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受けられる依頼も少しこなした後、街の中を見回る。流石に山一つ越えてきた街ということもあってアーシェは見たことのないものも多くただ街の中を見て回るだけでも結構楽しいようだ。
「あれってなんだろー?」
「さあな。気になるなら買ってもいいんじゃないか?」
「うーん……いくらでも持っていけるけど無駄に持ち物増やすのもちょっとね……」
鞄は一応限度はある。流石に無限に入る鞄というわけではないが、持っていける量はかなり多い。しかしだからと言って土産物などを買っている余裕があるかというと……なくはないが、無駄使いはし過ぎない方がいい。一年間生活できるだけのお金を残していってくれたようだがだからといってそれは普通に家で過ごす分であり、宿生活や旅生活を考慮していたものではない。
もちろんお金を浪費するだけの生活ではなく、俺の手伝いという形や今回の薬草採取のような冒険者としての活動もしている。本人も冒険者証を持っているのだからそれを活用しない手もないだろう。そういうこともあってお金を稼ぐこともできているのだが、それでもあまり無駄にお金を使えると言うほど余裕があるわけでもないだろう。
「んー……面白そうなの何かないかなあ」
「どんなものだ?」
「やっぱり変わった道具とか?」
「ここにはないだろ」
土産物とかはあるが基本的にこの場所は普通の市場だ。日用品などが主体で珍しい物とか奇妙な物とかそういうものはないだろう。
「骨董品屋とかそういう所の方がいいんじゃないか?」
「うーん……まあそうだよねー」
アーシェと一緒に街の中を回る。市場だけじゃなく店舗の類も見回る。雑貨屋、武器屋、防具屋、鍛冶屋、喫茶店など色々な店舗がある。流石に奴隷商の類はこんな明るい表側にはないな。まあそもそも看板掲げているわけもないか。一応合法であるのがほとんどだが基本裏稼業だし。
「……んー?」
「どうした?」
「何か…………こっち!」
「おい! そっち路地裏だから行くにしても一人で行くなよ!」
アーシェ自体の戦闘能力は低いわけではない。なんだかんだで魔法が使える以上十分以上に戦える。問題は本人の心構えと経験と戦闘における戦い方の問題だろう。武器を持っていてもまともに振れないのでは攻撃が通用しないし、武器を向けることに恐怖すれば攻撃することができない。特にアーシェは人間相手の戦闘はまだダメそうだ。魔物は一応以前倒したし大丈夫そうではあるが。
アーシェに追いついていく。路地裏と言っても大通りではないだけで単なる街の横道だ。これがスラムだったら危険も大きいが単なるちょっと薄暗い路地というくらいならば治安的にまだ比較的安全だ。まあそれでも時々ならず者もいるが。
そんな道だが、大通りに面しているような店以外の店があったりする。それは俗にいう裏の店……ではなく、単に表通りに出すような賑わいを求めるような店ではない隠れた名店の類であったり、単に趣味でやっているだけの店舗であったり、または競合するといけないということでひっそりと店を出しただけであったりが大半である。裏の店は意外と表に出ててわかりづらい形でやっていことが多い。看板は出していないのでその手のコネがないと知らないことの方が多い。まあ普通は裏の店に用事があると言うこともないしそんなものだ。
「ここ!」
「……時計屋? 時計なんて珍しいものを」
この世界でも時計そのものは存在する。もっとも砂時計や日時計のようなものがほとんどで辛うじて絡繰り時計がある程度。その時計もずっと動き続けるようなものでなくねじまき式で時間を知らせる鐘などを基準にして時間を確認できるようにする感じのものだ。あったなあ、そういうのも……なんとなく奴隷商のところで奴隷やっていた時を思い出す。
「というか、なんでいきなり……?」
「えっと……こう、魔力を感じたからかなー」
「魔力か……」
魔力を感じる……まあアーシェは全属性の魔法使いだからそういうこともあるだろう。
「ということは魔道具か」
「そうかも」
「……まあ、店なら入ってみてもいいんじゃないか」
「そうだね! 失礼しまーす!」
物怖じしない所はいいのか悪いのか。アーシェが店の中に入る。それに倣い俺もアーシェの後をついて店に入る。店の中はどことなく今はもう寂れた感じの古い内装をしていた。店においてある商品も十も存在しない感じでまだ店を続けているだけ、といった感じの店だ。
「んー……」
アーシェが商品をあれこれ見ている。しかしそれらの商品からすぐに視線を移す。どうやら目的の物ではないようだ。
「おやおや……客とは珍しいねえ。何か欲しい時計でもあるのかい……?」
店の奥から老婆が現れる。まあ客が来たので対応するということだろう。結構な年、この世界だともう棺桶に片足を突っ込んでいるくらいの年齢だ。
「えっと……すいません、何か魔法の時計みたいなものってあるんですか?」
「魔法の時計……? うちの商品にそんなものあったかねえ…………」
商品を見る限り普通の時計ばかりである。そんな魔法という不思議な力のあるような道具は無さげだ。商品も少ないのですぐに確認できる以上、この店にそういった商品の類はないはず……だがアーシェは何かを感じ取ってここに来たんだろう。
「うーん……おかしいなあ……」
「商品じゃない時計は?」
「え?」
「商品じゃない魔法の時計なら店に置いてないかもしれないぞ」
「あ、そうかも?」
「商品じゃない……あったかねえ…………」
老婆が何かを思い出そうとしている。まあないならないでいいのだが、その場合アーシェの行動が謎すぎるのであってほしい所だ。
「ああ、そういえば……」
老婆が店の奥へと戻っていき、そのまましばらく待っていると何やら一抱えするような大きな円盤を持ってきた。それにはこの世界における普通の時計とは違い、明確な時間が刻まれている時計だった。まあ流石に六十秒六十分十二時間ではないが。ただその円盤には数字が刻まれた円陣が書かれているだけで針の類はない。そもそもねじまき式でもないようだが。
「これはなにやら不思議な力で動いて時間を教えてくれてたんだけどね……もう何年も前に動かなくなってねえ…………」
「わ! これ星光の時計!?」
「星光の時計?」
「確かねー、錬金術で作れるものだよー。星の光で時間を知らせてくれる時計でどんなに放っておいても正確に時間を教えてくれるんだって」
「へえ……でも今は動かないみたいだけど。魔力切れとか何かか?」
錬金術の道具がどういうものかは知らないが普通はこういうのを動かすエネルギーのようなものがあるだろう。それが切れているのだろうか。
「そう言うのはなかったはず……多分どこか壊れちゃってるんじゃないかな」
「そうか……」
不思議道具でも壊れることはあるのか。いや、まあそうだろうな。
「壊れているのかい……それは残念だねえ。まあもう何年も動いていないものだしなくてもいいんだけど……思い出の品だから残念だよ」
老婆が何やら寂しそうに言う。どういう謂れがあるのか知らないが、結構な思い出の品だったのだろう。夫、子供、孫、家族からの貰い物だろうか。
「おばあさん、大丈夫です!」
「何がだい?」
「私が直します!」
「えっ」
アーシェが鞄から色々な道具を出し円盤を弄っている。ドライバーみたいなものから前に持っていた薬草を見つけていた例のルーペに似たような物、ピンセットのようなものに変なねじのようなものから様々だ。
「本当に直せるのか? まああのおばあさんは別に直せなくても気にしなくていいとは言っていたが」
見た目的に言えば普通の女の子のアーシェがこんな専門的な魔道具を直せるとは思えない。だからこその台詞だろう。
「直せますー! 私錬金術師だもん!」
「錬金術ってあの箱で作ってるだけだろ」
鍛冶屋のように直接叩いて作るとか精密な作業をしているのならばまだ納得いくが、あんな箱でぽんっと作るような作り方でどうやって直す知識を持てるのだろう。盛大に疑問である。
「確かに作る時はそうだけど、作った後同じようにして作り直せないよ。だから作った後は手作業で直さなきゃいけないの。こういう細かいのは師匠からきちんと教わってるんだから!」
「へえ。じゃあ同じものを入れて同じものを作り直せないのか」
「私の鞄とかものが入ったまま壊れて取り出せなくなったりするでしょ? そういう場合直接直さないとどうしようもないから。一応作り直すっていうことは特殊な素材を使ってできなくはないけど、そうしたら中身もなくなっちゃって新品になるからやっぱりちゃんと作り直せないとだめなの」
「それは確かに普通に直せないとだめだな」
つまり新品にすることはできるが特殊な素材がいる、またそれまでの経過や歴史などの失う物もあるのか。それはまあしかたないだろう。今回のこれは思い出の品物らしいから仮に素材があっても新品にはしづらいだろう。しかしこういう細かいこともできるのか。普段のアーシェの様子からは想像もつかないな。




