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影法師の悠々自適な異世界ライフ  作者: マッドちゃんぽん
エルフの国グラナダ編
311/315

取返し

鎧たちの表面には、複雑な魔法が走っている。

隙を見て素手で鎧を殴りつけたところ、触れた腕が炎に包まれた。


結晶化した時と同様に切り落とすことも考えたが、その炎に包まれた腕で次に近かった体に氷を纏う鎧を殴りつける。

氷が侵食しつつ、炎で燃える。

それぞれの侵食が中和されると想定していたが、どうやら共生するようだ。


素直に腕を影に変えて、切除する。

わざわざひと手間加えたのは、切り落とした肉体をそのまま放置すると魔力に変換され、新しい鎧などを生み出されかねなかったからだ。


鎧たちの表面を走っている魔法は、再生能力も備えているようだ。

単純な物理攻撃は、魔法によって逆に俺にダメージを与えるだけのようだ。


体を影に変換することも考えはしたが、先の影のナイフのことを考え、今回は回復以外では使用しない。

魔力の影響を少なからず受けるようなので、全身を影に変えた途端に、体の主導権を盗られる可能性もある。


鎧の操作は、あの敵が行っているのだろうか。

確認のため、イカのように口から煙を吐いて、視界を塞いでみる。

魔力によるもののため、すぐにかき消されているのだが、一時的に視界の主導権はこちらにある。

鎧に魔力で攻撃しようと、魔力を炎に変えて撃ってみる。

炎が弱点そうな、先ほどの氷の鎧に向けて、ナイフの形に固めた炎を投擲する。


鎧は迎え撃つでもなく、命中するでもなく、そばにいた炎の鎧を盾にした。

……あの挙動は何だ?

確かに、弱点のようなものではあるが、わざわざ盾にする意味が分からない。

あの敵が操作しているのであれば、手駒が一体減る可能性はあるが、わざわざ他の鎧を盾にする意味がない。

確かに、炎の攻撃を体に炎を纏うやつが受けるのは、ある程度分かるものの……今の氷の鎧には、妙に人間味を感じた。


……もしかして敵は、空の鎧に魂のようなものを入れたのだろうか。

それならばあの挙動に納得がいく。


敵の視界を、迫りくる鎧たちで隠すように立ち回る。

両手に魔力を消し飛ばすスキルを纏う。

左手で鎧の表面を走る魔法を消し飛ばし、右手で無防備になった鎧を殴る。

想定通り鎧は魔力でできていたのか、殴りつけた部分がごっそり消えていた。

……何かを維持できなくなったのか、胸に大穴の空いた鎧は、起き上がることなく魔力として霧散した。


一体を減らしたことで、リソースが再度配分されたのだろう。

先ほどまでより、纏う魔力の強さや膂力が上がっている。

同時に何体も消し飛ばせるような能力が展開できればいいのだが、魔法や魔術は、あの敵の妨害が激しいのか……時間のかかるものは邪魔されて発動が難しい。


こちらもやられ放題なサンドバックのままではない。

鎧同士の連携の隙間を縫って、敵に目掛けて、魔力と影、それに普通のナイフの三種セットを投げる。

当然、届くことはないのだが、ある程度は集中力を削ぐことにつながるはずだ。


鎧の数も残り一体。

これまでのやつらの能力を受け継いだのか、体からは地面を溶かすほどの炎や、地面に向かって走る雷を纏っている。

おまけに……腕は一対ではなく複数。加えてそれぞれの腕には、全く異なる武器が。


「ざけんな!生物としておかしいだろ!」

「ただの鎧だからな。いい踊りだぞ」

「余裕そうな顔するな、不法侵入者!」


それぞれの腕が独立した生命のような挙動の鎧の攻撃を、多少人としてあり得ない挙動で避ける。

一体にリソースが固まったせいで、鎧の表面を走っている魔法は、吹き飛ばしてすぐに回復してしまう。

おまけに、これまでと違い、針の穴を通す隙を狙って一撃を入れたとしても、鎧本体を壊す二撃目が通せない。

こいつを倒すと、次はあの敵。

被弾をして、回復する隙が得られないと選択肢に入れていなかったのだが、覚悟を決める時が来たようだ。


隙を見て、鎧の胸に一撃を入れる。

これまでと同様に、鎧の表面の魔法が弾ける。

すぐに魔法の再生と、手に握られた武器による反撃が迫る。

これまでの場合何とか距離を取っていたのだが、今度はあえて、()()()()


鎧は当然、それに対処をして、最適な距離を瞬時にとる。

鎧からしたら無防備な俺に、その武器を突き立てられる。


俺は回復ではなく、先ほどと同様に魔力を煙に変えて、敵の視界を塞ぐ。


「回復できるほどの時間はなかったはずだが」

「驚いている暇があるなら、さっさと返せ!こっちは逆に返してやる!」


影の中から、収穫した()()()()()()を、敵に向けて投擲をする。

もとは敵の魔力によって作られたものだったのだが、鎧たちを参考にして、表面に影と俺の魔力を纏わせている。さすがに、すぐに分解できなかったのか、初めて敵は回避行動を選んだ。


「どうやったんだ?命中したはずだが」

「わざわざ教えてやるほど、俺はお前と仲良くないのでな!」


影と魔力で二重に覆った専用武器のナイフを振る。

想定よりも身軽な挙動で避けられ、逆に魔力による攻撃をもらう。


「……なるほど、そうやって()()したのか」

「どうだろな!」


俺に向かって放たれた魔法を、影を通してそのままお返しをする。

敵の想定通り、危険な賭けではあったのだが、影に変えた肉体で鎧の攻撃を受けた。

鎧は魂の宿ったような挙動をしていたが、生物ではない。

無理やり理屈を通して、≪影収納≫にそれぞれの武器を取り込んだのだ。

沼に沈むように影へと取り込まれている武器。

鎧は武器たちを手放せばよかったのだろうが、次の行動をとるより前に、生身の鎧に向けて二撃目を入れて、最後の鎧を倒したのだ。


いくらこれまでの鎧の力を受け継いだといっても、挙動自体は変わらないようだ。

胸に大穴の空いた鎧は、体の再生ができず、起き上がることなく魔力として霧散した。

……そのまま魔力が敵に取り込まれるのも嫌なので、こちらで取り込む。


一息ついて休みたいところではあるのだが、まだ本命とは相対していない。

疲れて落としそうなナイフを再度握りしめる。


「本当にしぶといなぁ、貴様は人間か?」

「どうだろうね」


あまり体の多くを影に変えてしまうと、相手の魔力の影響を受けるようだ。

全身を影に変えて魔法を無効化したかったのだが、ピンポイントで当たる部分のみを影に変えて相手に返す。


「……どうやらこの体の持ち主のこころの支え。

その大半を貴様が担っているようだな」

「俺は彼女の婚約者だしね……さっさと体を返してくれないかな?」


敵は魔力で武器を構築する。

先ほどの鎧たちが持っていたものもあれば、見たこともないような武器たちが。

それらは地面に落ちることなく、空中を虫のような挙動で飛び回る。


こちらに向けて飛んでくる武器たちと、魔法。

多少の被弾を許しつつ、クリティカルな攻撃については、影で取り込みそのままお返しする。


こうして改めて距離を近づいてみると、彼女の中に消えそうな輝きが見える。

初めて相対したときに見た色より、鈍い光へとなっているように見える。


……どうして、俺にはこんなものが見えるんだ?

コピーしたアイナの魔眼などをいろいろと混ぜて発動しているとはいえ、こんな風に見えるものは存在していないはずだ。色々と混ざった結果出ている可能性もあるが、明らかな異常だ。


『……準備できました。実行するなら彼女に触れてください』


今は見えているということだけで納得しよう。

≪羅針盤≫から解決方法が完了したとの通知が来たので、一呼吸おいて気持ちを切り替える。


(ほんの少し触れるだけでいいのか?)

『魂さえ通っていれば、十分です』


つまり素肌に触れる必要があるのだろうか。

素肌に触れるとはいえ、俺はまだ彼女に触れるどころか影にすら届いていない。

ある程度の犠牲と覚悟を決める必要があるだろう。

……彼女を失う以上の犠牲はあるだろうか。


「先に言っておくが、もう取り立てる準備が整った。今返すのであれば、追いはしない」

「おもしろいな。なら見せてみろ」


新たに様々な魔法が展開される。

距離を詰める時間を作るために投擲したナイフたちは、展開された魔法にぐちゃぐちゃにされて、原形を保っていた時間は一秒もなかった。

≪羅針盤≫が適用を終えたのか、俺の体への影響はない。

ただ、≪影収納≫から取り出した普通のナイフたちは、取り出したと同時に形を保てなくなっている。


足を影に変換して魔力を集中させる。

二重の構成であれば、すぐに主導権を奪えないことは知っている。


ただ影に変えただけではこれまでと同じだ。

……これまで自身の肉体を影に変える際、一つの影として考えていた。

ただそれではパワーが足りない。

より力を入れられるように……なにより複雑であれば魔力の影響を受けないはずだ。


……影の操作を毎日練習していてよかったと思う。

足から順に上へと影へと変えていく。


「苦しそうだな。最後に魅せてみろ」

「言われなくてもな」


【……一般的に言えば、愚かな選択だ。

たかが奴隷の一人。

払うリスクに対して得られるリターンが見合っていない。】


(面白いな、やはり繋がりは残しておいてよかった)

()()()()考えかはわからないが、向こう側からそんな声が聞こえてきた。

どちらの声かはわからないが、決着の時に俺の気持ちを伝えるとしよう。


これまで以上の脚力をもって、相手へ突撃をする。

……想像以上の速度が出て、操り切れないが、事故が起こるほどではない。

相手が対応する手を用意する前に、魔力による煙幕で視界を塞ぐ。

俺も見えないほど濃い霧のような煙幕だが、俺には彼女たちの魂の光が見えている。

灯台のような明かりを目指して、そのまま直進で迫る。


相手も警戒をしていたのだろう。

彼女に近づくにつれ、様々な魔法が発動する。


魔法陣から展開された炎の魔法。

地面をガラス化させるほどの高温に加え、剣状に固められた魔力によって、影に変えた腕を切断される。

高温で肺が焼かれたらしく、胸を押さえたくなるが、すぐに痛みの部分を影に変えて、さらに地面を蹴る。


発動した雷の魔法は、電撃だけでなく音も発動効果だったらしい。

耳元で爆音を鳴らされたことにより、鼓膜が破れる。

耳の中に温い水が溜まっているような感覚になるが、()()()影に置き換える。


発動した風の魔法は、氷や水、石を混ぜているのか、ミキサーの中にいるような衝撃が体を襲う。

影に変えたはずの肉体は、混じった細かな異物たちによって少しずつ削られ始める。

もし生身であれば、これだけで人の形を保っていられなかっただろう。


あと一歩、ほんの数センチというところで、目の前に最後の魔法陣が展開される。

……生物的直感が、その光を見て()を告知してくる。

この魔法は避けることはできないうえに……当たれば、影であっても存在ごと消滅してしまう。


だが、ここで引くようでは、リターンを得ることができない。

伸ばした手で魔力を吹き飛ばし、再生した腕で彼女へ触れる。


「マスター!」

「!?」


触れた瞬間に視界に入ってきたのは、心配そうなシャティの表情。

体を乗っ取られているのだから、それはそうなのだが、その表情は本人。

ありとあらゆる情報源が、今の彼女は間違いなく()()()()であると言ってくる。


……このまま拳が当ててしまえば、彼女の体に傷がついてしまう。

そうでなくても、もし≪羅針盤≫の発動する能力が、()()()()()()()()()をどうにかするものだったらまずい。

様々な仮定が頭をよぎり、伸ばした腕は彼女のに近づくための最後の障壁として用意されていた魔法陣を壊すだけ。

俺は、彼女に触れることができなかった。




「見事だ……だが、一枚破ったところで意味はないがな」

「……彼女だったはずだ。どうやったんだ?」

「一時的に()()()()()()()()()。この体はうまく使ってやるよ……こちら側が一枚上手だっただけだな」


俺を囲むように展開された魔法陣から、純粋な魔力の光がぶつけられる。

圧倒的物量の純粋な魔力は、影を分解し、俺の存在を消滅させていく。





────────────────────────────────────────


俺の肉体があった場所には、何も残っていない。


地面には魔法によって人型に元の地面が残っているのみ。

肉体の一片、影もシミすら残っていないほど、その場から消滅してしまった。


「……どうやったんだ?」

「ちょっとしたイカサマだよ」


だが、俺は彼女の首に()()()()()()()()()

……俺の体は。彼女の影の中から延びていた。



「これなんだと思う?」

「……ははっ!そんなことをできる人間がいるのか!いや、それを選択する異常者だったのか!」



俺の手に握られていたのは、拍動する心臓。

これは、生身の俺の心臓。

この心臓は先ほど全身を影に変えたときに、あえて切り離して≪影収納≫に隠していたもの。


……彼女と魔力のパスはまだ繋がっている。

そこから俺の魔力を奪われていたのだが、ただただ奪われているのは癪だった。

それを悪用して、無理やりではあるが、彼女の影を≪影収納≫として、入り口として利用できるようにした。



「随分な賭けだったけどね。奇跡かもしれない……少なくともあの一瞬、彼女に体を返したのは間違いだったな」

「心臓を中心として0から体を再構築したのか……選択肢がなかったとはいえ、この体を借りたのは間違いだったかもな」


敵の言う通り、体はこの生の心臓から再構築させた。

元の体の消滅と同時に、≪影収納≫から心臓を吐き出し、そこを起点に肉体を編み上げた。

もし、まだ彼女の周りに追加の魔法陣が展開されていたら生身の心臓を差し出す形となり、非常にまずかったのだが、最後の攻撃の後は他に魔法を展開できなかったようだ。

いや……体の主導権を盗り返した彼女が手伝ってくれたのかもしれない。

彼女の影を利用することも彼女が受け入れてくれなければ、だいぶ怪しい賭けではあった。



彼女の生身に触れた俺の腕は、皮膚を通り越し、その奥深くへと沈み込む。

見たことのない挙動に少し手を止めそうになるが、≪羅針盤≫が何も言わないところを見るに、これが正しいようだ。


適当に人の形を作り上げたばかりで、まだ光が目に入っていない。

唯一見えているその二つの明かりを頼りに、そのまま手を伸ばす。


「……なんだ、こっちだったのか」

「この体の持ち主は非常に強い魂だったからね。随分愛されているようだ……懐かしい思いにさせてもらったよ」


鈍い色に光るその明かりを、意を決して握って外へと取り出す。

それは不安定な場所にあったかのように、何の抵抗もなく外へ出すことができた。


「……あんたは強かったよ」

俺の独白に応えるように、その魂の光は一瞬だけ強く瞬き、そして静かに消滅した。



倒れる体を受け止めたところで、体が元の肉体へと戻ったようで、ようやく視界が晴れる。

最初に見えたのは、眩しいほどに穏やかな彼女の寝顔だった。

全身を襲う疲労感に膝をつきそうになるが、胸の中で寝息を立てる彼女を、地面に転がすわけにはいかない。

……眠っている彼女が目を覚ますのに、それほど時間はかからないだろう。

ちょっと5話程度の短編を作ってます。

いつになるかはわかんないですけどね。

作るのに満足して、表に出すかはわかんないです

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