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魔族たち、クラヴァ、魔王が一つの建物に集まっている。以前も行われていた魔族たちの招集ではあるが、今回はかなり徹底して集められている。そのためか彼らの集まっているその場所はかなりざわざわとして賑やか……というよりはむしろうるさい状態である。基本的に各々自由に活動している魔族はこういった招集はあまり好みではない。それゆえに文句や不満などを言っているのである。一人が言えばさrない一人不満を言う者が増え、それがどんどん増えて行きうるさくなるくらいに増えているのである。
魔王はその文句を止めはしない。止めようが止めまいが不満が出るのであれば、一度ここで全部吐ききっておいた方が後に残りにくいだろうということである。また、文句を言わない忍耐強い魔族や本心を隠しておくことを選ぶ頭のいい魔族も把握できるのであればそこそこ利点がある。
そうして周囲がうるさいまましばらくたち、文句もこれ以上言っても仕方がないと思ったのかある程度収まってきた辺りで魔王は招集した理由を話す。
「今回の呼び出しに集まってくれて感謝する。今回お前たちを呼び出したのはここに来ることが許される魔族、その一人が死んだからだ」
「魔族が死んだくらいで呼び出したのか?」
「なんだそれだけかよ」
「どうでもいいことじゃねーか」
同じ魔族と言えども、基本的に魔族は他の魔族とのつながりが薄い。魔物と同じ、血縁以外の存在は敵のようなものなのである。魔族であるからこそ理性的に相対でき、魔王という存在に従っているからこそ形だけでも協力関係を築くことができているが、もし魔王がいない状態で出会えば喧嘩っ早い魔族同士がであれば喧嘩、最悪殺し合いまで発展することだってありうる。
ゆえに魔族が死んだことの報告で呼び出されることは彼らにとっては心からどうでもいい内容である。そのため文句が出てくるのは当然だろう。その言葉を無視して魔王は話を続ける。
「以前に来ていた者には幾らか話したと思うが、王都襲撃の失敗の要因が判明した。一人の人間、その人間が魔物の群れを殲滅した。そしてその噂を聞き、巨人種の魔族からこの場に来ていた者、アルイーラがその人間を探しに王都へ向かった。そしてそのアルイーラが一人の人間と戦い敗北し殺された」
その魔王の言葉を聞いて場がざわつく。アルイーラのことを知っている魔族はその事実があり得ないということで。アルイーラのことを知らない魔族は人間に負けるなんて魔族の面汚しだと。
「……巨人種の魔族なんていたか?」
「そんな奴がいれば覚えているはずだが」
「糞雑魚かよ」
「まさか……ありえない」
「その魔族ってどんな奴だったんだよ? 人間に負けるとか」
「アルイーラは何度か見たことがあると思うが、この場に訪れていた見た目だけで言えば人間の少女と変わらない姿をしていた者だ。以前人間と勘違いした者が殺そうとして逆に肉塊に変えられていたところを覚えている者も少なくないだろう」
ざわり、と一気に空気が変わる。魔族同士の殺し合いは魔王という存在がストッパーとなり現在はほとんど起きない。しかし、以前アルイーラの姿を見て人間がなぜいやがると知能が低く本能的な喧嘩っ早い力自慢の魔族が襲い掛かったことがある。その魔族を一撃で肉塊に変えたのがアルイーラである。その時にすべての魔族がいたわけではないものの、その時のことはかなり噂となって広まっていた。もっともその名前や姿を明確に知っているわけではなかったが。
その噂の存在であるアルイーラが人間に負けた、それはその人間が力、身体能力の高い魔族を一瞬で肉塊に変えることのできる力を持った彼女の攻撃を防ぎ、逆に彼女を倒すことができたということである。それはもはや人間ではないとしか思えない。それほどまでに異常な話である。
「その原因の人間は……たった一人で彼女を倒した。それも素手でだ。これは異常事態、異常存在であると言える。クラヴァよ、わかったことをこの場で述べよ。可能な限り調べ尽くしたのであろう」
「はっ」
クラヴァが魔王に指示され、ルフェについて彼の調べたことを話す。まず王都でのルフェの現在の状態、それからアルイーラとの戦闘からそれより前の魔族発見と魔物の群れの殲滅、さらに前の移動過程での行動。そして、最終的にある村まで到達する。ルフェの生まれた村であり、魔族の放った魔物の群れがいたもののそれらが吹き飛ばされ壊滅状態にされた村でもある。その時の襲撃は別に誰かの命令で行われたことでもなく、よくある村の襲撃であったため情報としては埋もれてしまっていたが、ルフェのことを調べているうちに襲撃でおきた事実が判明した。
その襲撃に対する対処をしたのもまたルフェであり、ルフェの戦績は逆順でアルイーラの討伐、王宮に侵入した魔族の発見と討伐、王都に襲撃を行った魔物の群れの殲滅、ある森に棲んでいたジャイアントの魔物の討伐、村を襲った魔物の群れを壊滅させ残りも追い払ったこと。そして異様なことに、それらを一人で、それも素手で行っているということである。
そこまで調べればルフェという存在の生まれ、山に入ったときに消失したこと、そして襲撃の時に帰ってきたということまでわかりその点に関しても話される。
「……いなくなった、か。その間に強くなったということはありえなくもないが、しかし異様すぎる」
「どうやらその人間がいなくなった場所はその村において神の山と呼ばれている場所であるようで」
「神だとっ!?」
魔王が顔色を変えて叫ぶ。普段から余裕のある態度をとる魔王らしかぬ行動にざわざわと魔族たちが騒ぎ出す。間近にいた報告をしていたクラヴァも驚き報告を中断してしまうくらいである。
「魔王様?」
「ああ……いや、話を続けよ。いや、その人間の話もそうだが神の山との繋がりも話せ」
「はっ」
そして最終的に報告されるのはルフェの消失とその事実、その後の帰還、神の山と神とルフェのことについて。
「……なるほど」
魔王は全ての報告を聞き、静かに呟く。報告の場は大きく騒めいている。内容が荒唐無稽と言ってもいいくらい信じがたいことである。特に神に関しての話まで出てくるとなるとその内容を信じるのは余計に難しいだろう。嘘だ、出鱈目だという声も魔族の一部からは小さく聞こえている。大きな声で叫ばないのは、その内容を信じないとするには少し異様すぎることだ。嘘をつくにしてももう少しましな嘘をつくだろう。
「これより、我ら魔族は人間との戦いを一時中断する。これは魔王として命令する」
「はっ!?」
「なんだそれ!」
「怖気づいたのか魔王のくせに!」
「ふざけるな!」
「勢いに乗っているのに手を引けるかよっ!」
魔王は一方的に人間との戦いを止めることを命令する。当然だがそのことに対する魔族たちの反発は大きい。その言葉に明確に反発しなかった魔族はごくわずかだが、その心内は恐らくは魔王対する批判や文句でいっぱいだっただろう。
それらの声を魔王は聞くが、意見を変えることはない。ただ、一言付け加える。
「別に各々魔族としての活動を止めろとは言わぬ。ただ、我らが魔族として一体となり人間と戦争を行うことをしない、そういうことだ。人間と戦いたいものは好きに戦うと言い。殺し、襲い、滅ぼす。自由に行え。それを止めはせぬ」
「そうさせてもらうぜ!」
「ああ、存分にぶっ殺さあ!」
「腑抜けに付き合ってはおれんわ!」
「……いずれまた」
一部の魔族は突然の魔王の言葉の真意を知りたいところではあるものの、今の空気では難しいだろう。そしてすべての……クラヴァを除くすべての魔族がその場から出て良き、クラヴァと魔王がその場に取り残された。
「魔王様、突然あのようなことを言い出したのは一体……」
「神の元に行った人間は、神の使徒なのだ」
「…………神の使徒?」
「そうだ。神の遣い、神の力を受けし者、人智を超えし力をもつ存在。神の元に行き、神の元で力を得て、地上に戻った人間は恐ろしいまでの力を有する。その力は魔族でも倒しきれるかどうかわからぬほどだ」
「そ、そんな存在が……」
魔王はその存在についての知識、神についての知識を持っている。それゆえに至ったその存在とその結論。
「それだけの存在にまともに戦っても仕方がない。戦うつもりならば魔族の半数は少なくとも滅ぼされるとみていい。それだけの力を有している」
「であれば、どうにかして倒すしかないのでは?」
「いや。彼の者がどれほどの存在であっても人間であることは変わらぬ。人間であれば、百年も生きられぬのが普通だ。寿命だけはどうしようもない。我々はその人間が寿命で死に至るまで待つ。それが最大の妙手だ」
だからこその魔族と人間の戦いの停止である。各々が自由に行動してもいいというのは組織だったものでなければ単なる魔族の襲撃でしかなく、魔族と人間の全面戦争という形にはならないからだ。それさえどうにかできるのならば、神の使徒の動員を防ぐことができる……かもしれない。
「我々は待つ。少なくとも我々は百年で死ぬことはない。彼の者が死んでから、人間と戦争し勝つ。今は待て……」
魔王はあきらめない。人に勝つことを。たとえ百年待つという苦渋の決断を下してでも。
ルフェとアイネが同じ部屋から出てくる。彼らの部屋は同室である以上、同じ部屋から出てくるのは当然なのだが、少々その日の二人は雰囲気がぎくしゃくしている。誰かがその様子を見れば、やったか!? と思うことだろう。
「あ、ルフェさん、アイネさん、おはようございます!」
「あ…………リルツェ、おはよう」
「お、おはよう!」
ルフェとアイネはリルツェに挨拶され、先ほどまでの雰囲気から一転、リルツェに対し戸惑いや困惑の強い状態へと空気が変わる。それでも挨拶をされたのだから挨拶を返す状態だ。その挨拶の後、アイネがリルツェに話しかける。
「そ、その、リルツェ? いつもと変わらないみたいだけど……」
「そうですか? いつもよりも……いつもよりも、嬉しいですよ私」
「嬉しい?」
確かに元気がいい、活力に満ちている。よく知っている人間が見れば嬉しそう、と感じられるだろう。仮に彼女と知り合いでない人間も彼女の様子を見ればなぜかはわからなくともその様子から元気をもらえると感じるほどにリルツェは活き活きとしている。
「そうですよ。だって、好きな人と結ばれたんです。嬉しくないはずもないでしょう」
「………………」
「………………」
ルフェとアイネがその言葉に無言になる。その事実に関して思う所があるからだ。ルフェがおずおずとリルツェに訊ねる。
「なあ、本当によかったのか……あれで?」
「いいんです。ルフェさんはアイネさんが好きで、アイネさんはルフェさんが好き。それは変わらないし、私も変わってほしいと思いません。でも、私もルフェさんは好きです。アイネさんも好きです。だから、二人と一緒にいたい、そう思うのはかまわないでしょう? 私のことをルフェさんにも好きになってもらえれば、それ以上は望みません」
「……そうか」
昨日、なにがあったのか。
ルフェがアルイーラを討伐したのち、その遺体はその場に放置する形となった。アルイーラの遺体は討伐後、その肉体が崩壊しぐずりと溶けて液状にばらけてしまったからである。仮に肉体を維持していたとしても少女の肉体のようにしか見えないので持ち帰りようがない。なので自然のまま自然に食われ消えるのが一番だろうということである。
それはともかく、アルイーラを倒したルフェは精神的に少々憂鬱な状態となっていた。少女のような精神性、死を恐れる幼さを持った恐怖の声、たとえ魔族であってもそのような存在を討伐するのはつらい。獣ですら死に瀕すればその鳴き声に悲痛さが籠ることだろう。それが人間と同じような言葉を話す生物であれば余計にその感情や意思が分かってしまう。
そんなルフェの状態を見て、リルツェとアイネはそれ以前に話し合った、とあることを実行に移した。ある夜、二人でルフェの下に訪れた……夜這ったのである。それも二人で。
何故二人なのか、という点に関しては色々あるのだが、アイネだけではかなり進展が遅くなる点や、それまでにリルツェのようにルフェの強さに惹かれる女性が増える危険性などを考え、早めに行動しようとリルツェがアイネに持ち掛けたのである。当然自分以外の女性と、ということに関してはアイネも言いたいことはあったのだが、前述の他の女性がルフェによって来る可能性などを考え、二人で宿にルフェを縛りつけ他の女性とかかわる機会を減らす、アイネとルフェの関係性に理解があるということなど、様々なところから自分の利点をアピールする。彼女がルフェに好意を持っていることも含め、すべてを明らかにしてアイネを説得したのである。
そしてその結果が二人での夜這いである。気落ちしていることもあってそのままなし崩し的に行ってしまったのが現在だ。
「それじゃあ、私は先に仕事をしていますね。アイネさんもすぐに準備してください」
「わかったわ……」
それだけをアイネに告げ、すぐにリルツェは去っていった。それを見送る二人は苦笑気味である。
「……強いわねえ」
「ははは……じゃあ、俺も力仕事の手伝いをしておくよ」
「ええ、お願い」
そう言ってルフェとアイネも己の仕事を始める。色々な出来事はあったものの、彼らの日常は大きく変わらない。魔王が活動を止め、一時の安寧が訪れたこれからも。もっとも、それを彼、ルフェがおこしたということを誰も知る由はないのだが。




