46
「何で、元に戻そうとするの?」
俺寄りのアーシェが俺へと訊ねる。フェリ寄りのアーシェも聞きたいのだろうけど、あちらは俺に対する感情は薄い、弱い、少ない。だから訊ねるのは俺よりのアーシェなんだろう。そっちのアーシェの方が、俺がどうしてアーシェを元に戻そうとするのかを知りたいから。
「むしろ聞きたいんだけど、何でアーシェが二人いる状況を許容すると思ってる? 今のアーシェの状態は誰がどう見てもおかしい状態だ。片方には身分証明できるものもないし、アーシェという人物は本来一人だけの存在。もう片方が自由に生きるのは難しいだろうし、同じ人間が二人いると変にみられるだろう。双子というわけでもないんだからな。それに、アーシェは気付いていないかもしれないが二人が離れることには結構な問題がある感じだ。だから離れて過ごすこともできず、それはつまりアーシェが二人いることが周囲に許容される状況じゃないと難しい。そもそも、一人の人間を二つに分けること自体が異常事態なんだ。そんな状態を維持してアーシェに何かがあったら嫌に決まってる。だから戻したい、そう思うのは普通だろう」
「…………」
別にアーシェが二人いること、アーシェが二人になったことに文句があるわけではない。もしそれが許容できる状況下であれば、かなり歪な状態になるのかもしれないがまだなんとか維持してもいいかも、と思えたかもしれない。思えなかったかもしれないが。
しかし実際には夜にアーシェがうなされると言うことが起こり、二人を近づけることで解決した。そういう事実を知ると二人のアーシェが離れることは問題が多すぎる。
「ねえ、アーシェ。アーシェは何で自分を二人にしたの?」
フェリがアーシェに訊ねる。そもそもアーシェが二人に分かれることになった、アーシェがそんな行動をとった理由は一体何なのか。
「え? えっと、それは……」
「私の立場の問題だよ。錬金術師の私は師匠のところにいないといけない。だから冒険者と分けて、それぞれでミツヤスさんやフェリちゃんと一緒にいたいなって思っただけ」
「……それは違うんじゃないか? 本気でそう言っているようには見えないぞ」
「っ……」
「…………フェリちゃん」
「教えて、アーシェ。私はアーシェのことが知りたい。アーシェが何を考えて、なにを理由にこんなことをしたのか」
フェリ寄りのアーシェが俯く。俺よりのアーシェがもう一人のアーシェの方に視線を向けている。もしかしたら、このきっかけはフェリ寄りのアーシェに関連があるのだろうか。いや、待て。フェリに関係がある、のか…………想いを二つに分けた、俺寄りとフェリ寄りに。
「言えないよね、あなたは、言えないよね。だから私が言うよ」
「え……でも……」
「だって、私だもん。多分私とあなたは同じなんだろうけど、より私なのは多分私なんだよ。私が決めたことだから、私が全部言うの。自分でも、もともとの気持ちは私の方が強かったでしょ?」
「……そうだね、だからこんなことしたんだもんね」
「ミツヤスさん!」
「……何だ」
アーシェがこちらに強い視線を向けてくる。今回のことを起こした理由、原因、それをはっきりさせるつもりなのだろう。いつにない、強い意志を感じる。
「私はミツヤスさんが好き! 大好き! ずっと、一緒に、いたいって思うくらい大好きだから!」
「…………そうか!」
いきなり告白された! わけがわからない! ぶっちゃけ混乱している!
「でも、私は……」
「私は、フェリちゃんのことが好き!」
「ふえっ!? なななななな、なにを!? いきなり何言っちゃってくれてるのこの子ー!?」
ああ……フェリ寄りのアーシェも何かフェリに言っている。この流れがフェリの方面まで波及した…………
「私は、ミツヤスさんも、」
「フェリちゃんも、好きなの!」
「一緒にいたいって思うくらいに!」
「でも、一緒にいられないってわかってる!」
「ミツヤスさんと一緒にいることは、まだできるかもしれないけど、」
「フェリちゃんは女の子だから、一緒にいるのは難しいよ。」
「あの時、私、はミツヤスさんとフェリちゃんの言葉を聞いちゃったの。」
「フェリちゃんが私を好きなのも、ミツヤスさんがどう思ってるのかも。」
「それで、私はもうどうしたらいいんだろう、って思った。」
「どうすればいいかわからなかった。だから、何も考えずにいつも通りにしようってことにしたの。」
「でも、ずっと考えてた。二人と一緒に、楽しく、過ごせないかって。」
「それで、ここで見つけたこの機械を使ったの。私を、フェリちゃんと一緒にいられる私と、」
「ミツヤスさんと一緒にいられる私に分けられるってわかったから。」
「………………これなら、フェリちゃんとも、」
「ミツヤスさんとも一緒にいられると思った……思ったのに」
あの時の会話を聞いていたのか……酒を飲んで酔っていたからかアーシェの気配を探し損ねたのか俺は。いや、話を聞くにはけっこう近づかなきゃいけないと思うし、場所もわかっていないと思うんだが……アーシェは錬金術師の弟子でいろいろ持ってるからな。あの鞄、全部漁って何が入っているかは見たことないんだよな。もしかしたらその手の何かが入っている可能性もあるか。
「………………」
「………………」
フェリと俺は無言になる。無言になることしかできない。これほどまでアーシェを悩ませ、考え込ませた原因は俺たちだからだ。特にフェリはあの時の会話を聞かれていたと知って真っ赤になっている。まあ、アーシェが好きだって行ってたのを聞かれて知らずに告白したようなものだ。俺の方としても……さっき真っ直ぐに告白されたから正直言って複雑だ。
しかし、この問題は難しい問題じゃない。恐らくは、かなり解決が簡単な問題でもある。問題は俺とフェリとアーシェじゃなくて周りの方なんだが……いや、今回だと俺も問題の一端にはなるんだよな。
ぐじぐじと、いつまでも悩んでも仕方がないことだ。
「…………アーシェ」
「……何、ミツヤスさん」
アーシェがこっちを見てくる。言葉を違えるな。俺は、思ったままに言えばいい。
「俺はアーシェのことが好きだ」
「…………ふえっ!?」
「待て。話は最後まで聞け」
「は、はい!」
まだ、悩んでいるところはある。思ったままを言うだけにするが。
「その好きが、アーシェと同じ保証はないし、アーシェと同じくらいアーシェのことを想っているとは言えないかもしれない。でも、アーシェに対して好きだと言う想いを持つのは間違いがない。だから、アーシェがいいなら、俺はアーシェの側にいる」
「……でも、ミツヤスさんがしたいこととか」
「ない。俺はここで何かしたいこととかはないんだ。それを探すために旅に出たようなものだから。だから、アーシェと一緒にいても、全く問題はない。好きな相手と一緒にいるのは下手に何かをするよりも楽しいしな」
「そ、そうなんだ…………うーん……ちょ、ちょっと素直に喜べない!」
告白に対する答えとしては、ちょっと弱いもんな。それは自覚がある。でも、これが俺が出せる精一杯の答えだ。
「それで、だ。俺は基本的に何かをしたいとか、アーシェに何をしろ、とかそういうことを言うつもりもない。ただ、アーシェがやりたいということや、叶えたいと思ってることに関しては俺は全力で手伝いをしてもいい」
「……え」
「だから、アーシェが思う、フェリに対しての想いを全部フェリに伝えろ。それで、あれこれ世間的な迷いとか全部ぶっちゃけてフェリとアーシェできっちりどうするかを決めろ。俺はそれを全力で応援するし、全力で支援するし、何でもしてやる」
「それって…………」
「ありがと、ミツヤスさん」
フェリ寄りのアーシェが俺の言ったことに答えた。そうだな、今フェリに対して伝えるのはあっちのアーシェの役割か。




