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「うううあああああああっ!!」
「っ」
肉を打つ強烈な一撃。アルイーラが全力でルフェを殴りつけている。幾ら防御に意識を向けても、流石に何度も攻撃を続けていればアルイーラもどう攻撃すればいいかはわかってくる。しかしその表情に余裕はない。アルイーラがルフェに攻撃するのと同じくルフェもアルイーラに攻撃しているからである。アルイーラの攻撃を避けたり防いだところ、相手の攻撃の隙となっている部分をついてルフェが拳を突き入れる。
アルイーラに戦術はない。ただ本能のまま、今まで自分のしてきた未熟な戦い方しかない。せめてルフェと同じくらいとは言わないが、彼女が倒せないような相手と巡り会って戦っていればまだ機会はあっただろう。しかしアルイーラが初めて会った自分の攻撃が通用しないような相手はルフェだけだ。魔王や魔族であればまだそういう対象はいたかもしれないがそもそも戦闘にはならない。
よってアルイーラは防御能力が極めて低い。その肉体ゆえにルフェの攻撃をまともに受けても死ぬことはないが、しかしその攻撃のダメージはまともに彼女に入る。その状態で戦い続ければ痛みと死の恐怖から冷静さは失われる。元の性格が少女のような幼さを持ったものであるからこそ余計にそうなる。
「はあっ! はあっ!」
「こっちも少しきついか」
ルフェは本気で戦っている。しかし、その己の得た能力を最大限利用した全力での戦いではない。神戯一当は武の技術であり単純な身体能力にもその要素は反映されるが、一番の肝は技である。そう、ルフェが村で放った天拳のような。
このまま続けてもアルイーラを倒せるが、ルフェもその分ボロボロになる。最初から全力を出さなかったのはアルイーラは敵であっても倒すべき相手とは見にくい相手だったからだ。その精神性は少女のよう、幼さを持った子供のものである。魔族であっても子供を容赦なく殺すのはどうなのか。特に最初に話して誘えたせいもあるだろう。
しかし、魔族は魔族だ。そもそも先に襲い掛かってきたのはアルイーラである。そもそも放置していていい相手でもない。変装もしていないのに人間の街に侵入でき、その危険性も彼女を見て理解できる人間はいないだろう。見た目だけは本当に人間の少女のようにしか見えないのだから。もし彼女がもっと大人の精神性を持っていれば、その場合一番危険な魔族であったともいえるだろう。
「死ねっ! 死ねっ! 死んじゃえっ!!」
アルイーラがルフェに殴り掛かる。何度も何度も殴ってくる。そこに込められる意思、感情はルフェを殺したいという攻撃的な欲求ではなく、死にたくないという回避の欲求だ。もし魔族らしい残虐で攻撃的であれば、まだやりやすかったことだろう。ルフェの拳に力がこもる。
「悪いが、本気で……全力で行かせてもらうぞ!」
「っ!? 何!? 速く」
ルフェが加速する。体の動きを制御した歩法。神儀一刀におけるテンカウントと呼ばれる技法とは違う、いわゆる縮地のようなものである。そのままルフェの一撃がアルイーラを撃ち抜く。そのままアルイーラが吹き飛ばされ地面をバウンドする。
「あぐ……」
「天」
ルフェが吹き飛ばされたアルイーラに向け拳を構える。そしてその拳に全力を籠めた。
「っ!」
「拳!」
撃ち抜かれた拳がアルイーラのいた地点を撃ち抜いた。拳の放った力が光となって光線のように空間を、大地の向こうまで突き抜けていく。その光線が消え去った中にアルイーラの姿はない。
「っ! はあ……何それ……」
光線の後にアルイーラの姿が残らないのは当然だろう。なぜならアルイーラは光線が突き抜ける前にその場から離脱したのだから。しかし、その姿に以前と一つ、違う点がある。
「いっああああああああああっ!? 腕があああああああっ!!」
彼女はルフェの拳を完全に回避できたわけではなかった。その腕を光線に持っていかれたのである。腕を失った痛みでごろりと大地に体を落としアルイーラは泣きわめく。回避でき、生き延びることができただけで十分すぎる結果と言えるのだが、しかし彼女と戦っている相手であるルフェは容赦はしない。
「これで終わりにするぞ」
「何で……なんでわたしを殺すの! 嫌だ、死にたくないよ!」
悲痛な声、言葉。相手が人間であれば、ルフェもその言葉を考慮しただろう。間違いを正し、反省を促し、更生を待ったかもしれない。しかしアルイーラは人間ではなく魔族である。ルフェと約束したことを守るかどうかもわからない。魔王という上位者がいる彼女はルフェと約束しても魔王の命令に従わざるを得ないかもしれない。その本能ゆえにたとえ約束しても約束を守り切れないかもしれない。様々なことが考えられるが、そもそもアルイーラに悪いことをしたという意識はない。彼女は魔族であり人間の敵である。そしてルフェ達に人間にとっても魔族は敵なのである。
敵を生かせば将来の禍根となる。アルイーラほど強ければそれは尚更危険なものとなるだろう。ゆえに、ここで決着をつける必要がある。
「天」
「やだああああっ」
「拳!」
無慈悲な一撃が少女の頭を打ちぬいた。それを見届けたのはルフェ、そして遠くから少女を追ってきた一つの存在だけである。
「他の者はおらぬようだな」
「はい。緊急ということで魔王様だけにでもすぐ報告しなければならないと」
前に魔族たちを招集した日からしばらくして、クラヴァが魔王を呼び出した。それは今すぐ伝えたいという内容であり、それに従い魔王がいつも魔族を招集する建物へと訪れる。そこにクラヴァがいたのだが、他の魔族は集まっていない。
「しかし、お前に呼び出されることになるとはな…………いったい何が起きた?」
「それが……先日の会議、あの時出て行った魔族のことに関してです」
「ああ……あの巨人の少女の事か」
魔王は一応魔族の事情をある程度は把握している。もっとも巨人種は目立つゆえに彼女以外が魔王の下に訪れることはなく、殆ど彼らは自分たちの巣であるところに引きこもっている。彼らの食事事情や生活事情ゆえにしかたがないのだが。
「何者かは魔王様の方がお詳しいでしょうが、彼女に関してです」
「ふむ……あの者は確か話を聞いてその対象を探しに行ったのだろう……人間の国の王都に」
「はい、その通りです」
「何かわかったのか?」
例の魔物の群れを倒した人間に関しては魔王としても興味がある……というよりは、とても危険であるとみている。魔物の群れをたった一人で倒せるのだから危険視しない方がおかしいだろう。その人間一人が魔族と人間の戦う場にでるだけで大きく戦況が変化してしまう。できれば優先的に倒すか、倒さないまでもなんとかその存在を封じ込めることができないか、そう考えるべき相手である。
ゆえにクラヴァに命じ情報収集をさせていた。巨人種の少女が会議での話を聞いて面白そうだと興味を持ったことからも彼女がどう動くかも含めて王都を見張らせていたわけである。そして今回クラヴァが緊急ということで呼び出したということは恐らく何かが起きたのだろうと魔王はあたりをつけている。
「……わかったと言えばわかったのですが」
「言葉を濁すな。お前の言葉を疑いはせん。それがどれほど荒唐無稽なことであってもな」
「わかりました。まず、巨人種の少女に関してですが……殺されました」
「…………何?」
魔王は巨人種の少女、その存在がどれほど強いかを知っている。魔王であってもまともに戦うのは出来れば避けたいくらいに身体能力だけで見れば強力な相手である。その少女が逃げ切ることもできずに殺される、彼女がよほど迂闊であったとしても、幼さゆえの無知であったとしてもそれは少々ありえないと言ってもいい。もし逃げれないとするならば、逃げる前に倒しきられたか、それとも動けなくされたか。考えられることはあるものの、少女の強さを考えると似つかわしくはないだろう。
「いったいどうやって倒された?」
「はっ……私の部下、遠視のできる部下に王都の監視をさせておりました。そのものが王都から外に出た人間の姿かたちと同一の少女とそれと一緒に外に出た人間の存在を発見いたしました。その者らは突然少女の方から人間に殴り戦いを始めた、と。その攻撃は大地を抉る強力な破壊の一撃であったと」
「なるほど。その少女とやらが巨人種の少女、魔族の仲間だろう。であれば、その人間とやらは例の話の者か」
「恐らくは……」
実のところ、この報告では単純に外に出たとしか言っていないが実際には壁を飛び越えたという人間離れした身体能力をお互いに披露していたことを部下は見ている。それに関してもきちんと王都を監視している魔族は報告したが、クラヴァはその内容を省いた。魔王がその意味を正確に受け取れるかどうかが分からないからである。魔王も王都の情勢に詳しいわけではないので。
「そして、その物に殺されたと」
「はい。そしてその殺し方なのですが、少女と殴り合っておりました……」
「………………俄かには信じがたい……と言いたいところだが、真実なのだろうな。嘘を言う理由もない」
巨人種の少女の強さを知っていれば知っているほど、それと殴り合う人間という存在を信じたいとは思わないだろう。しかし見た儘を伝えたこの話はそのまますべて事実である。
「最後には光線のようなものを拳から撃ちだして少女の体、腕を削り取ったという話です」
「……なんだそれは。いや、疑っているわけではないが……ないのだが…………」
はっきりと言えば信じたくない話だろう。そんな人間がいてたまるかと。魔族ですらそんなとんでもない存在はそうそういない。魔族の特殊能力でもそんな異常なことはできない。魔王は一つだけそんな異常なものについて心当たりがなくはなかったが。
「クラヴァよ」
「はっ」
「そのものに関して調べよ。どこから来たか、なにをしていたか。ただし手は出すな。襲われそうになれば逃げよ。倒そうとは考えるな。少なくともまともに戦って勝てる相手ではない」
「承知しました」
クラヴァは魔王の言葉を受けルフェに関して調べることになった。もちろん本人が動かず部下を使ってだが。




