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街についた当日の宿の代金はベイズが出してくれた。またそれと同時に護衛の報酬もルフェは受け取った。ルフェとしては運んでもらうことと宿の代金で対価としては十分かと思っていたがベイズの方が頑なだったためそうなったようである。もっともルフェとしても路銀に乏しく、今持っている分では三日も宿に泊まれないため現実的な問題として受け取らざるを得ないということもあったが。
そしてルフェはベイズと別れアイネと同室で宿に泊まることとなった。なお宿の代金は泊まる人間の数ではなく泊まる部屋で決定するようだ。ただし床や寝具などを汚した場合は追加料金とのことである。これはルフェとアイネがそういう関係に見えたからの忠告なのだろう。そういったことはそういう用途に使える宿屋を使えということだ。ルフェはその意味を理解しつつ軽く流す。アイネは真っ赤になりつつ何も言わずに部屋へと向かった。
「……はあ、ようやくゆっくりできるわね」
「ずっと野宿ばっかりだったからな。まあベイズと一緒にいる間は馬車で休めたけど」
野宿よりははるかにましと言えども馬車内部は十分休めるというほど広くはなかったうえに三人もいて積み荷もある状態でどれだけゆっくりと休めるかと言う話になってくる。
「……ところで、この後はどうするのかしら。街に来たはいいけど全く何も知らないんだけど」
「………………」
ルフェとしては何でついてきたんだと一瞬言いたくなったが、幼馴染の気持ちも理解しているので何も言わなかった。自分もこれからについて何も考えていなかったというのもある。もっともルフェはそのまま森かどこかで獣を狩る半ば野生児じみた生活をすればどうとでもなるのであまり難しくは考えていなかった。
「街では自分で仕事を探しなさい、ってことらしいな。だから何か自分のできる仕事を探すしかないんじゃないか」
「え…………そういうものなの?」
村社会の半ば閉鎖気味なコミュニティで暮らしていた二人は街での暮らしについてほとんど知らない。村に来たことのある旅人や商人などから入ってくるちょっとした情報しか知らないのである。今回のような異例な事態でもなければ二人は村で過ごし村でその人生を終えたのだからそういう知識の無さはしかたのないところはあるかもしれない。
「なにができるかしら……そもそもどんな仕事があるのかもわからないし」
「俺はとりあえず狩猟組合に行けって言われたよ。腕っぷしがあるからって」
「……まあ今のルフェなら狩りくらい楽だもの、そうなるわよね」
アイネはさんざんルフェの実力を見ているためさもありなんと頷く。
「……私も何かできそうなことを探してみるわ。どう探せばいいかはちょっとわからないけど」
「ああ、頑張れアイネ」
ルフェには応援することくらいしかできない。
その夜特に何か起きることはなく、平穏無事に過ごす。ルフェも流石に結構疲れがたまっていたのか、アイネと同じくぐっすり眠りにつく。そして翌日になりそれぞれ仕事を探して行動し始める。
アイネはまずどのような仕事を探すべきか、そのような仕事ができる人間を求められているかを探すしかない。ルフェと同じように狩猟をしてもいいかもしれないが確実にルフェの足手まといになるため別の自分のできる仕事を探すようだ。
そしてルフェはベイズに言われた通り狩猟組合へと向かう。街に来たばかりなうえに狩猟組合と言う存在をベイズに聞くまでしらなかったルフェは当然その場所、建物の見た目を知っているはずはない。近くにいた適当な街の人間に所在地を訊ねいくらかあちこち探しようやくたどり着く。
「ここかー」
道中色々なところを回って道に迷ったりして苦労したようだ。苦労しても体力的には全く問題ないようではあるが。
ひとまず建物の前で待っていても仕方がないということでとりあえずルフェは入ってみることにするようだ。ルフェが入ると中にいる数人の狩人の視線がルフェに向く。それは値踏みをするようなものでいったい入ってきたものが何者か知りたいと言った感じのものだろう。
攻撃的なものはとりあえずなさそうなのでルフェはその視線を気にせず、とりあえず設置されているカウンターの方へと行く。宿屋で一度経験したが、その辺にいる人間ではなくカウンターにいる人間に話して話を進めるようだというのをなんとなく理解しているからである。
「えっと、ちょっといいか?」
「はい、なんでしょう。仕事の依頼でしょうか?」
カウンターにいる受付の人間はルフェが明らかにその辺の街の人間のような服装、明らかに狩猟者の服装と装備でないことから何か依頼でもしに来たのではと推測し訊ねる。仮に狩猟組合に登録するにしても全く着の身着のままでくるはずまないという思い込みである。
「いや……えっと、ここに行くといいって言われたんだが、仕事ってここでできるのか?」
「…………ええっと、どのような仕事でしょう? 事務であれば募集はしておりませんので特に仕事はないのですが」
「多分狩猟の方だと思う。ちょっと戦いの実力を見た人に言われてここに来るといいって言われたから」
「……つまり狩猟の仕事、ですか?」
ルフェは見た目だけで言えば、普通の男性にしか見えない。狩人であれば相応の格好をするべきである。実力を示すならばなおのこと、自分の装備で何を使うのか、どのような装備を持っているのか、装備の状態でも年期や装備の調整能力からおおよその実力の示しがつく。ルフェにはそれすらない。その状態で狩猟の仕事をと言われても何の冗談かと思われるだろう。
しかし冗談と一蹴するわけにもいかない。なので受付の人間はルフェの狩猟能力について訊ねる。
「その、どのような装備を使われますか? 今日はその、何も装備していない状態で来ていますでしょう?」
「装備とか持ってないけど。素手で狩るよ」
「…………………………」
言葉が出ない。当然と言えば当然である。散々言っているが見た目はただの街の人間にしか見えないルフェが素手で獲物を狩ると言う。熟練の筋肉隆々な人間でも素手で動物を狩るのは難しい。ルフェならば実際にその戦う姿を見ていなければもはや自惚れを通り越して馬鹿、愚かな考えをしているとしか思えないだろう。
「おいおい、兄ちゃん。素手で狩りするとか冗談か?」
「おまえの貧弱な体でそれだけできりゃあ俺らなら小指の先でお陀仏にできるぜ」
わはは、と愉快なものを見たとでもいうような笑いをしてルフェに突っかかってくる二人組。いわゆるテンプレ的な少々小悪党なタイプの人間である。実力的に言えば普通の狩人よりもちょっと上くらいの実力者、ルフェを笑いものにできるほどの実力はないはずだが先に言ったことは話を聞いていた近くにいる数人の狩人が思ったことでもある。もっともそのあとに続けてもう一人が言ったことは笑い話にも出来ない冗談だが。
「とりあえず何をすればいい? あ、何か適当に持ち込んでもいいんだったか?」
「あ、はい…………」
ルフェは二人を気にすることもなく話を続ける。受付はそんなルフェに若干戸惑う。全く嫌味を言ってくる相手を気にしないのは珍しいからである。そんなルフェに二人がさらに突っかかってくる。
「おい、話を聞けよ」
そう言って一人が肩を掴もうと手を伸ばす。しかし後ろからの行動であったのにルフェはすっと体を動かして避ける。
「うお!?」
手を伸ばした方はこけそうになり、もう一人がルフェの横に出てその逃げる方向を塞ぐ。
「人の話は聞いたらどうだ? 兄ちゃん?」
「……ためにならない話は聞くつもりはないが?」
「ふん。何にも装備もないど素人がよく言うぜ」
そう言って二人がルフェを挟み込むような立ち位置になり調子づく。ぺちゃくちゃとあれがなっていない、これがなっていない、お前はダメだ、とっとと帰れ、ママのおっぱいでもしゃぶってろとよくあるような三下の台詞から嫌味や愚痴まで散々とルフェは聞かされる。流石にそういう言葉を吐く二人に周りの人間の方が気を悪くしている状態だ。しかしルフェはまったく気にしていない。
「話はそれだけか?」
「……お前人の話聞いてたのかよ?」
「聞いてたよ。でも俺には関係ない話だろう。そっちが勝手に思ったことや自分たちでどうにかすることばかりじゃないか。すぐに解決するようなことも多いし、こんなところにいないですぐにやってきたらどうだって思ったよ」
ルフェは二人の言ったことをすべてばさりと斬り捨てる。流石にその言葉と対応に二人はかっとなる。
「うるせえっ!」
前から殴りかかる男をルフェは避ける。大げさに避けるわけでもなく、かといって最小限に避けるわけでもなく。気がつけば避けていた、と周りが錯覚するような流麗な動きでいつの間にか殴り掛かってきた男を避けていた。そのことに気づいたのはその場にいた狩人たちのなかでも極僅かだろう。気付いたのは仕事を終えたばかりで次は何を狩りに行くかと考えていた凄腕くらいである。
「うおっ! 避けんじゃねえ!」
「我がままだな」
ルフェが避けたせいで当たりそうになった後ろにいた男が避けるなと言いながら前の男のように殴りかかってくる。言われたとおりルフェは避けるようなことはせず……殴り掛かってきた拳を掴み止める。
「っ!」
「まだやる? 俺としても外にぶっ飛ばした方がすぐに終わりそうで良いんだけど」
ちょうど受付前にいるところからであれば一直線に蹴っ飛ばしたり殴り飛ばしたりできそうだ、とルフェは心の中で思っている。拳を掴み取られている男はそんなことができるかと心の中で思いつつも、掴まれている拳が全く動かせない状態であることに気づく。体を動かせないのではなく、拳を動かせない。前にも後ろにも。完全に固定された状態だ。それに気づきその異常さを理解する。ルフェが拳を完全なる現状維持の状態にしていることに。
「……や、やめとくぜ」
「おいおい……ま、こいつが言うならやめとくか」
もう一人は流石に拳を握られている状態の異常さに気が付かなかったが、相棒が突然やめると言い出したことに何か感づいたのかそれに同調して退く。ルフェも無駄に暴力を振るいたいわけでもなく、退くならば止めない。
「それで、俺は何をしたらいいかな?」
「……とりあえず試験的に何か適当に獲物をとってきてください。本来ならすぐに登録するのですが、あなたの狩猟の実力が不明なので一度狩りをしてもらって実力証明をしてから登録したいと思います」
「わかった。えっと、どのあたりに行ったらいいい? ここに来たばかりで動物の分布とかわからないんだ」
「そうですね、一人監督役をつけますのでその方に案内してもらってください。少し待っていて下さい」
話は順調に進み、ルフェはひとまず狩猟を実際に行ってもらいその実力を証明してから狩猟者として登録されることに決定した。ひとまずは外に一度狩りに行くことになり、一人の人間と共にルフェは街の外へと向かう。




