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妄想設定作品集二  作者: 蒼和考雪
alchemist
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1

 人生とは奇妙なものだ。普通に生きていても何があるかわからない。

 俺はある日突然別の世界に移動してしまっていた。何を言っているかと言われるかもしれないが本当のことだ。光景自体は現実の、元の世界とほとんど変わりない。だけど明らかに見たことのない容貌をした動物……魔物の存在を見ればわかる。まあ、世の中そういった見たことのない生き物がいてもおかしくないからそれだけでは何とも言えないが、いきなり見知らぬ場所にいれば少なくとも普通の事態じゃない。

 さらに言えば、その後のこともこの世界が異世界だと言うのを決定するのに重要な情報だった。俺はこの世界に来たあと人もいない、魔物もいない、動物もいない碌になにもない街道沿いにいた。どうしたらいいか、どこにいったらいいか、何をしたらいいか、全然わからない状態でそのまま道沿いに進み…………その途中で人のよさそうな商人と出会った。大きい馬車に乗ってどうかしたのかと訊ねられ、よくわからない、道に迷っている、当てがないなどの話をした。思えばこれは下策だったんだろう。自分の弱みは人に話さない方がいい。その商人はその話を聞き、なら乗っていくと良いと言って俺を馬車に乗せた。そして何か飲むかと飲み物を差し出され、俺はそれを飲んだ。そして次に目覚めた時は牢屋の中だった。まあ、あれだ。商人は商人でも奴隷商人だったわけだ。

 当然奴隷として扱われるのは嫌だったが逃れようもない。そもそも逃げてどこを頼るのか、という話にもなる。奴隷商人もひとをとっ捕まえて奴隷にするあれな奴だったが、奴隷の扱い自体はそこまできついものではなかった。奴隷も商品である以上、健康的な肉体の維持はしなきゃならないし、できるだけ従順な精神性の方がいい。そりゃ反抗的な奴隷を厳しく躾けることはあるのかもしれないが、立場を理解したうえで行動すれば話は違ってくる。当然不快ではあるけれど、状況的には仕方がない。言葉はなぜか通じるけど文字の読み書きもできないし、ある意味奴隷という立場になったせいできちんと教育してもらえるのはありがたくもある。こんな何もわからない世界で着の身着のまま何も知らないままで過ごしてもまともに生活できたか怪しい。この世界での常識というものを持っていないし。

 そうして奴隷として過ごす。いわゆる普通の奴隷はその目的によって扱いが違う。例えば体力のある奴隷は相応に力仕事をメインとしたものに使われる。鉱山奴隷とかいう危険で死にやすいものは大体犯罪者の奴隷を使うみたいで普通の奴隷はあまりそういったことに使われない。まあ、余程売れない、使えない、不良奴隷として戻されてくるみたいな場合は話は別だが。いわゆる性奴隷や男娼の類はその手の魅力の強い奴隷がなる。見た目がいい、体が女性的である、小柄など色々と条件が付けられるが、まあそういう目的で最初から売れる奴隷が基本だ。他にも奴隷の使い方は色々ある。一度買いさえすればずっと使い続けられる従業員ということで商人が買っていくこともあるくらいだ。そして俺はこう言っては何だがこの世界の住人よりはるかに頭がいい。頭の出来がいい、というわけではない。知識の差だ。元の世界のものとは言え、この世界でも技術的学術的物理的な差異というものは大きくないようで、せいぜいが魔法とかそういった非現実的なことがあるくらい……いや、この世界では現実的か。まあ、そういったことはいい。知識のおかげで言葉使いや態度、そういったものを整え、数学的なものも扱える。であれば色々な使い道はある。さらに言えば俺はこの世界の知識に関しては疎いということもあって外に出しづらい。本来なら鉱山奴隷になる危険もあったが、従業員を雇うよりも安いし非合法な方法で手に入れた奴隷というので実は外にも出しにくかったり、かといって鉱山奴隷に出すには能力的にもったいないということもあって奴隷商人に使われる形になった。

 そうして奴隷の管理、商売の会計処理などを手伝わされることになった。まあもともと奴隷にムチ打ったりするようなこともほとんどないし、俺みたいな本来奴隷でない立場から突然奴隷になるみたいな非合法の奴隷というわけでもなく奴隷扱いも問題なく、会計処理も手間自体は大きいが根本的に大雑把で面倒で手間のかかるものから現代風の、一定基準の形式に設定したものにした。受け入れ具合は微妙なところだが、まあ俺がやりやすい限りはそれでいい。あとはそう、召使みたいな住居ごとや客の接待など。接待と言ってもお茶やお茶菓子を運ぶみたいなくらいだが。

 そんな生活を続けて二年。ずっと従業員のような感じで働き続けてきたが、どうやら珍しい客が来るということでしっかりとしたお茶とお茶菓子を出せと言われた。それをこの二年の間に育てた幾らか頭のいい女性奴隷と一緒に出しに行く。


「失礼しますお茶菓子をお持ちいた…………っ!?」


 濃密な死の気配。いや、死というよりは気迫というか、絶対的な雰囲気。恐ろしいまでの剣気。そう、これは戦う者の気配。今まで何度かそういった戦闘系の奴隷とも接したが、そういった存在から感じられたものだ。ただ、それらと比べるとここに満ちているそれはとんでもなく濃密なもの。子供と大人…………蟻と象くらいの差というべきか、それくらいにとんでもない気配が入った部屋の中に満ちていた。

 突然止まった俺を一緒についてきた従業員代わりの女性の奴隷が戸惑っている。彼女はそれに対し全く影響していない様子である。部屋の中にいるだろう奴隷商人も影響を受けていないようだし、そもそも部屋の中には他にも二人いる。そのどちらかがこの気を出しているのかもしれないが、意図的に脅すとかそういう理由で出ているものではないのだろう。だとすれば、何もしていないのにこれだけの気配を持っているその人物はどれほどの化け物なのか。


「おい、何をしているんだ! 申し訳ございません……私の使用人が失礼を……」


 突然止まり、何もできない、動けない。そんな状態で持ってきたお茶とかお茶菓子とかを運ばない。まあ、怒って当然というべきなのだろう。しかしこちらも動こうとも動けないから困ってるんだが。

 それを一人の男性が止める。部屋の中にいた、客側の人間だった。


「気にするな。どうやらかなりいい資質を持った者のようだな」

「……はあ」


 奴隷商人はその男性の言葉に生返事である。男性……剣を携えた、そこそこ高齢気味の男性。剣士……だろうか。彼はこちらに視線を向ける。それだけで心臓をわしづかみにされたような圧迫感。息をするのにも苦しくなる、息をするのを忘れかける、そんな気配。


「……ふむ。資質はある……が、全く育てられていないようだ。もったいない」

「………………」

「商人、これも商品なのか? それとも従業員か?」

「え? ええ、まあ、一応その者も奴隷でして……」

「売ってもらおう」


 その言葉にこちらが緊張する。今まで奴隷として売られることはなかったから奴隷の立場というものがいまいち……ここで奴隷商の手伝いをするくらいだったせいで本当の奴隷の扱いはわからない。今のところ出戻りもほとんどいないし、出戻りから聞くのも難しいだろうし。なので実際に奴隷として売られてどう使われるかは不安がある。はっきり言えば今のままが一番いいのだが……残念ながらそのことに関して俺に決定権はない。


「え、ええ? ですが……」

「何だ、お前は奴隷を売っているのではないのか?」

「一応彼は私が使っている者です。相応に能力はあるので他の奴隷よりもかなり高く売ることになりますが」

「構わん。幾らだ?」

「…………百で」

「いいぞ。それくらいならすぐに払おう」


 じゃらっと金貨を出してくる剣士の男性。驚きである。


「………………」

「どうした?」

「い、いえ。わかりました、彼を売りましょう。その契約に関しては今すぐ用意できるものではないので……」

「後で構わないでしょう、ティザーさん。今は私の商談中だったはずですが?」

「む……ああ、そうだな」


 もう一人の男性……こっちは商人、だと思う。そっちの男性は剣士の男性の話を止めて自分と奴隷商人の話に戻すようだ。それに伴い、俺も出ていくように言われた。気づくと動けるようになっている。その間にお茶とお茶菓子を置いて俺たちは部屋の外に出た。

 そうして、翌日。俺は剣士の男性に売られることになったのである。剣士の男性はどうやら今は商人の護衛をしているということでその護衛をしながら連れて行くということで少々迷惑がられたが、それでも剣士の男性の意見の方が強いようだ。それでしばらく同行し、商人の男性とも別れ、二人で過ごすこととなった。そして、それからのことが剣士の男性にとっては重要なことだったようだ。


「それじゃあ、お前を鍛え上げることにしよう」

「……えっ」

「お前には剣の才能がある。他の人間では得たくとも得られない、絶対的な剣技の才がな。お前は私の剣気を感じ取れた。それはその才によるものだ。だから、お前を鍛え上げる。その才を眠らせたままにするのは惜しいのでな」

「…………」

「お前に拒否権はない。死に物狂いで頑張るといい」


 そうして地獄が始まった。


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