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「あー、ちくしょー! なんで俺が狩人に相応しいのかどうか確認するために一緒についていかなきゃならねーんだよ! せっかくのんびり仕事せずに机に突っ伏して寝ていられたのに!」

「……それが原因なんじゃないか?」


 目の前で仕事放棄を堂々と宣言する狩猟組合の職員。少々サボり癖があるようで今日も机でぐったりと突っ伏していたところをお前がちょっと調べてこいと新人候補であるルフェに付き合わされたということである。


「あー、わかってるよんなこと……で、俺はお前を案内すればいいわけ?」

「みたいだな。とりあえず適当に狩れる獲物がいるところなどこでもいいけど」

「なにそれ。えっと、あんたの装備……装備…………なんで何にも装備してないんだよっ!?」


 改めてサボり職員がルフェを確認すると何も装備していないことが分かる。そもそも何も話を聞かされておらずいきなり案内しろと言うことだったのか、それともサボり気味のところに話を持ってこられ話半分に聞き流していたのか理由は不明だ。


「お前装備どうしたんだよ? 剣とか弓とか、何か持ってないのか?」

「持ってない。素手で狩るから別にいいだろ」

「……冗談、冗談だろそれ?」


 素手で狩りに行くなど何かの冗談かと思うのが普通だろう。しかしルフェは別に冗談を言っているわけではない。


「いや、別に冗談じゃないが」

「冗談じゃない方が余計に悪いわっ! なに、俺自殺願望丸出しの奴に付き合わされてんの!?」


 そう叫びサボり職員が武器の必要性、防具の必要性に関してをルフェに説き始める。なんだかんだでサボり気味ながら彼も狩猟組合の職員であり、受付に出て組合に所属しようとする新人に対し必要なことや心構えを教えることは出来るくらいの能力はある。その能力を駆使してルフェに狩猟者の必要事項に関して説くのだがそもそもそうする理由は彼が死にたくないからである。決して……全く零と言うわけではないが自分のためでありルフェのためではない。

 ルフェが狩猟に失敗した場合、その監督をしなければならない彼もルフェを襲った動物か魔物かに襲われる危険が高い。彼自身の狩猟能力はさほど高くはない。狩猟組合の職員は別に全員が狩人であったというわけではなく一部は普通に外部に求人を出して入れられている。彼もそのタイプの狩猟能力を持たない職員である。それゆえに襲われば全力で逃げるしかなく、それでも逃げ切れるかは怪しいため共にいる人間に頼らなければならない。

 そしてその相手がルフェ、見た目だけで言えばただの街の人間にしか見えない、素手で動物や魔物に挑もうとする無謀な人間であれば精一杯自分の安全のために狩猟者に必要な装備や心構えについて説くのは当たり前の行いだろう。


「話は終わったか?」

「……聞いてなかったのかよ!?」


 涼しい顔で言うルフェに対しサボり職員が怒ったように叫ぶ。少しでも話を聞いていればまともな人間であればわかった何とかしようと考え思い直し狩猟に必要なものを求める準備をする、そうするはずだと職員の方は思っている。しかしルフェの返しは極々あっさりしたものでまるで話を聞いていないかのように感じられるものだった。

 しかしルフェは全部話を聞いているのである。基本的にルフェは相手の話を聞く人間だ。ただ自分に関係ない、必要ないことは基本的に無反応、特に何も返さないだけである。

 そう、ルフェに装備など必要ない。ルフェは自分の能力を極めて正しく知っている。


「もし俺の方が獲物に襲われて負けそうになったのならそっちは躊躇なく逃げてもいい。こっちが何とか引き付けるからさ。だから早く案内してくれないか? 適当に近場の獲物がいる場所に」

「…………くっそー、めんどうくせぇなあ」


 実のところ自分の身の安全だけではなく、ルフェが何か必要な物を買うということになれば今日は獲物を狩りに行けなくなる可能性がある。そうなれば言われたことをうやむやにできる上に仕事をサボれるという打算があったのである。それもルフェには全く通用せず、容赦なく街の外、獲物がいる場所へと駆り出されることになったのだが。

 町の外を出て街道沿いを進む。基本的に街道沿いに魔物や動物はいない。いればそこを通る商人やら何やらに狩られるか追いやられるするからだ。一部の無害な動物などは除き殆どの生物はその住処を追いやられ森や街道から外れた草原、平野などに住んでいる。例外があるとするならばどこからともなくいきなり現れた魔物がいるくらいだが最近は魔物たちも魔王によってある程度グループを作ったためかそうそう逸れて寄ってくることもない。

 今回は街を出て一時間程歩いた先にある小さな森で狩りを行う。小さな森と言っても森は森、横断するには二日はかかる広さがある。


「どうだ、暗いだろ? 怖いだろ? とっとと帰ろうぜ」

「そうだな。とりあえず大きな奴を狩るとしようか」

「こいつ人の話聞かねえ!」


 ルフェは特に職員の話を聞き入れることなく森の中を移動する。ずんずんと何もわからずまっすぐ進むように見えて、時折ふと立ち止まり進む方向をわずかに変える。そんな様子に職員は気付いているが意図が不明で不安になるばかりである。


「おい……獲物を探してるなんて効率悪いだろ? わざわざ森の中に入らなくても外の方で獲物を待つって手がなあ……」

「そんなに不安なら外で待ってればよかったのに」


 なぜ森に入るのが怖い、身の危険が怖い、自分についていくのが不安で怖い、そんな心持であるのに自分についてくるのかがわからずルフェが呟く。


「ばっきゃろい! 俺だって一応狩猟組合の職員だ、言い訳が効くことならどうとでもできるが職務放棄するなんてとんでもない! 偉い奴らにがみがみ怒鳴りつけられるに決まってんだ!」

「……実感がこもってるな」


 普段サボる職員だからこそ、どこまで手を抜いていい内容なのかがわかっている。しかしそもそもサボらなければ彼はルフェについてくることはなかったはずなのだが、それについては考慮していないのだろうか。

 そうしてルフェが森の中を進むうちに、突然立ち止まる。今までのように途中でふと立ち止まるかのようなものではなく、何かを感知したように急にぴたりと動きを止める。そして警戒する様子を見せ始めた。


「お、おいいったいどうし……」

「しー」


 人差し指を口の前に立て、黙るように言う。その仕草についてきた職員も黙る。ルフェに先導され二人は樹の影に隠れるように移動する。そうして少し待っていると森の奥、木の向こう側から大きな熊が現れる。


「げ……」


 職員はその熊のことを知っている。危険度の高い熊は普段は森の奥にいるが腹が減ると森の入り口の方まで出張ってきてよく狩りをしている人間を襲う傾向がある。もちろん人間以外でも構わない、適当に見かければ襲うのだが人間が狩りをしに来た時にいつもいる場所というものを知っておりそこに出てくる。かなり知能が高いらしく、森の動物の動きの変化で人間がいるかどうかを知るらしく的確に人がいる時を狙ってくる。今回はルフェの動きを察知したということだろう。

 ちなみにこれだけの能力を持っていてもこの熊は魔物ではなく動物のカテゴリに属している。熊が襲いにくるのはあくまで食事のためだからだ。むやみやたらに獲物を襲うわけではない。


「ありゃ無理だ……気づいていない今のうちにとんずらしようぜ」


 そう言って職員はルフェの方を向くが、そこにルフェはいない。


「え?」


 職員は間抜け声を上げ一瞬呆けるが、すぐにどこに行ったんだとルフェの行方を追う。幸いにもルフェの姿はすぐに確認された。


「よし、こんなもんかな」


 熊の首に腕をかけ、首を折っているルフェの姿を職員は見ることになった。


「な、な、な、なにやってんだいつの間に!?」

「何って熊を仕留めたんだけど」


 見ればわかることだが、その出来事に職員の理解が追い付かない。いや、理解は追いついているがそれが現実かどうかを受け止められないという方が正確だろう。まあ人間が熊の首をへし折ったなどと言うのは流石に現実離れしていると言わざるを得ない。普通の熊ならばまだしも目の前の熊は危険度の高い強化種、上位種の類。それを素手で仕留めるなどというのは人間にできることではない。仮にできても少なくとも筋肉隆々のそれこそ私はとても力がありますと主張する肉体を持っているべきであり、目の前の普通の人間っぽいルフェがそれを実行できるなどとは思えないだろう。


「ど、どうやって熊に!? どっから襲ったんだよ!?」

「上。木もあるから登りやすいしさ」

「上……? 登るってどうやって? 木登りしている余裕なんてなかっただろ」


 通常木を登る、というのは素手で木の枝をつかみ、足をかけて登るそれを思い浮かべるだろう。しかしルフェは常識外の存在。


「……んー、ちょっと捕ってくるから実演しよう」

「とってくる?」


 ルフェが軽く地を蹴って木に跳ぶ。そのまま木を蹴って蹴り上がり木の上、枝が鬱蒼と生えている人では届きにくい位置までルフェは一気に登っていた。


「……………………は?」


 言葉が出てこない、思いつかない、そんなところだろう。目の前で人間離れした行いを見せられればそうもなるだろう。ルフェはそのまま木の上まで登り、何かをつかみそのまま木から離れる。そして当然そうなれば自由落下が開始する。


「お、おい! 落ちてるぞ!」


 ルフェはそれに答えずそのまま落下する。見てられない、と目を瞑りたくなる職員だが見ないでいるのも問題だ、見届け人として最後まで見るべきだと妙な主義と言うかポリシーと言うか、そんな感じのことを考えた結果ルフェの行動の結果を見届ける。あっさりと地面に着地するルフェの姿を。うまく着地の衝撃を流したのか特に大きな落下音がすることも地面に落下の力がかかって穴を空けるようなこともなく、すんなりと降りてきたような感じである。


「一体何しに登ったんだよ!?」

「これを捕まえに行ってきた」


 そう言ってルフェは手に持っている鳥を見せる。


「……生け捕り? 今、登ったときに?」

「ああ。別に鳥でも獲物は獲物だろ?」

「いやそうだけどよお……」


 もはや目の前の人間が同じ人類とは思えない、これが今の新人の狩猟者の実力か、いやそんなわけないだろうと自分で考えたことに自分でツッコミを入れつつ、目の前の状況を理解し心の整理をつける。


「あー、もう! おまえ多分狩猟者なっても問題ねえよ! なんでそんなに人間離れして強いんだよ! 俺が驚きだよ!」

「……いや、そんなこと言われてもさあ」


 半ば文句のような感じで言ってくる職員にルフェとしてもそんなことを言われても困る、と言った様子である。


「……まあ、いいや。あの熊持ってけるか?」

「ああ、問題ないけど」

「なら担いで街まで持ってくぞ。一応実力は俺がしっかり見届けたけど、あんな光景言った所で嘘つけって言われるのが関の山だ。お前が狩ったあれを担いでもってけば実力の証明にはなるだろうよ」


 あの巨体を一人で担いでいれば少なくとも力はあるとみなすことができる、そうであるならば問題がないということである。


「ああ、わかった……この鳥はどうする?」

「首折っとけ。それくらいなら俺が持ってくわ。お前はあっち優先な」

「了解」


 そうして鳥一羽と熊一頭を土産に二人は街へと戻り始めた。

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