっと光の魔力を込めちゃいました! くふふ。
これなら、ちょっとした病気や怪我から、ラファエルお兄様を守ってくれると信じています。
この他にも、頑張って作ってはみたものの、その後ちっとも日の目を見ることの無かった例のポーション各種も綺麗に箱に詰めて、お兄様にお渡ししようと考えています。
だって(何度も言うようだけれど)お兄様がこれから向かわれる留学先には、この国とは違って、聖女様は居ないのです!
だったら、いつ何が起きるか分からないでしょ?
私の作ったポーションが必要になる時が、もしかすると来るかもしれませんものね!
用心をするに越したことはありません!
ポーションの箱詰め作業はまだ終わっていないので、取り敢えず先にこのビジューをラファエルお兄様に渡しに行きましょう!
「じゃあ、ちょっとお兄様のところへ行ってきますね」
「お一人で行かれるのは駄目ですよ、ルイーズ様!」
「あー。じゃあ、ジネットも一緒に行ってくれる?」
最近。なんだか誰も彼も「一人で歩き回らないように!」と私に言うのよ。
このお城の中って、そんなに危険なのかしら? そんなこと、無いわよね?
◇ ◇ ◇
「おっ。ちびっ子ルイーズ! 久しぶりだね。元気だったかい?」
「あら。ローレンス様。ごきげんよう。私は “ちびっ子” ではありませんけどね!」
「うん。相変わらず元気そうだ!」
そう言って笑っているのは、ローレンス・レーヌ様。
お母様のご実家であるレーヌ公爵家の長男で、ラファエルお兄様と同い年の15歳。
普段から私のことを “ちびっ子” 呼ばわりする、口の悪い私たちの従兄弟です。
「いつも言っているけど、ルイーズ、僕の事もローレンスお兄様って呼んでよ!」
「ローレンス様は私の従兄弟で、兄ではありません。私のお兄様は、ラファエルお兄様お一人だけなのです!」
「ちぇ。なんだよ、ケチ臭い。別に減るもんじゃ無いんだし、呼ぶくらい……」
この口の悪いローレンス様は、もうすぐラファエルお兄様と一緒にハーランド王国の王立学院に留学される予定なの。
もっと他の品のあるお方とご一緒すれば良いのに。お兄様とローレンス様は、どういうわけかとても仲がよろしいのよね。
「ルイーズ。何か僕に用事だった?」
「ああ。お兄様にお渡ししたい物があって!」
「何だい?」
「これです!」
お兄様は私が箱を手渡すと、丁寧にリボンを解き、箱からビジューを取り出した。
横からローレンス様が覗き込んでいる。
「うわぁ。綺麗だね! これを僕に?」
「はい。学院で是非使って下さいね!」
「ありがとう、ルイーズ。嬉しいよ」
「ねえ、ちびっ子ルイーズ。僕には無いわけ?」
「えっと……。無いです」
「がくーーーーっ。この差は何だ? やっぱり兄と従兄弟の差なのか?」
「たぶん、そうだと思うよ。悪いね、ローレンス」
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