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「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
のしのし、と大きな足音を立てながら四人の近くを過ぎてゆく影がある。その影はまるで人のような姿を持っているが、その頭は魚の頭部であり、体の各部にひれのようなものや鱗が存在している。首元には鰓も存在しており、さらに言えばその身長も通常の人間より高い……いや、身長もそうだが基本的に体の大きさが人間よりも大きいというべきだろう。
魚の顔、ということもあり眼が前にある人間の視界よりもはるかに広い視界を持つが、代わりに嗅覚が落ちており、水の中でなければ聴覚も下がっている。そのせいもあって隠れ方が稚拙である四人であっても見つかることなくやり過ごすことができた。
「行ったか」
「みたいです」
四人、直人、幸也、ガンジス、鵺夜は傍らを通り過ぎた魚人を見送り相談し合う。
夜江たちとそれぞれ四人の二チームになり分かれ道を行き、彼らは途中から床が変化したのを確認した。床だけではなく、壁も肉質的な物からつるりとしたまるで骨を集め構築したかのようなものに変化した。それまでのものよりは気持ち悪さも下がり、足場もしっかりとしているように見えるためかなりマシなように見えたが、代わりに足音が良く響くようである。そうして四人で進んでいると、前のようにある骨の壁の一部がからからと音を立て移動した。それはまるで自動ドアのように。
それに驚いた四人は咄嗟に近くにあった大きな骨の塊の影に隠れ、その様子を見守る。そうしてそこから出てきたのがさっき通り過ぎた魚人の化け物である。
「戦ってよかったんじゃないのか?」
「……まさか。あの体格、まともに当たって勝てるとは思えません」
「無謀です」
「ステータス次第か……いや、せめてまともな武器でもあれば挑みようがあるだろうけどな」
四人いるとはいえ、魚人の体格は明らかに彼らよりも大きい。殴り合いを挑めば一対一であれば必ず打ち負ける。それは武術技能を持っている鵺夜であっても、だ。それくらいに身体能力が優れていると思われる相手、力もタフさも体格的からして大きいとみていいだろう。
「……水の奴らかな」
「にしても、ちょっと化け物過ぎないか? 魚顔ってくらいじゃなかったっけ?」
「知らん。実物を正確に知っているわけじゃないし、あの大きさなら本当に化け物かもわからないし」
「……知ってるんですか?」
「いや、ゲームに出てくる奴は知ってる。だけどここにいるのがそれと一緒かもわからないからどうも言えない」
「そうですか」
あらためて彼らの今いる場所がゲームの世界でないことを再認識した形だろう。もしくはゲーム内といってもゲーム通りに行くとは限らないということか。ゲームプレイヤーであるプレイヤー側とキャラクター側では知識の差があるのは仕方がない。その違いはある意味意識の差を生み、それらの知識の共有をしないのは不信に育つ可能性もある。話を聞いていた鵺夜が半ば流してくれているからこそまだマシな状態と言える。
「……行きましょう。もうかなり離れているみたいですし」
「足音が響くみたいだから慎重に行くぞ」
「了解です」
「……床が嫌だなあ、これ」
化け物の配置からしても足音がする床が罠のように感じる幸也。その言葉に半ば同意する三人であった。
「っ!」
銃声が響く。うるさい。いや、それは今はいい。目の前の相手をどうにかするほうが重要だ。
「効いてる!?」
「……わからん!」
当たってはいるみたいだが効いているかわからない。相手の動きが鈍いから逃げようと思えば逃げられそうなのだが、貧弱な縦方向に伸びた頭の無い人の肉体のようなものから蜘蛛か蟹のような足が壁に伸びて前方への道を塞いでいる状態だ。戻る分には問題なくても先には進みようがない。そのため銃撃でなんとか倒して先に進めるようにしようということである。
幸いにも先ほどの銃声で寄ってくるようなものがいない。ただ、相手に銃が効いている様子が見られない。動きから効いているかどうかなんてわからないというのもまた面倒な一因だ。
「……そもそも本体は何処だと思う?」
「……あの体、でないかもしれないわね」
人のような肉体が本体か、それともそこから生えている足の本体は別に存在しているのか。少なくとも私の知っている知識にこれと同じ化け物の存在はない。有名どころでなければある程度ゲームマスターが自由に化け物を作ってもいい感じもあるが、そういう場合もあるせいで何が敵かはわからない。まあ、だいたい最後は名前のある有名な奴なんだけど。
で、あれがどういう者かはわからない。どちらにせよ通るのであれば倒すしかない。しかし、どうすれば倒せるか。
「どう思う?」
「本体があの中にいるとかはありえるわね。でもー、それならこちらを把握するのはどうやっているのかしらー?」
「……視覚以外か、それとも別に視覚を持っているか…………」
仮に視覚であれば……そういえば、最初は特に動いていなかったはず。こちらが見つけた時点ではただ壁に刺さっていたくらい? まあ、どちらにせよ通るのは無理だったけど。切れ目、音……素通りを狙う。
「ちょっと考えたけど、音に反応しているなら横に逃げるのはありじゃない?」
「横……? 壁の切れ目の向こうか」
もちろんその中を確認して安全を確保しなければならないし、この化け物がどの程度の速度で移動するかも不明。音によって来るとも限らず視覚で獲物を探していればどちらにせよアウト……その場合、どう移動するんだろう? 知恵はどの程度持っているか。仮に化け物がこっちに入ってこようとするのであれば、勝手に開く? 足の移動は?
「……確認して、部屋がどういう感じかしだいになりそうね」
「……倒せるかわからない。回避できるならそうするべきだろう」
近くの壁の切れ目、そこに近づき中を確認する。中にあるのは赤い水たまりが三つ四つくらい。それ以外には何もなく、化け物も特に何かいる様子はない。少々不安はあるけど、あの蟹のような化け物を回避するのにはいいかもしれない。
「大丈夫そう!」
「よし、一端避難しろ。こっちは銃であれをおびき寄せる」
未遊と瑠奈を連れて中に。できるだけ入り口から見えないような壁に沿った所に。外で大きな銃声がして、そのあと学人が部屋の中に入ってい来る。近くに人がいなくなり扉も閉じて、静寂に包まれる。
「………………」
しばらく…………十分ほどはまっただろう。
「もう、行ったと思う?」
「……さあな」
ここでのんびりしてもしかたがない。覚悟を決めて開いた切れ目から外に出る。
「……ほっ」
化け物は切れ目を通り過ぎていた。本当に音に反応しているようだ。
「静かに行った方がいいな」
「ええ、そうね」
「……大丈夫、かな?」
「……っ!」
「未遊?」
未遊が突然叫びそうになって声を押し殺した……ようだ。こちらとしてもその突然の変化に驚き未遊の方を見る。
「どうしたの?」
「な、なんでもない。早く行きましょ」
「…………わかった」
なんとなく、今は聞かない方がいい気がする。何かあったならば教えてくれる。早く行こうというのであれば、そうしたほうがいいということのはず……ああ、そうか。見たら驚いてさっきの未遊みたいになる可能性があるのかもしれない。
しばらく先を進み、ある程度化け物から離れたところまできて未遊に先ほどのことを訊ねた。
「で、未遊。さっき何を見たの?」
「……どうかしたのか?」
「驚いていたみたいですけど……」
「別にー……何でもないわ。今はもう関係ないわよー」
そう言われても気になる。
「気になるから言ってよ。何かあるなら情報の共有はしておかないと」
「……さっきの部屋、赤い水たまりがあったでしょー?」
「ああ、あったな」
「ありました」
「そこから、赤い河童の手のようなものと、脳が見えている人間の目から上の部分だけが水たまりから出てた」
「………………」
「………………」
「………………」
冗談たと思いたいが、このタイミングでわざわざ未遊が冗談を言う必要もない。
「近づいてきたりとかは?」
「してないわー。さすがにこっちに来てたら言うわよ」
「それもそっか」
「赤い水たまりには近づくなってことだな」
服を掴まれる。このタイミングだからどうにも怖いが、流石に瑠奈だろう。恐怖が再燃した感じか。まあ、化け物が近くにいたと言われれば怖い。私だって怖いし気持ち悪いし。見たのが未遊だけでよかったというべきか。瑠奈の正気は結構削られ気味だし、もしみたら金切り声の悲鳴を上げたりしてあの蜘蛛っぽい化け物に気づかれた危険はある。
「さ、化け物もなんとか回避できたし先に行くわよ」
「……ああ」
学人が警戒を強める。やはりどこに何があるか、いるかわからない以上、そうもなるだろう。そうしてくれる方が私たちにとってもありがたい。こちらの戦力は彼頼りなのだから。




