2.5
◇◆コンラード◇◆
スマラグティーの浄化を始めて約一ヶ月になる。
最初は危うかったスマラグティーの騎士たちも、かなり戦えるようになってきた。
やはり実戦に勝るものはない。
国境を越えてスマラグティー側との初の皆合では、スマラグティーの王都までは三週間ほどとの事だったが、まだもう少しかかりそうだ。
何故か?
聖女様が進む先々で澱みを浄化なさっているからだ。
我が国の時にも思ったが、澱みを浄化された民の安堵の顔、これからの未来にやる気みなぎる顔、そういうものを見ると騎士としてのやりがいを感じる。
何より、語り継がれてきた聖女様のお姿に感涙している者を見ると、我が事のように誇らしくなる。
そうだろう、そうだろう!
聖女様は慈悲深く慈愛に満ちたお方なのだ!
その上、天上人であらせれるのに、とても気さくなお方でもあられる。
莫大な国家予算並みの金が動いている、幾重にも取り決めがなされている、絶対になかったであろう他国への聖女様の出張派遣。(という言葉も初めて聞いた)
厳密に計画されているそれを
「通り道に澱みがあるのなら、なくしていけばいいじゃない?」の一言で変更させてしまわれた。
国同士のあれこれより、ただ民のために。
慈愛に満ちる聖女様のお気持ちに添って、私たちは少しでもお力になれるよう尽力するだけだ。
聖女様の派遣契約には、聖女様が祈る間の魔獣を討伐するのはスマラグティー側だけとなっている。
ウィリディスの騎士たちは聖女様を守るだけと。
当り前だ。騎士の矜持で言わせてもらうなら、自国の事を自分たちで何とかできず、他国の騎士に介入されるなどあってはならぬ事なのだ。
それ以外にも、我々が第一に大事なのは聖女様をお守りする事だ。
ウィリディスの浄化の旅の間は、私は魔獣と戦う事の方が多かった。
今回はしっかり聖女様のお側でお守りさせてもらうと楽しみにし…、 決めている!
と思っていたのに!
負傷したスマラグティーの騎士たちの間を歩く聖女様の、彼らへの労いやお褒めの言葉を聞いているうちにモヤモヤした気持ちがわいてきた。
お優しい聖女様は我が国の時と同じく、他国の騎士にもその聖なるお力を施したいとおっしゃった。
当然皆反対する。
聖女様がお力をお与えになるのは、澱みを浄化するだけで十分すぎるのに、これ以上何かする必要はない。
「ケガをした騎士君たちが、最初の頃の第二騎士団とかぶるのよ。ケガがひどくなったり死んじゃったらイヤだよ」
そう引き合いに出されたら、そんなに哀しそうなお顔をなされたら…。
殿下はもう反対する事ができなくなってしまった。
ではと、我らも一緒に赴く事になった。
二十何人もの大勢で聖女様と一緒に歩くのは邪魔になる。
ご一緒するのは殿下と私や、スヴェンやエミル卿だけで、第二騎士団の皆はその場に待機する。
しかしお声はしっかり聞こえる距離だ。
皆、聖女様の労いやお褒めのお言葉が聞こえていた。
顔を見てわかった。あいつらもモヤモヤしている。
我らの聖女様なのに!
我らも聖女様からお褒めいただきたい!
そうして魔獣討伐に加わるようになった。
我らの戦い方を見て、スマラグティーの騎士たちはだんだん上手くなっていった。
結果オーライだ。
ただひとつ、戦い慣れしている我らは怪我する事が少なく、聖女様の聖なるお力はいただけないのが残念だった。
しかたない、わざと怪我をするなど騎士として出来る事ではない。
しかもそれで、もしもの大事に聖女様を満足にお守りできないようになったとしたなら…、
そんな事になるくらいなら怪我などしなくてよいのだ。
それでもたった一言、労いやお褒めのお言葉をいただけたなら、十分に満たされるのだから。