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「今、私達はアーシェと一緒に旅をしているのよね」
「そうだな」
「……いつまで?」
いつまで、か。そんなことはわからない……と言いたいが、恐らくは元の、アーシェの最初にいた街、アーシェの師匠の家のあるあの街に戻るまで。そうでなくとも一年でアーシェの師匠が戻ってくると言う話だし、少なくとも……一年という期限はあるんだろう。
「わからないが……アーシェの師匠次第、かな。少なくともこのままずっとってことはないだろう」
「そうよね…………ねえ、ミツヤス。私もだけど……アーシェとどのくらい一緒にいるつもり? 私たちはあくまでアーシェと旅をしているだけ。友人だし、一緒にいたいとも思うけど、恐らくあの子普通の子じゃないだろうし。ずっとは一緒にいられない。ミツヤスがあの子と一緒にいるのはいつまでになるのかしら?」
「恐らくは、旅が終わるまでだろうな」
「ふーん」
返答が悪かったのか、フェリの言葉に苛立ちが見える。
「………………」
「………………」
少しの間、気まずく感じる沈黙が訪れる。しかしぐいっとフェリが一杯飲み干し追加を注文する。それが届いてから、またフェリが話を始めた。
「私はね、あの子のことを考えてるの。あの子はミツヤスがいないと眠れないくらい、ミツヤスに依存してる……まあ、依存とは違うのかもしれないけど、少なくともいないとダメでしょうね」
「それはなんとかしたほうがいいいだろうな」
「…………はあ。違うわよ、全く」
「違う?」
「そう。全然言うべきことが違うのよ。ああ、もう。鈍いのか、それとも考えてないのか……………」
フェリがイライラと酒に手を付ける。
「ねえ、ミツヤス。あなたはアーシェのことをどう思ってるのかしら?」
「どう思ってるって?」
「何、はっきり言わなきゃわかんないの? ずっと一緒にいて、あの子に好意の一つもないわけ? 好きでもなんでもないの? 何であの子と一緒にいるのよ? ぶっ殺すわよ?」
「落ち着け……とりあえず、落ち着け……」
フェリの発言がかなり物騒なものになっている。いかん、かなり酔ってきているような、そんな雰囲気じゃないだろうか。まだそんなに飲んでもいないのに。いや、これが素である可能性も無きにしも非ずというか、普通に元からこういう所はあるけど。流石にこんなところで火の魔法を使ったら燃えるとかそんなレベルで済むだろうか。確実に火事に一直線だ。
「……そうね、ミツヤスを燃やすのは最終手段だわ。ぶっ殺すにしても、アーシェから離れたら、アーシェが独り立ち出来たら、そうなるかしら」
「いや、そもそも殺さないでほしいんだが……」
「そんなことはどうでもいいわ。で、さっきの回答。言いなさい、答えなさい、ぶちまけなさい。アーシェのことをミツヤスはどう思ってるの? 好きなの? 嫌いなの?」
「すぐに答えろって言われても……」
そんな簡単に堪えられる内容じゃないだろう。そもそも…………俺は、アーシェについていっているだけなんだから。
「…………私はね。こう、なんていうか自分でもよくわからないけど。アーシェのことが好きよ」
「っ!?」
「言っておくけど、友人としてじゃないわ。異性……男性? なんて言えばいいかわからないけど、こう、ずっと一緒に言いたい、幸せにしたい、守りたい、助けたい、抱きしめたい、触りたい、色々としたいと思うくらい、大好きなのよ。きっかけはよくわからないけど……多分、決闘の後、あの子と友達になったとき。あの時から、ずっと好きなんだと思う。私は女だから、友達にしかなれないんだろうけどね」
「………………」
フェリの嘘……ではないだろう。こんなことを嘘でもいうはずはない。つまりはこれはフェリの本心だ。同性愛のことを俺自身は別に嫌いというわけでも、否定するわけでもない。ただ、まあ自分がその対象にされると受け入れづらい所はあるだろうけど、それでも誰かがそう思うのを否定する気はないし、その気持ちがあるのを否定するつもりもない。ただ知り合いがそうであるというのは少々複雑な心境ではある。
「変、よね」
「いや。それが悪いと言うことはないと思う。珍しい……普通ではない、のだろうけど」
「そ。まあミツヤスがどう思うかはどうでもいいわ。でも、アーシェには言わないでおいて。これは私の気持ち、ただひた隠しにするしかないものだから」
「……わかった」
アーシェには言うな、というのはおそらくアーシェが知ったらフェリにとってもつらいからだろう。ただ嫌われるだけなら、否定されるだけなら、まだはっきりと離れると言う選択を取れる。でももしアーシェが知れば、おそらくはそのことを気にしていろいろと考えるだろう。否定せず、中途半端に今の関係を続けるか、それとも半端に受け入れるか、結局選択できずに終わってしまうような、難しい状況下に陥ってしまう、そんな感じだ。
「で、ミツヤス。あなたの気持ちを教えて。私は言ったわよ?」
「別にフェリの気持ちを教えろとも言ってないし、自分が言ったから相手が応えるってわけでもない」
だけど…………このままなあなあで済ませて良い問題だろうか。
「……言っておくけど、アーシェはね、多分ミツヤスのことが好きだと思うわ。まあ、愛してるって程かどうかは知らないけど」
「そうか…………」
それを言われても困る。既に、アーシェのそんな気持ちは何となく雰囲気的な察しはしている。流石にここまでずっと一緒で全く何も気づかないって言うのはありえないだろうし。まあアーシェは普段から普段通りなんだけど。
「はあ……俺はアーシェのことを好きだ、と思う。ただこの気持ちがどれほどのものかははっきりしない。好意ではあるけど、それが恋情の類までに発展しているかはちょっとわからない」
「ふーん。まあ、いいわ。一応ちゃんと教えてくれたみたいだし」
「…………フェリの方は、本当にいいのか?」
「………………いいの。あの子と一緒にいられるのは、ただあの子がそれを許してくれているから。もともと私が迷惑をかけたのに、あの子はそれを許してさらに一緒にいさせてくれる。それだけで、私はいいの。いつか、絶対に別れなければならないとしても、それまで私はあの子と一緒にいられるならそれだけで十分……十分なの」
「そうか」
フェリはアーシェが好き、だから一緒にいたいとは思うが、結局のところフェリとアーシェは一緒になれる可能性はほぼない。せめて異性ならばまだ可能性はあったのかもしれないが、社会通念、この世界の常識的に同性愛は一般的ではなく、かなり評判の良くないものだ。文化的な物である以上簡単に改善できるものでもない。だから、フェリは最初からあきらめているのだろう。
「あの子のこと、頼んでいいかしら? 私はどうしようもないけど、ミツヤスなら幸せにできるんじゃない?」
「…………どうなるかはまだわからないけど、考えておく。結局はアーシェが決めることなんだからな」
「……そうね」
…………こればかりは俺やフェリがどうこう言った所で意味はない。結局はアーシェが……ん?
「どうしたのよ?」
「何か……いや、気のせいか」
何かの感じが……だめだ、酔ってちょっと感覚が悪い。いや、こんな話をしているからもあるか? 雰囲気の重さに負けてるのか。駄目だちょっと酔ってダメダメな感じか。
「何よ、とりあえずまだ飲むわよ…………愚痴、聞いていって。あの子には、あの子の前では出せないから」
「本来はそういうのは友人に話すべきかとも思うが。でもアーシェだもんな」
「そうよ。よくわかってるじゃない」
「はいはい。俺でよければ聞くさ。聞くだけだけどな」
俺の方は言うべきこともないので何も言わず、ひたすらフェリの愚痴を聞いて…………酔いつぶれた所をおぶって宿に戻る羽目になった。酔いつぶれているんじゃないって話である。




