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街の中に満ちるアルコールの臭気、酒の匂いは強い。そのあたりで普通に酒が販売しているくらいこの街は酒関連の製品が多い。ケレメレルクと言えば酒、お土産も酒、出される飲み物も…………どぶろくはただ、水を要求しない限りは水代わりに出されるくらいこの街は酒が身近にある場所だ。そういうこともあって、この街出身の人間は基本的に酒に強い。そしてこの街に住もうとした酒に弱い人間はこの酒気に耐えられずすぐに別の街に引っ越すくらいである。まあ、近くにこの街から逃げた人たちが滞在できる小さな街を作っているのでそっちに移動してこの街と付き合っていくことも少なくはないみたいだが。
と、まあそんなケレメレルクに来たのはいいのだが。
「うえー…………私この匂いダメー」
「……まあ、私もあまり好ましくはないけど」
「俺もちょっとな……ダメとは言わないが、ここに滞在するのはきつい」
三人ともおおよそ酒に関して強い、大好きというわけではない。強い順だと俺とフェリがほぼ同じくらい、アーシェが滅茶苦茶弱い、みたいな感じだろうか。今のところ匂いだけでダウンしているのはアーシェだけなので恐らくアーシェはとことん弱いのだと思うのだが。フェリはちょっとむっとした感じではあるが大丈夫そう、俺はあまり強い方ではないなという自覚……というか、想像がある。俺は一応飲んだことないので正確なところはわからない。こちらに来る前ではそもそも飲んではいけない年齢で、こちらに来てからは奴隷商のところで飲めるはずもなく、師匠の場合は感覚が鈍るので飲まないらしく機会はなかった。
ちなみにこの世界……この国では別に年齢で酒を飲むのに制限があるわけではない。一応子供はあまり飲まないように、となっているがだいたいはそれぞれの家庭でどうするか決めている感じではある。
「アーシェ、大丈夫?」
「ごめん、無理かなー……」
「はあ、アーシェはダメそうだし、買い出しには私達だけで行きましょうか」
「ああ、そうするか……早めに次の街に出よう」
「いってらっしゃーい…………」
アーシェを置いて、俺とフェリで旅に必要なものを買い足しにいく。アーシェの鞄がないので買ったものを入れておける袋などの入れ物が必要になるのでそれを出して外に。
「…………酒気が強い」
「しかたないわよ。流石に匂いで酔うほど…………うう、ちょっときついかしら?」
気の強い方であるフェリが弱音を吐くほどだ。結構匂いはきつい。
「……意外と大丈夫そうね。お酒に強いんだったかしら?」
「いや、知らない。ただ酔わないように呼吸法をちょっと」
「教えなさいよ! 今すぐ!」
「ごめん、剣技の一種だから」
「何よそれー!?」
神儀一刀は謎の流派である。歩法のテンカウントみたいな技法もあれば、ちょっと吸う空気を選別し呼吸を抑える技法もある。多分。恐らく。なければ作ればいいのだから……作れれば…………いかん、酔ってるか? もしかして。
「……ここお酒ばかりね」
「まあ、そういう街だからな」
酒粕、酒漬、土産も大体の物は酒の入った壺や樽……いや、誰がそんなの買っていくんだって感じだ。一応ガラス品もあるけど、器の問題でちょっと高いな。まあシャンパンみたいのは樽とか壺はつらいか? 知らないが。
「…………お酒かー。ねえ、ミツヤス」
「……何だ?」
「夜、ちょっと酒場によりましょうか。アーシェは酒気で駄目になってるから早めに寝かせて」
「どういうつもりだ?」
フェリがこんなことを言ってくるのは…………おかしい。もしかして酒気で酔ったのだろうか。
「ちょっと酒を入れて腹割って話をしたい、それだけよ。返事ははいか、わかったで答えなさい」
強い視線でこちらを見てくる。
「それは、肯定以外の返答がないじゃないか……まあいいけどな」
こちらもその視線に視線で応える。本気で話したいことがあるのだろう。何のことかはわからないが、仲間として……それを聞いてやることにする。
「ふみゅー…………おやすみー」
アーシェが寝た。かなり早めな時間だ。まあ酒気が夜になると昼よりきつい。夕方食事をとる時点でうえーと言いながらご飯を食べてるくらいだった。酒に弱いだけで酒が嫌いというわけではないだろうけど……いや、飲んだことはなさそうだからわからないか。アルコールを抜いて飲ませるのも……どうなんだろう? アルコールを抜いた酒はおいしいのか知らないし、そもそもどうやって抜けばいいのか……錬金術でできるか?
「さ、ミツヤス。行くわよ」
「……それは構わないが、どこに行くんだ? 俺はこの街のことを知らないんだが」
「それに関してはここで他人が聞き耳をあまりたてない、知人と話の決着をつけるのにいい店を知らないかって聞いたら教えてくれたお店があるからそこに行くわよ」
「待て。決着ってなんだ?」
ずいぶん物騒な話の内容になりそうな気がするのだが。
「そこは気にしないでいいわよ。私としては、本気でミツヤス……あなたと話をしたいだけだから。別にいきなり喧嘩になったりとか、争いになったりとか、決闘になったりとかそんなことはしないわよ」
「あたりまえだ…………まあ、とりあえず行こうか。あまりここで話をしてるとアーシェが起きるかもしれない」
「そうね、せっかく寝てるんだし」
そうして二人で夜の街に出る。こう言うとちょっといかがわしい意味に聞こえそうな気もするが……別に特にフェリとそういう間柄というわけでもないし、でもこれは見方によれば……いや、他人の眼からどう見られるかを考えても仕方がないし、俺もちょっと妙なことを考えているようだ。
そんなことを考えながら、フェリの案内で教えられた店にたどり着きその中に入る。ちょっと寂しい感じのするバー……みたいな感じだろうか。店自体あまり大きくなく、客の入りも少ない。入った時点で雰囲気の重い所……周りにちらりと視線を向けると、ちょっとわけありっぽい顔ぶれがちらほら。別に悪い意味ではなく、こう男女のあれとか、年の差のあれとかそんな感じの?
まああまり他所に目を向けても失礼なのでそのまま前、いわゆるカウンター席にフェリと隣り合って座り、とりあえず酒を一杯注文する。
「んっ」
「……酒、飲めるのか」
「それはそうでしょ。好みの問題もあるし、酒気が好きってわけでもないけど、飲むなら普通に飲めるわよ。ミツヤスもちょっと飲みなさい。流石にひどく酔われたら話もできなくなるから控えめに頼むわ」
「ああ」
軽く少しだけ飲む。何がいいのかわからない。このアルコールの感じがあまり好きではないタイプなので、やはり酒そのものに苦手意識がある感じだ。まあちょっと飲むくらいならいい。酔う酔わないかはともかく。出されたものはきちんと消費しないと。
「…………で、話っていうのは?」
「…………」
ちょっと酒の入った器をもってひらひらと振る。それを前に置き、フェリが話を始めた。




