延長戦『プロローグ』
【前回まで】
ついに瑛人が最強の怨霊トミヨの復讐を果たし、
人間界、霊界、そして涼子の平和を守った。
物語は少し進み、
竹中と冬子が成仏を果たしたすぐ後から始まる
2ヶ月後 ーー
いつもの講習所の教壇に前川の姿はない。
代わりに、新芽のような若々しい声が講習所に響く。
「改めて、『怨霊研修』を担当する間宮瑛人と申します!よろしくお願い致します!」
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瑛人がトミヨを封じる護符を受け取る時に遡る。
「話と言うのは……私、役人を辞めて成仏しようかと思いまして」
前川の突然の告白に驚く瑛人が理由を聞くと、思いのほか単純な話だった。
「今回のようなイレギュラーがあった時に、皆さんを不安にさせず、心穏やかに成仏させるのが役人の仕事なんです。もし取り乱したら……その時点で身を引こうと昔から決めてたんです」
瑛人はしつこく翻意するように説得をしたが、前川の決意は固かった。
「それより……私の後任なんですが、間宮さんがやってみませんか?」
「えっ?」
「間宮さんは不思議な人ですよね……怨霊に殺されたのに立ち向かおうとする強さ、そして何故か人を惹きつける力があります」
「そんな……俺は……」
「あなたはここでいい仕事が出来るはずです!
一人でも怨霊を出さないためにも、あなたの底抜けの明るさと、他者に対する優しさがあれば悩める方を必ず救えるはずです!」
「前川さん……」
「無理強いはしませんが、是非生きて帰ってきたら前向きに考えてみてください」
前川は優しく瑛人の肩を叩いた。
「前川さん……ひとついいですか?」
前川は少し微笑みながら首を傾げた。
「俺……生きて帰れません!だって死んでますから!」
この時のビジネスではなく心から大笑いした前川の顔を、瑛人は遠い先まで忘れることはなかった。
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講習が終わると、一人の女子高校生が瑛人の袖がふらりと揺れる左腕のシャツを掴んだ。
「間宮さん……あの、好きな人に……会いたくて……
もう一生彼に会えないんですか…?」
「堤下さんでしたよね?外出許可を申請してみてください。受理は私がしますから」
瑛人の優しい微笑みに、堤下にも笑顔が灯る。
◆
早速、堤下が外出申請を出しに瑛人のもとに来た。
堤下の用紙をチェックしながら、外出先の恋人の話をたくさん聞かされる瑛人。
「へぇ、堤下さんの彼氏かなりイケメンじゃない?」
「ふふ……そうなんですよねぇ!」
「いいねぇ、青春だねぇ」
瑛人は申請を受理して、ボックスにその用紙を入れていると堤下から恋の質問をされた。
「間宮さんも死んだ時は彼女さんいました?」
ボックスを棚に戻す手が止まる瑛人に、
堤下が不用意な質問だったと恐縮してしまった。
慌てて踵を返すように去ろうとする堤下の背中に瑛人は明るく返事をした。
「いたよぉ!すっげぇ可愛い彼女が」
堤下が振り返り、再びまた瑛人のデスクに戻る。
「どんな人でした?え?もしかして結婚直前だったり?きゃー♡」
「……ふふ、まぁでもそうだよ。てか、プロポーズしたその日に殺されたからね?」
「えぇ!?最悪すぎません!?」
これには瑛人も自虐的に大笑いする。
「本当に最悪だったよ……まったく関係ないのに殺されたからね。まぁでも、少しずつだけどいい思い出になってきたかな?
こないだ成仏したけど、いい仲間とも巡りあったし」
少し寂しそうに彼らと最後に撮った写真立てに瑛人は目をやった。
堤下はそれよりもどんなプロポーズをしたか?
それが気になって仕方ないようだった。
「あの日はねぇ、プロポーズするまでが一番緊張したかなぁ……絶対内緒だよ?」
瑛人はその日のことを堤下にこっそり回顧した。
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翌日にデビュー戦を控えたジムでの最終調整で、
ラダーや縄跳び、ミット撃ちを行っていた。
「会長!俺、そろそろ切り上げます」
「あぁ、そうした方がいい。今日はさっさと帰って風呂入ってたくさん飯食っておけ。ただ、涼子ちゃんとイチャイチャは試合に響くからすんなよ?」
会長の冗談めいた教えにジムから笑い声が響く。
「ったく、とんでもねぇエロジジイだな!」
瑛人もつい軽口を叩いてジムを後にした。
自転車で自宅へ帰る頃には19時を回りかけていた。
(あ、やばい!涼子が帰るまでに隠していた指輪取り出しておかないと!)
瑛人は猛スピードで自宅へ戻り、
本棚の後ろに隠した指輪の箱を手に取る。
「これは、椅子の後ろに隠して……あ、そうだ!肝心のプロポーズの言葉どうすっかな?今更考えるとか、バカじゃん俺!」
瑛人の独り言大会がはじまった。
「えっと……明日……試合に勝ったら……とか?」
「いや、『人生を共に歩もう!』……臭いかな?」
ガチャと、ドアが開く。
「ただいまー」
いつも通りの時間に涼子が仕事から帰ってきた。
玄関に瑛人の靴を見てニヤッと笑う涼子。
「あれ?瑛人帰ってるの?」
買い物袋を提げてキッチンに向かう。
いつもならこの時間ランニングをしてるはずの瑛人がいる理由は予想できていた。
(昨日掃除をしていた時に見つけちゃったもんね)
と、ウキウキとしながら背中を向ける涼子に、瑛人が声をかける。
「りょ……涼子、そこに……座って?」
そして ーー
いま、小さな部屋で瑛人が涼子と対峙している。
〈 完 〉
最後までお読み頂きありがとうございました。
小説を書き始めて1週間の私ごときが、
ここまで反響を頂けるとは思わず……
ただただ、恐縮と幸せの繰り返しでした。
この作品は10年くらい前に構想していて、
もし10年後に似た話が世になく、自分も覚えていたら書いてみようと思い、小説家になろうに登録しました。
10年前に空想ばかりしていた私でしたが、
時を超えて皆様に支えてくださったことで、
ようやくあの頃の私を褒めたい気持ちになりました。
尚、欲張りなお願いですが、
現在『パンドランディング』という小説を書いておりますので、是非ともお立ち寄りくださると幸いです。
たくさんの応援、感想、本当に励みになりました。
ありがとうございました!!




