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4.5




◇◆アルベルト◇◆




この女は何なのだ。

一国の王女を、この女呼ばわりはどうかと思うが、そう蔑まずにはいられない。


だいたい何故王女が、聖女様の礼拝堂までの同行をしているのだ。自分が護衛をつける身であるだろうに。


聖女様はこれから長い時間祈るのだ。他ならぬそなたたちの国のために。

なのに何故、聖女様の気持ちを乱すような存在を側に置く?


非難を込めてフレデリク王子を見ると、王子はすまなそうな目線を返してくる。

すまないと思うなら王女をなんとかしろ。


私たちは今まで、いつでも聖女様が心安らかにお過ごしいただけるよう環境を整えてきた。


聖女様が望む事はできるだけ叶え、望まれても危険と思われる事には代案を提示して御身をお守りしてきたのだ。


聖女様とは、誠心誠意尽くし、常に感謝の気持ちを捧げるべきお方だ。


伝承にある、澱みが現れた時に世界を救ってくださる存在という聖女様を、私を含め歴代の召喚者たちは当然のものと考えていた。


そうでないと知ったのは、他ならぬ聖女様から容赦なく非難されたからだ。

聖女様に言われて、初めていかに身勝手だったかに気づく。

どの聖女様方もご自分を犠牲にして、私たちの世界を救ってくださったのだ。


もう一度いおう。


聖女様とは誠心誠意尽くし、常に感謝の気持ちを捧げるべきお方なのだ。




()()()()()()とは思い上がりも甚だしい」


元来、私は温厚な性質だ。

第二王子として生を受け、父と兄を尊敬し、将来兄が王位についたら補佐できるようにと生きてきた、野心の欠片もない男だ。

王族として感情を表さないよう教育もされている。

その私が、これほどの怒りを表すとは。


だが聖女様を軽んじる言葉、天上人であらせられる聖女様と同等のような物言い、断じて許す事は出来ない。

私だけではない、コンラードや我が国の騎士たちからも激しい怒りを感じる。


しかしその怒りは、その後の聖女様ご自身の厳しいお言葉で収まっていった。

王女以外は皆わかっている当たり前の事実を、容赦なく告げられる王女を見て胸がすいていく。


そんな、子供にでもわかる説明をされたというのに、王女が浄化の旅の同行を諦めたのは ……虫だった。


女性とはよっぽど虫が嫌いなのだと知る。

私とて得意ではないが、これほどまでとは…。


エミルにさらなる対策をしてもらおう。







◇◆ルイーセ◇◆




「まぁ私も虫はイヤだけどね!」


聖女様は離宮の自室に戻られると、今日あった事を話してくださる。

たいていは騎士たちとのたわいもない話なのだけれど、時々今日のようにスマラグティーの王女の困った話もされる。


「あれだけはどうやっても慣れる事はできませんね…」


虫…。

思い出してゾッとする。


私は中位程の伯爵家の娘だったけれど、嫁ぐ前も婚姻中も、王宮に出仕するようになってからも、虫と遭遇する生活はしてこなかった。

それが澱みを浄化する旅に出てからは、毎日が虫との戦いになった。


テント内に侵入する虫に、聖女様が悲鳴を上げられる。

大急ぎでテントの中に入ってくる騎士の誰かに抱き上げてもらう聖女様と私。


淑女の何たるかは、足元にうごめく虫には敵わない。少しでも遠くにという思いだけで必死だった。


「私たちにとっては、澱みの魔獣よりイヤよね」

「はい、本当に」


心からの言葉だ。




ウィリディスの浄化の旅の時、最初はいた何人かの侍女は、野営になった途端脱落した。

気持ちはよくわかる。


私を含め侍女は皆貴族令嬢なので、野営などした事はない。

聖女様を思う気持ちより、生きていけないという本能のようなものが勝ったと思われる。

すごくよくわかる。


私は一度嫁いだ経験がある事や年齢的なもので、令嬢たちよりは気持ちが強くなっていると思う。侍女長という責任感もあった。


何より、聖女様ができるだけ不自由なくお過ごしできるよう、お側で仕えたいという気持ちで踏ん張れた。


ただの貴族令嬢、婦人ではできないようなたくさんの経験をして、過ぎてしまえば楽しかったと思える浄化の旅だったけれど、それをもう一度する事になるとは……。


すでに二ヶ月以上の旅をしたし、スマラグティーで過ごしたこの後は、また長い浄化の旅になる。


旅は過酷だ。移動は疲れるし、野営は色々と厳しい。澱みの魔獣は恐ろしい。


それでも聖女様のお側にいたい。

聖女様が少しでも居心地よくお過ごしいただけるよう気を配り、困った事がないよう、あってもすぐに解消できるようお仕えしたい。


少女の頃から憧れていた聖女様は、語り継がれているよりもっと素晴らしいお方だった。

厳しいところもおありだけれど、慈愛に満ちていて、不敬を承知で言わせてもらえるなら、とても好ましいお方だ。


侍女長の責任感などではなく、心からお仕えしたいと思うほどに。




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