誰のイタズラだったのかな?
僕達は、無言で歩いた。前には天下人の織田信長、隣には先輩。
「どうだ? 少しは落ち着いたか?」
「もう二度と、あれやりたくない」
「ははは、俺もだ。今は何時だ?」
「はぁ……えーと、四時だな」
「見事なものじゃの。見せてはもらえるのか?」
「いいよ」
(先輩は腕時計を外し、信長に渡してる)
「ほぉ、ほぉ。凄いのぉ。こんな小さい物、俺も持ってない。カリオンも持ってないだろうな」
「腕に着けてもいいよ」
「どうやる?」
「んっ」
「ほぉ、ほぉ、ほぉ、ほぉ! おっ?動いたぞ!」
「そりゃー、一周したら動くよ」
「日付の確認はもういいか?ほかに何かあるか?」
「いいや、もう大丈夫だ」
(先輩の時計を着けてる信長は無邪気な子供のようだ。
この人本当に朝に死んじゃうの?先輩は、どうするんだろ?)
「先輩、俺は凄いか?」
「凄いね。腕時計も見抜くし、
多分、俺らが相当な異物だって分かってるのに、好奇心が勝ってる」
「ほう」
「あのさ、普通の人間なら、これ見ても価値なんて分からないんだよ」
「そうなのか?ふむ」
「金でもダイヤでもない。見たこともない小さな機械だ。いや機械とすら理解も何も出来ない。
何に使うか分からなきゃ、ただのガラクタだろ」
「ふむ」
「でも、あんたは一発で『時間を見るもの』って言った」
「そうだな、大きいのは持っておる」
「違う。大小じゃない。全部の技術に驚いてない。いやどう応用しようかまで考えてる」
「……それが凄いのか?」
「凄いだろ?だから誰もあんたについていけないんだよ」
「……」
「そしてそのカリスマ性も含めて、俺が『きっしょ』って言ったの」
「きっしょ?」
「褒めてんだよ。たぶん」
「そうか……」
(先輩と織田信長は何を話してるんだろう?
時計って時計だよね?なんで織田信長は悲しそうなんだろ?)
「鉄砲のときも、こんな感じだったのかもな」
「鉄砲か?あの有用性をわからん方が俺にはわからん」
「きっしょ、あんた以外活用出来なかったのにな」
「誰かに褒められるのはいいの」
「俺らなんて、普通なら切り捨てられて終わるのにな」
(あっ、今度は笑ってる。なんできっしょって言われて嬉しいの?)
「その手に持っておる、カサカサと音がする布も気になる。中身も気になる」
「どうぞ」
「いいのか?なら見るぞ。なぁ、お主らは何者じゃ?
今なら俺の側仕えはじめ、誰も話を聞いてはおらぬ。秘密は守る」
「んーー本当なら、俺たちはあんたの記憶、いや、誰の記憶にも残っちゃだめなんだよ」
「そうか」
「あぁ、バタフライエフェクト起こしてるからな。しかも現在進行形で」
「記憶に残らないなら、良いのか?」
「さぁーな?多分だが、相当ましだったはず。もうわからん」
「明日、俺が忘れたと言っても無駄か?」
「あぁ、もう無理だな」
「そうか、ならどうする?」
「考えてると言うより戻れるかどうかもわかんねぇし」
「どこにだ?」
「未来」
「そうか……もう一つだけ、未来の手品はないのか?」
「びっくりするなよ?」
(そう言って、先輩は急にスマホを取り出した。
なんだかとても悪い笑顔だけど)
カシャ。
「ほら」
「……すまん。俺にもきつけをくれ」
「本当に凄いね、織田信長様。よく受け止められるね、スマホの写真をこの瞬時に」
「これは凄すぎるぞ。俺がこの中に、イヤ俺だけじゃない!空も木までもがそのまま居るぞ!」
(先輩のスマホを凝視して、写真で驚いてる?確かにこの時代ならないか)
「動く方の手品はまた今度な。どうせならこれ食べてみる?おにぎり」
「ん?これがおにぎり?カサカサも食べれるのか?食べ物なのか?」
「俺、お腹すいてるんだわ。何せ向こうは夜だったからな」
(僕の目の前で、いったい何が起きてるのだろうか。
なぜ天下人、織田信長がおにぎりを食べているのだろうか。
しかも、ビールまで飲む?!
お腹、壊さないかな?炭酸って飲めるのかな?)
「冷たいぞ!シュワシュワするぞ!酒より弱いが美味いな」
「だろ?」
(僕もご飯食べよう。ハンバーグ弁当、チンしたて。異世界って凄いな、冷めないんだ)
「先輩と織田信長がナポリタンを分け合って食べてる」
「ふむふむ、それはなんだ?」
「えっ?」
(僕のハンバーグ弁当も?)
「どうぞ。一口でも二口でも」
「温かい、美味いぞ!なんだ、この食べ物は」
(あっ、現代の味、口に合うんだ。濃くないのかな?)
そんな事を思いつつ、水を飲んでいたら、
「御館様!!そ奴らは何処の者ですか!」
「おー、明智か」
「ぶはぁ!」
「後輩、きたね!」
「せ、せ、せ、先輩!! あ、あ、明智光秀ーーーーー!なんでーー!!」
「そりゃーいるだろ?今日6月1、さっきの話が本当なら明智光秀は本能寺にいるんだから」
「いやいや!ifでしょ!実際は謀反の計画で今亀山ですよね?!」
「後輩お前、ポンポンネタばらし凄いな」
「明智〜、お主、謀反人なのか?」
「御館様!!言って良い事と悪い事がございます!そして、こやつらは何者ですか!
森蘭丸が血相を変えて、私の所に飛び込んできたのですぞ!」
「明智、落ち着け、んー先輩は官職とか地位に興味なさそうだな」
「俺の名前、先輩なんだ」
「先輩、笑ってる場合ですか?」
「そうだ、お主ら俺の息子になるか?」
「息子?信忠の弟は……嫌だ」
「なぜだ?」
「信忠の考え方というか……」
「ほう……考え方か……ならば、お主が信忠の兄になるのはどうだ?まだ鍛え直せるだろうよ」
「……え?先輩」
「兄か?俺が兄か……ならあの自己形成不全の傷が塞がるか?まだ変えられるか?26歳かぁ」
「先輩!バタフライエフェクト思い出して!」
「だって、あいつこのままだとやばいよ??」
「客人それ以上、若殿を愚弄なされるなら斬りますぞ」
「先輩!!えっ、刃物?なんで!?こわ!」
「息子先輩よ」
「なんだ、その変な名前は」
「ん?先輩が織田信長の息子になっても、姓は織田で名前が先輩、呼ぶ時は、織田先輩って普通じゃん、アハ、何も変わらない」
「後輩、お前の笑いのツボが俺にはわからん」
「お前達凄いな。明智光秀が懐刀まで抜いているのに、
なんでそんなにお主らは普通なんだ?」
「あー、もしかしたら、ワンチャン、殺されたら帰るかなって」
「なるほど……だが、命は一つだろうに」
「まぁーね。でも、このままだと、もうバタフライエフェクト過ぎて
俺らすら生きてるかわからんのよ」
「御館様、こやつらは一体……」
「まぁ、話の続きは、そうだな。そろそろ日も暮れる。これからお前らは息子だ。中に入ろうか」
(先輩は困ったように空を見上げてる)
「あー、もういいや。明智光秀さん」
「なんだ!慣れ慣れしく!しかも名前を呼ぶ事を許してはおらんぞ!」
「おれ、織田信長の息子だからいいの。明智さん、その軍装、かっこいいよ」
「なっ!」
「うん、確かに自慢したいな。かっこいいよ」
(先輩の言う通り、明智光秀、本当に軍装褒めて欲しかったんだ、ほこらしげ~)
「でも、脱ぎなよ。御館様を殺さないためにも、そのままだと謀反に――」
その瞬間、僕の視界が暗転した。
「いてっ!」
「え?先輩、鼻血!」
横を向くとうずくまりぼたぼた血を流してる先輩が、
「クソ、いてー口からも鼻からも、ヤベ止まんね」
「救急車!!!」
懐かしい湿度に街灯やアスファルトの匂い、
――そして。
「今度から喧嘩しないでくださいね」
「いや、喧嘩は――」
「こっちは医者!殴られたかどうかくらい分かるの。
警察に通報しないだけ感謝して欲しいわよ。
いい?友達を庇うのもいいけど、気をつけなさいよ」
「あっ、はい……すいませんでした」
「お会計、12000円です」
病院の緊急夜間から僕たちは無言でしばらく歩いていた。
その間先輩はスマホをいじっていたが、先程、食べたはずのハンバーグ弁当は冷えて僕の手元に有るし、
「……」
「先輩……」
「なんだ、後輩」
「僕、夢見てまして。白昼夢ってやつ?昼間じゃないけど起きてる時に見る夢ならそれですよね?」
「おぅ……イテテ。後輩心配するな俺もだ。
しかし、明智光秀ってキレるの早いだろ?
ちょっと見方、変わるわー」
「先輩、そりゃーあの時代の人に謀反は禁句なのでは?それこそ特大地雷では?」
「そうか……」
「でも、何も変わってないですよね?」
「そうだな。良かったな。バタフライエフェクト、入ってなくて」
「そうですね!」
やっとこのジメジメとした空気とコンクリートまみれの景色を感じる事ができて安心した僕は、スマホをスクロールしやはり本能寺の変はそのままで……そのまま、まま……で?
「先輩!せんぱい!!大変です!」
「ん?」
「本能寺が謀反派と無実派で、きのこたけのこ戦争みたくなってます」
「はっ?理由は?」
「えーとえーと、明智軍が本能寺を包囲してますが、明智光秀が軍装を脱いでて、一緒に消火して……えぇええええ、なんか部下の暴走説が冤罪派の主張で、謀反派は脱いでるのは油断させるためだと……」
「え?マジかぁ、都合のいい白昼夢だな。そうか、織田信長、あの軍装脱がせたんだ(笑)さすがだな。あの一言を拾うとは。
まぁ、とりあえず、明日、時計買うか」
「え?あーー先輩の時計がない!」
「信長が着けたままだったからか?バタフライエフェクトってなんだろうな?コンビニの袋は有るのにな?」
「ウゲッ!今度はそっちですか?」
僕はこの白昼夢をいまだにふわふわと受け止めきれてないのに、
「先輩待ってぇ、僕今日寝れないかもですよ!」
「とりあえず、帰るぞぉ」
だが僕は知らなかった。
先輩の待ち受けが織田信長とのツーショットになってることに。それを知るのはもう少し先の未来。
―完―




